夢に、K先生が出てきた。
K先生は、昔習っていた習字の先生で、笑顔がとっても可愛いおばあちゃん先生。
お芋のてんぷらを砂糖でまぶしたお菓子が得意で、ちゃんと習字を練習しに来た生徒にご褒美って、1個ずつくれてた。
半月に1度はお菓子をかってみんなを待っててくれて、私は小さいながらに「先生、ちゃんと採算とれてるのかなー」って心配してた←
わたしは先生が大好きで、誰にも相談できないことでも先生には話してた。
習字は1週間に1度だったから、その週にあったことを先生にいっぱい聞いてもらってた。
先生に一番近い、一番前の席に座るのが大好きだった。
先生に、「もよちゃん、一番前の席にきなさい」って言ってもらうのもうれしかった。

小学1年生の時から習ってた習字の先生が体調を崩して習字をやめることになって、K先生には小学3年生からずっとお世話になってた。小学3年生から高校1年生の夏まで。

高校1年生の夏、地元の施設であるお祭りの帰り、先生は事故にあった。ひき逃げだった。それからしばらく習字はお休みになった。半年くらいかな?先生のお見舞いに行きたかったけど、どこにいるのか教えてもらえなくて、っていうかたぶん面会ができない状態だったんだと思う。

高校2年生から、先生の娘さん夫婦が教室を引き継いで、私も1年間だけお世話になった。
K先生の娘さんは、先生に似て明るくて朗らかでいい先生。だけどやっぱり小さいころから知ってるK先生にまだまだ習字を習いたかったなって、ちょっと思ってる自分がいた。

娘さん夫婦はK先生の話を全然しなかった。
一度だけ「K先生はどうしてますか」って聞いたことがあった。そしたら「よくなってきてるよ。ありがとうね。」って、それだけ言われた。
K先生にあいたくって、あいたくって仕方なかった。
K先生が自宅療養に切り替わったって聞いたとき、「K先生に会ってもいいですか」って聞いたら快く了承してもらえた。


K先生はベッドに横たわっていた。
娘さんの「お母さん、生徒さんだよ」ってことばで起き上がろうとしてくれたけれど、力が入らないみたいだった。K先生の手入れの行き届いた黒い髪は真っ白になっていて、すごく小さくなったなって印象を受けた。「先生、私です、覚えていますか」って聞いたら、「習字頑張りなさいね、ここまでやったんだから、頑張りなさいね」って、そういわれた。
だから、私のことが先生の記憶にあったのかは分からない。多分、忘れてしまったんじゃないかなって思っている。
K先生が、わたしの知っている先生とは違う人になったみたいで、なんだか怖かった。
心の底から、ひき逃げした人を恨んだ。
だってあの事故がなければ、きっと今も先生は元気でいてくれたから。
先生の得意な、砂糖でまぶしたお芋のてんぷらだって作ってくれてたはずだから。
習字をやめても先生とはずっとおつきあいしていきたいっておもっていたし、私の結婚式にだって絶対呼ぶつもりだった。




夢にK先生がでてきてくれて、習字教室の墨の匂いもちゃんとして、先生が書いてくれた手本が壁にかけてあって、すごく懐かしくて切ない気持ちになったから、先生のことを書いておこうと思って文章にしてみたけど、うまくいかない。
先生、どうしているかな。
習字をやめて以来、娘さん夫婦のところにも1度しか顔を出していないからK先生が今どうしているのかも知らない。
先生に会いたいなぁ。
先生に、会いに行こう。