あなたの声を聴くことが出来なくなって何日経つでしょうか
あなたがいた空間は別の誰かに汚染され
でもそれが特段悲しいわけでもなく
どこかほっとしている私もいるのです
もうすぐ雪がちらつくようになるでしょう
あなたの季節にも雪が降るでしょうか
あなたにあたる雪が私にもあたるでしょうか
元気でさえいてくれればいいなんて格好良すぎるでしょう
幸せでさえいてくれればいいなんて悲しすぎるでしょう
桜がちらつくようになったら
あなたにまた会えますか
あなたにあたる桜が私にあたるだけでしょうか
それでもいいと思う私は弱すぎるでしょう
それがいいと思う私は強すぎるでしょう
ただ今でも毎日あなたの淋しそうな顔が
憂い気な声が言葉が気になって仕方ないのです
そしてそれだけがあなたに会える空間なのです
三日ほど前から味の素の瓶が足元に転がっている。
乾いて落ちることすら無くなった中身は母が消費したものだ。
家には三人の同居人がいるが、この瓶は誰にも見えていないらしい。
見えていたのだとしたら、きっと誰かに救ってもらえるだろうに。
悲しい目をしたつもりだったが、ガラスに映ったのは無表情な見慣れた顔だった。
なんのためにセックスするの?そう聞いたはずの声は、
「ねえ牛乳は何で白いんだろうね?」と、彼には聞こえたらしい。
「それは…」耳にすら入らない彼の声は誰が聞いているんだろう。苦しい目をして、床に目を落とした。
瓶がこちらをみつめて、『かなしいねぇ、くるしいねぇ』と、とても楽しげに笑った。
投げつけて壊して血が出るほど踏みにじってやればいい。
激しい目をしたつもりだったが、鏡に映った顔は何の感情もない。
牛乳をトイレに流して嗚咽した。