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訪れなかった未来へ/笹塚夢

茹だるような暑さが続く
猛暑という言葉がこれほどしっくり来る夏はなかなか無いだろう
暑さから逃げようとファッションビルなどに入ると今度は途端に冷やし過ぎている冷房で冷や汗が出てしまう
その点、病院のロビーは実に快適な温度が保たれている
外から建物に入ったばかりだと汗がひくまで少し時間がかかるが、その後は涼しい程度の冷房が丁度良い

白を貴重とした清潔感のあるロビーを歩き、エレベーターホールへ向かう
開かれたエレベーターの扉からは、パンツタイプの白衣を着た看護師が会釈をしながら出て来た
昔はスカートタイプのナース服にナースキャップが看護師のイメージだったが、最近ではスカートタイプでは動きにくいからとパンツタイプの白衣を着用する病院が多い
ナースキャップも衛生的な問題で廃止されている所がほとんどらしい
同乗者の居ないエレベーター内で、自分の高校時代の看護師を思い出す
入院中に見た看護師はみんな可愛らしいスカートタイプのナース服だった
自分も年をとったのだなと、少し遠くを見つめてしまう

目的の階まで乗って来る人もなく、少しの間遠い高校時代に思いを馳せた


いつもならこの時間はリハビリが終わってベッドで死んでいるのか生きているのか判別するのが難しい位じっとしているはずだと思い、病室の扉をノックする
中から抑揚のない声の返事が聞こえたので、扉を横にスライドさせる
衛士はやはり上半身を起こした姿勢でベッドに座っていた


「リハビリ行って来た?」

「ああ」

「今日凄い暑いよ、出た?」

「出てない…窓から見るだけで十分」


無表情のまま、衛士は少しだけ瞳を窓へ移した
そんな事じゃ体力戻んないよと言うと、今でも百合よりはあるからと言われる
有り得る話なので反論出来ない


「昨日弥子ちゃんからメール着た?」

「ああ…今度はスペインだってな」

「スペインなんて日本より暑いだろうね」

「…餓死しないかの方が心配じゃないか?」

「まあね…
でもスペインってイケメン多そうだから羨ましい」


まだまだ若い、探偵を強要されていた少女の顔を思い浮かべる
顔のすぐ横に巨大な骨付き肉を想像してしまうのは不可抗力だと許して欲しい
魔人ネウロがこの世界を去ってから、彼女は長期休暇に海外にほぼ身一つで行ってしまうようになった
『進化し続けたい』という彼女の言葉は、何故だか心の奥をまで響き渡った
彼女のネウロへの感情は、恋でこそないが、誰よりも深い愛情と信頼で出来ているのだと思う


「イケメン…ね」

「ほら、この前のサッカーの中継友達と見たんだけど、スペインの選手イケメン多かったの
私はスイスとドイツもイケメンだったと思う」

「お前…顔が良い男が好きだったっけ?」


衛士が少し冷めた目で私を見る
こいつ無表情とかみんなに言われるけど、滅茶苦茶分かりやすい時あるぞ
入院してからは特に


「んー…何て答えて欲しい?」


にっこりと満面の笑みで返すと、衛士は顔を完全に私とは反対側に向け、これ見よがしにため息をつく
それから再び私に顔を向け、無表情な顔にちょっと怒ったような拗ねたような瞳を見せた


「百合、性格ひん曲がったんじゃない?
昔は素直で可愛かったのに」

「はいはいこんな事で拗ねないで
私が好きになったのは衛士だけですよー」

「……嘘臭い」


またため息をついて、そして頬にキスをひとつ
私の肩に置かれた左手の薬指には、太陽の熱を持ったままの私の指輪と同じ、銀色に輝く指輪がある
















笹塚さん誕生日おめでとうございます
シックスに撃たれず、敵に生かされる人間を観察したいと生き残った未来…的な?
この作品が好きだから捏造はしないぞと思っていましたが、幸せな未来があったって良いじゃないか
何も考えずに書いたから山もオチもない

無神論者の戯言/折原臨也(Dr)

まだ眠気の残る頭を、髪を、優しく撫でられて私の意識はますます遠のきそうになった
瞼を擦って臨也を見ると、初めて見る優しい柔らかい表情をしていて、私は泣きそうになった


「まだ眠たいでしょ?」

「うん、でも、寝たくない」

「うん、そうだね」


臨也は微笑んで瞼の上にキスを落とす
前髪をかき上げて額にも
くすぐったくて、幸せで、私は涙を我慢出来なくなる
目尻に浮かんだ涙を見て、臨也は苦しそうに眉を寄せた


「泣かないでよ」

「…ごめんね」

「お前に泣かれると、どうしていいか分からないから」

「嘘、いつも何でも分かってますって顔してる」

「だから…、お前は特別なんだよ馬鹿」


なんだか恥ずかしくて誤魔化すように冗談を言うと、臨也は拗ねた顔をした
臨也は普段憎たらしい位大人なのに、時々すごく子供みたい
それが可愛くて私から臨也を抱き締めた
腕に臨也の手触りの良い髪が触れる


「…今日、泊まってきなよ」

「無理だよ」

「何で」

「だって、あの子達が心配だもん」

「別に大丈夫でしょ」

「もう、まだ小学生なんだよ?」


私が唇を尖らせて言うと、良くなったはずの臨也の機嫌は急降下した
への字にした唇と睨むような鋭い瞳に見つめられる
それでも剥き出しの背中に触れる手は離れない


「せっかく恋人になれたのに、今日位俺だけに構ってくれても良くない?」

「でも、お父さんもお母さんも出張で居ないの知ってるでしょ」

「あいつらなら大丈夫だってば」

「そんなに言うなら臨也が家に戻ってくればいいじゃない
そしたら私と一緒に居られるしあの子達の面倒も見れる」

「それは無理だよ、分かるだろ
実家で本格的な情報屋稼業なんて出来るわけない」


それに、あいつらが依音を俺に譲ってくれるとは思えないから、と臨也は嫌そうに言った
成人した立派な大人なのになんて我が儘なんだと思う反面、私を独占したいと言ってくれているのが嬉しいだなんて、私は相当頭がイカレているのだろう
それを隠したくて、悟られたくなくて、私はまた意地悪をしたくなる


「ほら、やっぱり私よりも情報屋を取るんじゃない
私より『人間』が好きなんでしょ」

「依音…」

「特別だなんて言っておいて酷い」


臨也の首から腕を離し、ベッドの上で体を反転させた
私の目に映るのは人形みたいに綺麗な臨也の顔じゃなく、飾り気のない部屋の扉になる
どんな反応をするのか待っていると、臨也は私の背中にぎゅっと抱き付いて来た


「ごめん依音
俺は人間が好きだよ、でも依音は特別なんだ
幸せにしたいって思ってる」

「…ほんと?」


私が顔を少し後ろに傾けると、臨也は幸せそうに優しく笑っていた


「うん、神に誓ってもいいよ」

「無神論者なのに?」

「まあね」


悪戯っ子みたいに口角を上げて、臨也は肩を竦めた
私と同じ真っ赤な瞳は、臨也の体中を駆け巡る激情の血の色なんだろう
さっきとは違う、『人間』に見せる酷薄な笑みが浮かぶ
凍てつく視線は、噴き出す鮮血と同じ位熱い
熱くて、私はどろどろに醜く溶けてしまう
溶けて臨也とひとつになるのだ




「神様が居るんなら、俺と依音を兄妹になんてしないだろ?」




真っ赤な瞳が閉じられないまま、兄は妹にキスをした













前に書いた臨也の妹の話の続編
あれ静雄夢ってなってたけど別に妹ちゃんが静雄を好きになって臨也を忘れたいわけでも、静雄が妹ちゃんに惚れたわけでもなかったのです
臨也が妹ちゃんに冷たかったのは兄妹なのに愛してるから

この二人は二人の基準で幸せになると思う

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