屋敷内では何やら騒がしい。いちかは注意深く様子を見ている。


さっきからなんか音がすんごいしてる…。怪人出たのかな。中見えないからわかんないよーっ!



本部でも司令室でモニターを凝視しているが、場所が個人宅な場所だけに外観しかわからない。わかるのは通信から聞こえる状況。


「いちか、何かあったか?」
宇崎が呼び掛ける。

「なんか騒がしい感じしてるんすが、屋敷内部がいまいちわからないんでなんとも言えないです」
「もう少し様子をみていろ。もうすぐ御堂と桐谷が到着する」

「ラジャー」



屋敷内部。憐鶴(れんかく)はメイド服から動きやすい格好へといつの間にか着替えていた。姫島は夫婦に避難を促す。


「怪人が出たようです。ここは憐鶴さんに任せて逃げて下さい」
「逃げろと言われても…」
奥さんは怯えている。

「じゃあ、このリビングダイニングから出ないで下さい。憐鶴が『確実に』仕留めますから」


仕留める?


屋敷内では強化態の怪人が怪人態でどこから出てきたのかわからないが、暴れている。

憐鶴は対怪人用の鉈を出し、容赦ない攻撃を繰り出す。今回は依頼人から屋敷に潜む怪人の「殲滅」と依頼されたのでかなり荒々しい戦い方。血も涙もないくらいに冷酷。

憐鶴に来るターゲットの怪人はほとんど人間態だが、稀に怪人態を相手にすることもある。


憐鶴はその包帯姿の異様な出で立ちとは裏腹に、戦闘力が高い。
辺りに怪人の血が飛び散っても気にせずに攻撃を続けてる。怪人の血の色は赤ではないが、なかなかのスプラッター。

「強化態はしぶといな…」
憐鶴は装備を変え、さらに追い討ちをかける。



御堂から通信が入った。

「いちか!解析班からの情報だ。屋敷内部で強化態と憐鶴が交戦してる」
「内部で交戦中!?」
「お前はそこにいろ」

「ら、ラジャー…」


いちかは恐る恐る様子を見ていたが、音が激しくなりますます内部が気になることに。
彼女は御堂の言葉を聞かず、屋敷へさらに近づいてしまう。半開きの門から入ってしまっていた。庭が見える。広い庭。
大きな窓ガラスが見えた。そこには屋敷の夫婦らしき姿が。避難出来ずにそこにいるしかなかったんだ。

さらに見てみると、音は違う部屋付近から激しく聞こえている。
あの夫婦がいた場所はリビングっぽかった。怪人は別の場所にいる。



いちかは憐鶴と強化態が交戦している現場を見てしまう。なんて激しい戦いなんだ。

窓ガラスが衝撃で割れた。


憐鶴と強化態はそんなことを気にせず、互いにダメージを受けながらも戦闘中。

いちかは憐鶴がこっちを見たような気がしてびくびくしている。怖い。…怖いよーっ!!


闇の執行人だ…この人…!


憐鶴の戦闘スタイルが容赦なくて、いちかは涙目になっている。動けない。



本部では屋敷内部が見えないため、もやもや。


「朝倉ー!例の屋敷の防犯カメラ、ハッキングはまだかーっ!」
「今、神さんがやってるわよ!!」

宇崎と解析班のやり取りが激しい。宇崎は解析班にハッキングを頼んでいた。
屋敷には防犯カメラがある。その映像さえ見れれば内部の様子が少しでもわかるのだが…。

鼎はモニターをずっと見ている。


通信からいちかの悲鳴が聞こえた。映像は屋敷の外観のまま。

「いやあああああ!!」
「どうしたいちか!おい!!」


反応がない。いちかに何があったんだ!?



そのいちかは憐鶴と強化態の戦いに巻き添えを喰らっていた。また割れる窓ガラス。
割れたガラスが飛び散る中、いちかはガラス片で顔の包帯の一部が切れた憐鶴の素顔のほんの一部を見てしまう。あの叫び声はこの悲鳴だった。


憐鶴はレースカーテンをビリビリに破り、切れた包帯の応急処置をした。口元をカーテンで隠している。
彼女的には姫島以外に素顔を一部でも見られたことが屈辱的だったらしい。

いちかはすっかり怯えてしまい、通信どころじゃない。


憐鶴はゆっくりと歩み寄る。

いちかは腰が抜けてしまい、動けない。憐鶴の背後には怪人。
憐鶴は怪人が攻撃するタイミングで、背後を一切見ずにひと突きで倒した。怪人の血しぶきを浴びる憐鶴。


憐鶴はいちかにこんなことを言った。

「あなたは私の素顔を見たこと…黙っていて下さいよ。都合が悪いですから…」


感情なんてない、冷たい言い方だった。鼎とは違う圧を感じる。
姫島は憐鶴を見つけたらしく、駆け寄ってきた。


「憐鶴さん、血まみれじゃないですか…。まさか包帯…切れた…」
「戦闘で切れてしまいました。応急処置はしましたが」

姫島は床を見る。ガラスが飛び散っている。
「ガラスで包帯が切れてしまったんですね。また包帯を巻き直さないといけませんねー。血まみれだと帰れないですし」

いつの間にか憐鶴と姫島は姿を消していた。



解析班が屋敷の防犯カメラのハッキングに成功したのは、戦闘後だった。
それはあまりにも荒々しい戦闘の痕跡に怪人の血が残されていた。憐鶴の姿がない。爆破なしで倒した…?


映像では怯えるいちかに駆け寄る御堂と桐谷の姿も見えた。
「いちか、大丈夫か?何か見たのか…?動けるか?」

御堂が必死に呼び掛ける。

「たいちょー、あたし…見てはいけないものを見てしまったかもしれないです…。タブーを見てしまったような感じがするっす」


見てはいけないもの?


「憐鶴さんの素顔の一部が見えたんですが…あれは…ダメだ。怖くて言えない…!」


憐鶴の素顔の一部?いちかは一体何を見たんだ?


「あの時の悲鳴ってお前だよな?」
「…うん」
「立てるか?」
「…な、なんとか…」

いちかはよろよろと立ち上がった。
ふらふらしながら組織車両へ乗り込むいちか。桐谷はいちかを落ち着かせようとしている。さすがにこの状況なので運転は御堂がすることに。


「何を見たかはわかりませんが、ひとまず落ち着きましょう」
「きりやん…優しいんだね…」

いちかはいつの間にか泣いていた。



本部。いちかは相当ショッキングなものを見たのか、救護所へ行くことになった。
完全にショックを受けた影響で、メンタルがやられてしまってる。彩音が付き添ってあげた。


「あやねえ…私……しばらく立ち直れないかも…」
「いちか、何があったの?」

「あの屋敷で憐鶴さんの素顔を見てしまったの。ほんの一部なんだけど…ずっと脳裏に焼きついてて…」


そこに鼎が入ってきた。

「いちか、お前…大丈夫じゃないだろ。あれから様子が変だぞ」
「うん…きりゅさんも心配してくれてんだ…。
きりゅさん、憐鶴さんのこと…気になっていたんでしょ。たまたまなんだけど素顔の一部、見ちゃって…ショック受けてる…。
しばらく立ち直れないかも」


いちかはずーっとうつむいている。とてもじゃないが、あれは言えるものではない。

憐鶴さんの素顔…一部しか見えなかったけど…あれは…。嘘だよね!?
あんなことあり得るの…。思わず叫んでしまったけど顔が…。顔が……。あれが重度の怪人由来の後遺症だって言うの!?


なぜ憐鶴が、顔全体に頑なに包帯をしているのかわかった…。
世話役の姫島が必要な理由も。



姫島はあの屋敷での戦闘中に、憐鶴と自分の荷物を組織車両へ積み込んでいた。

苗代と赤羽も合流。今回協力者2人は車を用意しただけ。それと運転手だけに呼ばれた。


姫島は車内で協力者2人にこんなことを「強め」に言った。

「ゼノクへ急いで行って。いい、2人とも。
今から憐鶴の包帯を外して取り替えるけど、戦闘後だから時間がかかるの。いい、『素顔は絶対に見ないで』。
ミラーチラ見も厳禁よ。わかった?」
「は、はい…」

苗代と赤羽、姫島にびくびくしている。


この特殊請負人用車両には、通常の組織車両にはないものが積んである。

その1つが小さめの衝立だ。運転席と助手席から、後部座席が見えないようにするためのもの。
姫島が憐鶴の包帯を取り替える時に使用しているが、戦闘後は毎回衝立を使用している。なぜなら替えるのに時間がかかるからだ。怪我をしていることもあるため、時間がかかると推測される。

だから協力者2人は憐鶴の素顔を知らないわけで。


衝立の中では姫島が慎重に憐鶴の包帯を外していた。


「ひどい戦闘だったのね…。血まみれよ。怪我してない?」
「ガラスで切ったかもしれません」

やがて憐鶴の包帯が全て外される。角度の関係と髪の毛で隠れてしまい、素顔はほとんど見えない。
姫島は憐鶴の素顔を見慣れているため動じないが、そもそも姫島はゼノク医療チームの1人なのでこの重度の後遺症を理解していた。


慎重に消毒をする。ガラスで切ったらしく、小さな切り傷が頬に出来ていた。

「いたっ」
「消毒薬が傷に染みたのね、もう消毒は済んだから大丈夫よ。では…新しい包帯を巻くわね」
「綺麗なシルエット、お願いします」

「やっぱり気にしてるのね…顔のシルエット。だって憐鶴さんは…」
「それ以上言わないで下さい。今は苗代さんと赤羽さんがいますから…」

「そうだったわね」



約2週間後。鼎はようやく立ち直ったいちかからあることを聞いた。


「いちか…無理して話さなくてもいいのに」
「憐鶴さんのあれは重度の後遺症なんてもんじゃないです…。あれはあまりにも…やっぱり言えないよ…。
あの包帯の理由がわかってしまってから複雑で…ずっともやもやしてる」

「…そうか……」
鼎は泣きそうになるいちかの頭をぽんぽんした。いちかは少し落ち着いたらしい。

「きりゅさん…」
いちかはようやく顔を上げた。



ゼノク地下・憐鶴の部屋。

憐鶴は点滴を受けていた。厳密には栄養剤の投与だが…。


「姫島さんがいなかったら、私明らかに死んでましたよね?この状態じゃあ、食事すら難しいんですから。ゼノク医療チームには感謝してますよ。
あの…この重度の後遺症、治せるのでしょうか…」
「加賀屋敷・志摩・嵯峨野に聞いてみますよ。私もゼノク医療チームの1人なのでチーフの加賀屋敷がここへ来たら、治療の段取りが出来たと思ってもいいかもしれないです」

「怪人由来の後遺症って治療が難しいとは言いますが、私は…この包帯がいつか外せればいいと思ってます…」
「あの隊員、大丈夫かしら。あなたの素顔をちらっと見てしまった子、いたじゃない…。たまたまだろうけど」

「あれは本部の隊員ですよね。紀柳院司令補佐がいる本部の…。紀柳院鼎…」


同じ組織の表の人間と裏の人間が再び直に会うなんて、到底考えられないが…。

だが、憐鶴は鼎がますます気になる一方なのであった。





めちゃくちゃシーズン2(仮・未定)に直結する感じになってしまった…。

表の司令補佐と裏の執行人。