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どこかの炎の使い手さん
「本当にごめんなさいね」
「助かったよ、ありがとう」
「これくらい大したことないから。いつも店でマルコとか瓶やら樽やら全力で積むしな」
エースがオススメだという場所で花火をみるために屋台の並びを抜けたところで、重たそうな荷台をひくご夫婦に出会った。
目的地近くだからと代わりに荷台を軽々エースが扱うのをみていて、こういう誰にでも無意識に優しくできるところは彼の長所だと再確認する。
まあ、それがエースの短所になるときもあるのだけれど。
「優しい子だね〜」
「そうだな。お嬢さんもよく気がつくようだし」
「だよな〜!自慢の彼女なんだぜ」
「なに言ってんの!私なんて全然。エースの方が」
「二人とも優しくて気がつく子たちだよ。ばあさんの手荷物持ってくれただろ?それにばあさんが歩きやすいように自分は歩きにくい道を選んで歩いてくれた。ありがとう」
にこにこ笑顔でお礼を言われて嬉しくない人なんていないと思うけれど、やっぱりこういうのは照れてしまう。
「そうですよ〜。御礼に冷やしたラムネでもご馳走させて下さいな」
「わ〜!丁度、喉渇いてたんだ!サンキュー!」
「ちょ、そこは遠慮するトコだから!」
「遠慮はいらん。スイカも冷えているぞ。良かったらウチの縁側で花火をみていくといい」
「え、いや、でもそんな…」
「サンキュー!じゃあ、コレ家の中まで運ぶな!」
「あらあら、助かるわ〜」
あなたはこのご夫婦の孫ですか!というツッコミすら言う間もなく(というか、スルーされそうだけど)あれよこれよという間に、まさに田舎のおじいちゃん、おばあちゃんのお家という感じの縁側に通される。
「あの、せめてお手伝いさせて下さい!」
「いいのよ〜、今日のお礼ですもの」
「どうしてもと言うなら、頑張ってくれたあの子に団扇で涼しい風をおくってやってくれ」
有無を言わさぬ笑顔で団扇を差し出されてしまって、大人しく縁側に戻った私はエースに風を送りながら二人を目で追う。
ラムネを用意してくれるおばあさんと、冷やしたスイカを切ってくれるおじいさん。
おばあさんがラムネを出して、おじいさんが用意したお盆に載せる。
おじいさんがスイカを切って、おばあさんが用意したお皿に載せる。
二人はとても自然にお互いを助け合って今まで過ごしていたのだろうと思える。
(なんだかいいな。こういうの)
ドキドキしたり、ワクワクしたり、そういう気持ちだけが恋愛じゃなくて。
ただ二人でいるだけで、お互いに満たされるのならば、それはどんなに素敵なことだろう。
私はエースにとって、そういう存在になれているだろうか。
隣にいるエースは「もうすぐ花火が始める」とウキウキしながら夜空を見上げている。
一緒にいてウキウキはしてくれてる、かな。
私にか、花火にか、はたまた食べ物たちかは不明だけれど。
「お!始まった!」
さすがはエースが野生のカン(?)で見つけた穴場付近なだけあって、夜空の花火を邪魔するものが一切ない。
絵葉書にしたらキレイに仕上がるんだろうな、なんて思いながら見入ってしまう。
「あのさ」
「なぁに?」
続々と打ちあがる花火とともに響きわたる音のせいだから、と自分に言い聞かせて少しだけ距離を縮めてみる。
「おれ、おまえと一緒にいるのが一番楽しいし、嬉しいし、落ち着くっていうか、とにかく、すっげー幸せだから」
……全く、何てことだろう。
どうしてこの人は私の望む言葉が分かってしまうのか。
計算し尽せる程のタイプではなく、本能でやってのけるから猶更タチが悪い。
私、今どんな顔をしていることやら。
「言葉で伝えるとか上手くないから、おまえにちゃんと伝わってるかわかんねーけど」
「ジュウブン伝わってマス」
「何だよ、そのカタコト!」
「真っ赤な顔の人が何を言いますか!」
「それはお互い様だろ」
お願い上手3
(あー、もう何だよ、この可愛いの!)
(あー、もう何、この可愛いの!)
『あけおめ!今年もよろしく〜ってか、白ひげの年賀状みた!?』
新年早々、私の携帯電話は親友の声を響かせる。
相変わらず元気だなぁ、なんて思いつつも今朝届いた年賀状の中から、とびきり気に入った一枚を手に取り出す。
親友への返事は我ながら……惚れた弱みだった。
「うん!エース、かっこいいよね」
居酒屋白ひげからの年賀状は、スタッフ全員が着物姿で写っている。
可愛かったり、綺麗だったり、どうみても笑いを狙っていたり、ダンディーだったり。
普段着なれない浴衣を着て、いつもと違う雰囲気で。
向かう先は二人で初めて行くお祭り。
いわば、慣れない現状。
「なあなあ、何食べる?」
「おおおおぅ……」
女子としては如何なものかと思う感嘆だってわかってるけど、どうしても鏡の前の自分に驚かざるをえない。
久しぶりの浴衣は色鮮やかなだけでなく、デザインも素敵。
髪だって浴衣姿に似合うように、とセットして貰ったし、メイクだっていつもと違う。
寧ろ「誰、これ」な勢いでホントに「化けた」くらいだ。
「化けましたね、私」
目の前の鏡へ近づきながら、自分の頬や髪を触ってみたり、鏡の中にいるのは私だと再確認する。
「こんなに可愛らしいおひいさんが恋人とは。エースには勿体ないねぇ」
「あ、アリガトウゴザイマス。でもホントに着付けとセットとメイクの腕がいいからですから」
思わずカタコトになりながら相変わらず艶のある美人(男前っていうべき?)に頭をさげる。
ホントにホントに全ては今回私の着付けから全てを白ひげで引き受けてくれたイゾウさんのおかげだ。
「ホント勿体ないって!イケメン彼氏とかじゃなくて私と行こうよ!」
「あははは、今度一緒に行こうね!」
折角だから、と私と一緒に浴衣姿になった親友はイゾウさんに負けずとも劣らぬ艶姿。
一緒に行ったら楽しいだろうなと確実に言えるけど、今回ばかりはエースが先約だから申し訳ない。
それでも、エースにズルイ!とか卑怯だ!と文句を言う親友に苦笑するしかないタイミングでノックとともにサッチさんの声が響く。
「よお!……うっわ!二人ともイイ!かなりイイ!二人ともおれと……グエッ!!!」
サッチさんへ鉄拳制裁とともに後ろからはマルコさん。
「邪魔するよい。……イゾウ、手抜きなしの仕事だな」
「当たり前だ。どうだい、エース。おひいさんの浴衣姿は」
そして最後に入ってきたのはエース。
三人とも浴衣に着替えているからか、いつもと違う雰囲気。
「……可愛い。すっげー可愛い!すげー!」
「ありがとって、待って、エース!近い!近いから!」
「えー、いいだろ!浴衣姿のオマエも可愛いな!」
このドストレートな男はどうにかならないものかと思うけど、褒められて嫌な気分にはならないし、何より嬉しい。
しかもニカッとした満面の笑み付きで言われたらノックアウトされたも同然。
「エ、エースもカッコイイよ。浴衣姿、似合ってる」
「え、マジで?惚れ直す?サッチやマルコよりおれの方がカッコイイ?」
なんとか褒め返したものの、キラキラした目で再度迫られると全力でうなずき返すしかなくなる。
……カッコイイのはホントだけど。
「えー!私は全力でマルコさんだけどね!イゾウさんも艶やか!」
「ちょ、おれの立場なさすぎじゃね!?」
「「「諦めろ」」」
「えええっ!?」
サッチさんてば愛されキャラだなぁ、なんて思っているとエースに手を掴まれた。
(オマエはおれだけでいいだろ?)
(え?)
お願い上手
(おれはオマエだけがいいから!)