大河のお姉ちゃん::1
インターホンの音で目が覚めた。遮光カーテンの隙間からキラキラと入り込んでくる日の光に目を細めながら視界が捉えたのは成瀬のどアップで、これだけ鳴っているのにすやすやと寝息を立てていて一向に起きる気配はなかった。
枕元の時計を見れば時計の針は11時を指している。起きるには十分な時間ではあるが明け方近くまで色々と酷使されていた身体はだるくて仕方なかった。
しかしインターホンは鳴りやむ気配を見せない。連打ではないがそれは一定の間隔で押されていて俺の行動を急かしているように聞こえた。
「へーへー今出ますよー」
仕方無しに悪態を付きながらベッドから出て立ちあがれば腰に鈍痛が走る。
昨夜は気を失うようして眠ってしまったが幸い後処理はしてくれていたようなのでそれ以上の悲惨な状態にはならずに安堵した。俺はとりあえず昨日脱がされ放り投げられたままのジャージの下だけを身につけ玄関に向かった。
「ったく、うっせーな……」
怠い身体を叱咤し会長へシフトチェンジ。だが扉を開ければその先に立っている人物のおかげで今まであった身体のだるさと眠気は一瞬にしてどこかへ吹っ飛んだ。
「おはよう」
楽しげな声とともにピース。そして俺硬直。いやいやいやいやいや。俺はまだ夢を見ているのか?
思わず目を擦る。
「……夢?」
「いいえ現実よ、会長さん」
その人物――姉さんはしてやったりといった表情を浮かべながら笑った。
「……とりあえず中入って」
混乱しながらも廊下で喋るわけにもいかないと思い招き入れる。
「お邪魔しまーす」
姉さんは良い部屋住んでんのね、なんて言いながら遠慮の片鱗も見せずにあがった。俺は未だ現状を受け入れるので精一杯でその後ろに続いた。
「で、なんなのいきなり」
とりあえずリビングのソファに座ってもらい俺はその向かいに座った。
「最近会ってないなと思って。調度まとまった休みも取れたから来ちゃった。どうせこのゴールデンウイークも帰ってこないんでしょ」
「まぁ生徒会の仕事があるから」
「そんなこと行って春休みも帰ってこなかったじゃない。千尋も千秋も寂しがってたわよ。それに私だってちゃんと話したかったのに」
学校のこととか、と姉さんはにんまりと笑った。
ああ……やっぱり!
「もう、自分ばっかり楽しんで狡いんだから。……で、編入生とか編入生とか編入生とかは来たの?」
「来てないよ。てか来たらまっ先に報告するって」
「そうよね、そう簡単にはこないわよねー」
姉さんは残念そうに少しだけ顔を曇らせた。まさか本当にそれだけを目的に来たのだろうか。
「やだーそんなわけないじゃない。これよこれよ」
姉さんは足元に置いていたボストンバックを指した。
「それなに。……まさか泊まる気?」
「それこそまっさかー。開けてみ」
言われるままに開けば俺が実家に住んでいたときによく通っていた本屋の紙袋が入っていた。しかも大袋。
「中見ていい?」
「当然よ、あんたに持ってきたんだから」
わくわくしながら紙袋の中を見れば俺は予想通りなその中身に歓喜した。
「すっげー!」
中身は俺の好きな作家さんの漫画や小説だった。しかもそれ以外にも俺好みの表紙がちらほらと入っていた。
「どうよ。大河好みの詰め合わせは」
「最高!……でもなんで?」
「あんたこないだ誕生日だったでしょう。ちょっと遅くなっちゃったけど」
「マジ姉さん神!ありがとう!」
「そうでしょうとも。崇め奉りなさい」
姉さんは演技がかった仕種で足を組み替え踏ん反り返る。俺もそれに倣ってお礼を言った。
「というわけで素晴らしいお姉様のためにお茶でもいれてきてちょうだい」
「了解致しました」
言葉の通りに俺は紅茶をいれるべくキッチンへ向かう。
素晴らしいお土産のおかげで先程の身体の怠さが嘘のようだ。
……あれ身体の怠さ?
「あ!」
「どうかしたの?」
やばい。超やばい。目茶苦茶やばい。
姉さんの背後のドアの奥には成瀬がまだ眠っているのをすっかり忘れていた。今出てこられたら確実に姉さんの妄想の餌食になってしまう。
「あああ、あのさ茶葉切らしてたの忘れてたから、……食堂にでも行かない?さっきのお礼に奢るからさ」
そう自然に。極力冷静に。
姉さんの興味を外に引き付けなくては。
「……食堂?……ふふふ、食堂。いいわね」
そしてそれは見事成功したようで姉さんから不気味な笑いが聞こえてきた。そして俺は姉さんが妄想に浸っている隙に服が置いてある寝室へ入った。
たぶん続きます^ω^