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Records

ボカロの鏡音さんに夢中な文ブログ
更新停止 / 倉庫化しました

※過去の記録へは追記から
more..!

放課後スリル

 誰もいなくなった教室。
強い風にカーテンははためいて。窓際ではにかむ君は綺麗で。
頬に触れれば、燻る熱。溢れ出る愛しさ。

 君が何かを呟く。唇に目がいく。
意味ありげに繰り返される囁き。動作。
そこで、ふと何かに気付いたらしい彼女は青い目で見上げてくる。誘われるまま、唇を重ねた。
他の奴らに見つかるといけないから、軽く触れるだけ。少し開いたままの唇が名残おしい。
そのまま見つめ合っていると、いつもの一団が教室へ入ってきた。
慌てた二人は体を離し、自然な距離を取る。

 ――いいところだったのに。レンは軽く舌打ちをする。

「あらあら、ナニナニ? お邪魔しちゃったー?」
「遅くなってごめんね。二人の分のアイスも買ってきたよ」
 メイコさんは悪びれる様子もなく言ってのけ、笑顔のカイトは両手いっぱいのコンビニのポリ袋を教卓の上に置いた。

「リンちゃんとレンくんはホントに仲いいんだね」
 キスしてるみたいでドキドキしちゃった……と、二人の先輩の後に従う、ミク先輩が言う。そんな彼女の顔は少し赤い。
本当にキスしてたんだけどな。レンは不満に思ったのだが、リンとは血の繋がりがある以上、まさか人前で"付き合ってます"とは言えない。

「おまえらはいい加減距離を覚えなきゃな」
 彼氏出来ないぞーとバカイトが馴れ馴れしくも、リンの頭をわしわしと混ぜた。

「リン、そんなのいらないもーん」
 リンは迷惑そうに髪を整えてから、ぷいとそっぽを向く。
レンは当然のように目が合って、アイコンタクト。リンはにこりと微笑んだ。

「だって。どうします? 弟くん」
 メイコさんが腰に手を当て、ため息をついて見せる。けれどもその目は笑っている。楽しそうだ。
この人、分かっていて尋ねてくるあたり、人が悪いと思う。

「どうするも何も、リンがいらないっていうんなら、いらないんだろ。それでいいじゃん」
 余計な事を言われなくても、リンを離す気なんて、さらさら無かった。

***

 ――リン。

 何度呼びかけても返事はなし。お姫さまは相変わらずの膨れっ面だ。

「なに怒ってんだよ」
「別にっ」
 そうは言うけれどもリンの声は明らかに怒気を孕んでいる。
うわ、めちゃ怒ってんじゃん。
俺、何かしたっけか? と今までの経緯を振り返ってみる。

 初めて二人で遊園地に行って。はしゃいで。いくつかアトラクションに乗ってかなり楽しかった。
そして今は観覧車のゴンドラの中。ゆっくりと上昇を続けていく小さな箱から見える風景は空色が広がり、見下ろしてみれば愛想よく手を振ってくれたスタッフのオッサンは豆粒だ。
そうそう、乗る直前にそのオッサンにリンと兄妹に間違えられて……。

 これか。リンはコンプレックスなのか、年下に見られことを極端に嫌うから。

「心配すんなって。ちゃんとリンは俺よりもお姉ちゃんです」
 するとリンがゆっくりと口を開いた。冷ややかな声だった。


「ねぇ、リンはレンの何?」
「は?」
 何ってそりゃ、生まれたときからずっと一緒の女の子。対とも呼べる大切な相方で……。

「リンはレンのカノジョじゃないの?」
 こんなにもそっくりな姿をしているけれど、違うよ。
きょうだいじゃなくてね、ちゃんと恋人同士に見られたいんだよ。


認識フレーズ

___

title by "HENCE"

昔つかっていた拍手お礼でした
PCサイトの方で更新するのは恥ずかしいので久しぶりにこちらに投稿してみる

***

 人は皆、演技者だ。
あたし達だって例外じゃない。

 両親の前ではおっちょこちょいな姉としっかり者の弟で、学校では喧しい女生徒と静かな男子生徒。常に対極にいるみたいなあたし達だけども周りには総じて仲の良い双子で通っている。
 何も全てが嘘だと言っているわけじゃない。それでも無意識のうちに演じ分けていて、人に見せる一面は確かに少しずつ違うんだ。



だきしめられない


 共働きのあたし達の両親は家を空けることが多かった。今夜だってそうだ。もう幼い頃からのことだから今更文句もなにもないけれど、時々レンと二人だけの夜はどうすれば良いのかわからなくなる。

 テレビを観て笑えばいい。ゲームで遊べばいいじゃん。
そんなことはわかってる。
幼い頃から感情を分け合ってきた弟とくだらない話をしてぎゃあぎゃあ騒ぐのは純粋に楽しかった。

 だけど近頃ふと我に返ることがある。醒めてしまう、とでもいうのだろうか。それまで何を話していたのか、何を話して良いのか急にわからなくなってしまって、途方に暮れてしまう。
隣で笑っているこの男の人は誰?……って馬鹿。レンに決まってるんだけど。わかっていても違和感は拭えないのだ。

 …――カチ、カチ、カチ。
夜に溶ける静寂の中で壁時計が時を刻む音だけが刻一刻と響いている。隣ではコーヒーテーブルの上に散らかっているプレステのコントローラーをそのままにしてレンが眠そうにあくびを噛み殺していた。
まだしばらくはダラダラとしていそうだし、今のうちにお風呂に入っちゃおう。そう決めたあたしはソファーを立ちリビングを後にした。



 当たり前だけどお風呂上がりは暑かった。だけどシャンプーやボディーソープの匂いがふわりと香るこの瞬間は好き。軽く髪を拭き、未だほこほこと湯気を上げる身体にバスタオルを巻き付け考える。

 ――レンは今何してるのかな。
だから何って訳ではないけれど顎に手当て、何となく考えてしまう。いい加減起こさなきゃ、あのままソファーで寝ちゃいそうだ。明日も学校なのにそれはちょっとマズい。あたしは人知れず小さく微笑む。
あぁ見えてレンはけっこう抜けているところがあるから。頼りないあたしでも助けられることはいくらでもあったりする。
 そんなこんなをぼんやりと思っていると、不意にガラガラと脱衣所の扉が開く音がした。驚いたあたしはとっさに音の方を振り返る。

 目に飛び込んできたのは今しがた考えていた弟の姿。ほのかに紅潮した彼の顔を見る限り、故意ではなく事故。そんなことは明らかだ。

「ゴメンッ」
「〜〜ッ!!」
 ドアが勢い良く閉められるとよろけた身体は壁に背をついて、へなへなと床にへたり込んだ。
びっくりした……。
お風呂のせいじゃない。胸の鼓動がバクバクと煩くて、頬が熟れたみたいに熱かった。

 これが他に人がいたらレンの馬鹿ぁ!! なんて大騒ぎしているのだろう。叫んで手当たり次第にものを投げて、もう口なんか聞いてやんないなんて言うのかもしれない。
だけどそんなことはしない。だって恥ずかしいけれど嫌じゃないから。レンなら別に見られてもいい。そう思うのはおかしいことなのかな?
あたしはパジャマを身につけるとバスルームを出た。キッチンで冷えた麦茶をいれてから少し迷って、さっきと同じようにリビングのソファーにいるレンの隣に距離を取って腰掛ける。


「お風呂あがったよー」
「おぅ」
 目線はあさって。どこかぎこちなく返すレンにあたしは先手を打つ。だって、二人の間に変な空気は残したくなかったから。

「レン。さっきの全然気にしてないからね」
 一息で言い切った後、お茶をくい、と飲み込む。するとレンはぱちくりと瞬いた後、

「いやいやいやいや。ちっとは気にしろって!」
 勢い込んで否定の言葉を口にする。

 もう! レンが気にするかなと思って言ったんだよ!
 本当はすごく不満だったけれどそんなことは言わない。レンの言い分が分からないほどあたしは子供じゃないから。女としての自覚ならあいにくとっくの昔に備わっていた。


「んー。じゃあ、リン、すっごく恥ずかしかった! レンはラッキーだったね」
 内心の動揺を気取られない様、努めて平坦に言えばレンが吹き出した。

「うは。なんだよその棒読み」
 レンは続けてアハハと屈託なく笑う。笑いは連鎖する。あまりにも気持ちのよい笑顔だったから、あたしもつられて笑ってしまった。
ひーひー言いながらお腹をよじってひとしきり笑い合うと気がつくとお互いの顔が至近距離にあった。

 すっと真面目な顔になる。
これって好きな子にだけ見せる表情なんだろうな。なんて憶測でしかないけれど。レンの瞳にはただあたしの姿が映っている。まるで吸い込まれる様な碧にあたしだけ、あたしだけなの。

 触れてみたい、そう思った。
今までにも何度かこんなことがあった。お互いの心が近くて、満たされているはずなのに何か物足りなくて。足りないモノを充たすように手を伸ばしたくなる。触れてみたくなる。
だけどここであたしが手を伸ばせば泡沫のこの関係は崩れてしまうのだろう。

 だきしめられない。
姉と弟。女と男。あたし達は危うい均衡の上にいて。一緒に暮らしているからこそ壊せない距離があった。


 さて、何の話をしましょうか?

 二人だけの夜はあまりにも長すぎた。互いに気づいてしまった感情を今更無視することなんて出来るはずもないのに、あたしとレンは愛を語る関係ではない。
かと言ってこの姉弟愛というにはおかしな、充たされた空気を今すぐ断ち切れるほどあたしは強くもなかった。
思考を巡らせる。こうしていても何を話していいのかわからない。



_____

title by "joy"
(秘密恋愛より4題目)

***


 夢を見ているみたいで、まだ信られない。人に好意を寄せられるってこんなに嬉しいことなんだ。
ちょっぴり後ろめたくて、でもくすぐったい。
歌うことがただ楽しくて、何も見えていなかった。……今までずっとレンの気持ちだって考えたことがなかったんだ。



増えていく秘密



 今日、初めて合唱部でソロを貰えた。ずっと頑張ってきたから嬉しいはずなのに、レンのことを思うと素直に喜べなかった。
あたしはレンがいつも隣にいたから歌うのが楽しかったの。でもレンはそうじゃなかったのかなって。
沢山の友達がおめでとう、よかったねって言ってくれた。でも本当にこんな気持ちで歌ってもいいのかな。歌う意味あるのかなって、ありがとうって笑いながら考えた。

 そんなとき、センパイが元気がないねって。誰かが気づいてくれたのは初めてだったから泣きそうになって、話を聞いてもらったら少しだけすっきりして。
そのあと、何故かセンパイから花火大会に誘われて。


 レン以外の男の子と二人きりで出かける約束。ううん、まだ約束じゃない。返事をしてないから。だけど考えといてねって。
 もしあたしがセンパイと花火大会に出かけたら。一緒に花火を見るのなら。
 何かが変わるのかな? それとも変わってしまうのかな――…


 このことはレンには内緒だ。
胸がしくりと痛むけれど、あたしにはあたしだけの気持ちがあるから。レンにあたしの知らない夢があったみたいに。
自身の片割れに気持ちをわかってもらえないことが本当はとてももどかしい。けれども言いたくても言えないことだってある。
 むしろ言えない秘密ばかりが増えて悲しかったけれど、大人になっていくってそういうことなんだって、今は思う。

 切ないけれど、どこか甘美な。
そんな思いを噛み締めるようにあたしは目を閉じると、

「リン、何かあった?」
「え?」
 不意に耳慣れない掠れ声がかかり驚いてしまう。

「だってずっと箸が止まってる」
 真向かいには困惑気味の碧の瞳に金色の髪。それまで黙々とご飯を食べていたはずのレンが苦笑いでこちらを見ていた。
今までのを見られていたのかと思うと恥ずかしい。あたしは咄嗟に照れ笑いを浮かべた後、よく考えながら口を開いた。

「えっとね、色々考えてたの」
「例えばどんな?」
「今度の定演でソロパートを歌えることになったんだ。だから頑張らなきゃーって」
「すごいじゃん。良かったな」
「うん」
 だからレンも一緒に歌おうよ。
つい出てきてしまいそうになる一言はすんでの所で飲み込み、ぎこちなく微笑みかけるとレンもぎこちない笑みで返してくれる。
 けれどもレンはまだ何か問いたげな、納得していないという顔だった。

「……ってホントにそれだけ?」
「うん。そうだよー」
 なんて、嘘。
やはりというか案の定繰り出されたレンの質問に、あたしはいつも通りに答えたつもりでも彼は微妙な何かを感じとったらしい。
一瞬変な顔をしたけれど、"そう"とだけ言って流しにお皿を片付けるとさっさと自室に引っ込んでしまった。

 つまんない。
喧嘩中だし、お互い折れる気ないし、気まずいだけだし。仕方ないのかもしれないけれど。

 ……もうちょっと気にしてくれたって良いじゃん。
自分でも身勝手だって自覚はしてる。けれど、やっぱりおもしろくないものはおもしろくない。
あたしはそれまで手付かずだった小鉢の肉じゃがに箸を突き刺すと乱暴に口の中へほうり込んだ。
そんなこんなで食べる夕御飯は全く美味しくない。けれどもお皿の中身を完全に片付けてしまうと食卓の席から立ち上がった。

「お茶、お茶っと」
 簡単に使った食器を洗い、愛用のマグに冷やした麦茶を注いで自分の部屋に戻る準備をする。
廊下に出て、零れないように慎重に軋む階段を登り始めたところで襖の奥からギターの音色が届き始めた。
最近レンの部屋から聞こえ始めた拙い演奏。繰り返し練習されるスケール。

 ――隠そうとしているみたいだけどバレバレだよ。
 あたしはレンと歌を歌いたい。同じ音楽をつくりたいの。
決してギターを弾いてほしい訳じゃないのよ。

 聞いている方がずっこけてしまうような、てんでダメな演奏技術。けれども奏者はきっと真剣な顔をして楽器と向き合っているのだろう。彼の熱意と気負いが伝わってくるようで。
 何故か心が騒いだ。


___

男女の双子で5題より
title by "1141(七瀬はち乃)"
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