誰もいなくなった教室。
強い風にカーテンははためいて。窓際ではにかむ君は綺麗で。
頬に触れれば、燻る熱。溢れ出る愛しさ。

 君が何かを呟く。唇に目がいく。
意味ありげに繰り返される囁き。動作。
そこで、ふと何かに気付いたらしい彼女は青い目で見上げてくる。誘われるまま、唇を重ねた。
他の奴らに見つかるといけないから、軽く触れるだけ。少し開いたままの唇が名残おしい。
そのまま見つめ合っていると、いつもの一団が教室へ入ってきた。
慌てた二人は体を離し、自然な距離を取る。

 ――いいところだったのに。レンは軽く舌打ちをする。

「あらあら、ナニナニ? お邪魔しちゃったー?」
「遅くなってごめんね。二人の分のアイスも買ってきたよ」
 メイコさんは悪びれる様子もなく言ってのけ、笑顔のカイトは両手いっぱいのコンビニのポリ袋を教卓の上に置いた。

「リンちゃんとレンくんはホントに仲いいんだね」
 キスしてるみたいでドキドキしちゃった……と、二人の先輩の後に従う、ミク先輩が言う。そんな彼女の顔は少し赤い。
本当にキスしてたんだけどな。レンは不満に思ったのだが、リンとは血の繋がりがある以上、まさか人前で"付き合ってます"とは言えない。

「おまえらはいい加減距離を覚えなきゃな」
 彼氏出来ないぞーとバカイトが馴れ馴れしくも、リンの頭をわしわしと混ぜた。

「リン、そんなのいらないもーん」
 リンは迷惑そうに髪を整えてから、ぷいとそっぽを向く。
レンは当然のように目が合って、アイコンタクト。リンはにこりと微笑んだ。

「だって。どうします? 弟くん」
 メイコさんが腰に手を当て、ため息をついて見せる。けれどもその目は笑っている。楽しそうだ。
この人、分かっていて尋ねてくるあたり、人が悪いと思う。

「どうするも何も、リンがいらないっていうんなら、いらないんだろ。それでいいじゃん」
 余計な事を言われなくても、リンを離す気なんて、さらさら無かった。