そんなある日だった
その日俺らは掃除当番も日直もなく、二人で息を弾ませながら走って神社へ向かっていた
たしか子犬をこっそり飼いだしてだいたい1ヶ月といったところだったろうか
秋も深まって肌寒さが身にしみだし、その日俺らは話し合って二人の小遣いを使ってちょっと豪華にファミチキを買った(当時の俺達にとっては、だが)
暖かい食べ物のほうが子犬も嬉しいだろうと思ったのだ
熱かったが、神社につくころには食べやすい温度になるだろうと思ってチキンの入った袋を大事に抱えて走った
走ったのと、子犬の喜ぶ姿を想像したらむしろ暑くて冷たい風が心地良かった
(´<_`*)「はぁ、は…兄者!絶対チキン落とすなよ!」
(*´_ゝ`)「はぁ、はぁ…わかってるって!」
俺らは神社への階段をかけあがった
子犬の喜ぶ顔が見たくて
しかし、そこにあったのは
( ´_ゝ`)「…」
(´<_`;)「…!ぁ、あ…」
子犬の、無惨な姿
近くには赤く染まったバットが転がっていた
恐らくそれで殴られたのだろう
兄者が持っていたビニール袋が地面に落ちた
後で知ったことだが、当時、地域一帯で動物が惨殺される事件が多発していたらしい
放し飼いしてた飼い猫や、野良猫、犬、鳩までもがその標的とされていたそうだ
そういや先生や母者から「早く家に帰ってこい」と言われてた気もしなくもない
どちらにせよ、やんちゃな俺らは話を全く聞いてなかったし、聞いていても子犬の為に外へ出ていただろう
( <_ ;)「あ……う、ぐ、」
( ´_ゝ`)「………」
俺はぐちゃぐちゃにされて、かろうじて犬とわかるそれを見て吐いた
犬とはいえ、初めてグロテスクな死体を見た
散々その場で吐いたあと、俺は泣いた
涙でかすんでいたが確かそのときの兄者は無表情だった
そっとそれに近寄って、それを撫でていた
( ´_ゝ`)「……てる…」
(;<_; )「ぅ、げほっ、あ、にじゃ…?」
( ´_ゝ`)「まだ、生きてる」
(;<_; )「え…」
( ´_ゝ`)「まだ、あたたかい」
確かによく見たら腹と思わしき部分も上下していた
兄者は上着を脱いでその上に子犬を乗せると、歩きだした
一人になりたくなくて慌てて追いかけた
子犬が見えないように、斜め後ろから
(ぅ<_; )「兄者…?どこ行くんだよ」
( ´_ゝ`)「モナー先生のとこ」
モナー先生というのは近所にあった動物病院
以前姉者が猫を連れて帰ったときはこのモナー先生が里親を探してくれた
( _ゝ )「モナー先生、なら…モナー…先生、なら…」
(´<_`;)「兄者…」
後ろから見ても、はっきりわかるほどに兄者は震えていた
声も震えていた、鼻をすする音も聞こえていた
道ですれ違う人がぎょっとしてこちらを見ていた
小さく悲鳴を漏らす人もいた
ぐしゃぐしゃになった動物の死体を血塗れになりながら運ぶ子供なんて、そりゃ驚くだろう
だが兄者はそれらを気にもせず、モナー動物病院へと向かって行った
俺は戸惑いながらそれを追いかけた
病院の扉が引き戸だったので目を反らしながら俺が開けてやる
カランカランとベルの音
( ´∀`)「はいはい、いらっしゃ…」
(;´∀`)「って、うわああああああああ?!な、一体どうしたんだモナ?!」
兄者を見て驚く先生
子犬が、子犬がと呟く兄者
(;´∀`)「こ、いぬ…?あっ…」
モナー先生はなんとなく事情を察したようですぐ診療室へと入れてくれた
診察台の上に寝かされた子犬は、もう動かなかった
(;´∀`)「モナ…もう死んでるモナ…」
(´<_`;)「………」
( _ゝ )「……死んでない…」
(;´∀`)「え?」
( _ゝ )「先生、助けてよ……俺、貯金箱の中身、全部あげるから、おこづかいもお年玉も、これから先全部あげるから」
(;´∀`)「…兄者、くん」
( ;_ゝ;)「だって、だって、ほら、まだ暖かいもん、こんな、暖かいのに…」
兄者がずっと抱いて連れてきたからだろう、それはかろうじてまだ温もりがあった
兄者はそこでやっと大声をあげて泣いた
子犬を一番可愛がってたのは兄者だ
子犬を失って一番辛いのは兄者だ
俺もつられて泣いた
モナー先生は、治療はできないがお墓は作ってくれると言った
電話で呼ばれて母者が来た
血塗れになった兄者の服も、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった俺らの顔も構わずに抱き締めて
俺らが泣き止むまで背中を撫でてくれた