【第55回 2015/08/01】DQ版深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題「6主人公、バーバラ、ドン・モグーラ、おおごえ、ドラゴンメイル、泣き虫
選択お題:6主人公、バーバラ
おかしな話だよね
あなたより大切なものなんて何もないのに、それを選ぶことは間違いだっていうの
《天秤からこぼれ落ちる愛》
静かな夜だった
野宿の見張りにバーバラがそれなら一緒に起きてると2人で焚き火を囲んで
とても静かだった
他の仲間達は皆馬車や焚き火の側で眠り込んでいて、聞こえてくるのはハッサンのいびきとそれにうなされるチャモロの苦しげな声、テリーの姉さん…という寝言にミレーユの寝息
バーバラは何も言わず黙ってレックの隣で星なんか見上げている
なんか喋れよ
いつもはもっと何か言うだろ
声…聞かせろよ
そんな欲求が喉奥まで出かかって意気地なしにも消える
レックを見ないバーバラの横顔をただもどかしく見ているだけしか出来ない
「………」
声が聞きたい。もう2度と聞けなくなるその前に
バーバラが夢の世界にしかいられないと知ったのはついこないだのことだ
自分のことを思い出せないバーバラがようやく自分自身を取り戻せると喜んだその矢先だった
世界を大魔王の驚異から救ったその後の世界にバーバラはいない。その事実はパーティの…特にレックの胸の中に重くのしかかった
もう傍にいられないなんて
もうその声が聞けないなんて
もうその笑顔を見ることが出来ないなんて
考えたくもなかった
(離れるなんて、そんなの嫌だ)
だが旅の終わりは同時に別離を意味している
ならば旅を終わらせなければいい?…否、魔王の驚異は取り除かなくちゃいけない。全世界の皆の為に
(バーバラが夢の世界でだけは存在出来るっていうなら…)
「ダメ、だよ。レック」
凛とした声が響き、レックがはっとして落としかけた視線を上げると
そこには泣いているような、困ったような、けれどもそれを必死に塗りつぶした笑顔でレックを見つめるバーバラがいた
「バーバラ…」
「ダメだよ、言っちゃ」
まるでレックが言おうとしていることを見抜いているかのような物言いで彼女は静かにダメだと言った
「…どうして…」
「だって、言葉にしたら私嬉しくて…絶対にその手をとっちゃうから」
「…なら、とってくれよ。俺は…」
「ダメなの。だって、そうしたらレイドックの国は?レックのお父さんとお母さんは?国の皆はどうなるの?」
詰め寄るバーバラの言葉にレックは返す言葉を失う。そんなの痛いほどにわかっている。自分は次期王位継承者だ、今国を捨てれば皆が困るだろう
そんなのわかっているけれど
「…おかしいよな」
ぽつりと呟いた唇が乾いた笑みを洩らす
「お前より大切なものなんてないのに、お前を選ぶのは間違いだっていうんだ」
大切なものこそ真っ先に手に取られてしかりなのに、世界はそれを許しはしないのだ
「…ひどい矛盾だよな」
膝を抱えて俯いた頭を、柔らかな腕がだきしめる
温かな体温が愛しくて目の奥にツンと痛みが走る。あぁ、泣きたくない。だってバーバラの目にかっこいい自分だけを焼きつけておいて欲しいから
「矛盾なんかじゃないよ」
言い聞かせるような柔らかな声が耳のすぐそばに響く
「大事じゃないものと捨てていいものが同じな訳ないの。どれか一方に順番をつけて大事じゃない方は捨てるの?」
「それは…」
「そんな簡単なものじゃないでしょ」
この無邪気で夢見がちな少女は時折こうして誰よりも大人びたことを口にする
そうして悟るのだ、彼女はもう「覚悟をしている」のだと
「…強いな、バーバラは」
いっそ泣いて喚いて離れたくないって縋ってくれたら、迷わず全てを捨てられたのに
お前はそれすら許してくれないんだな…
愛しくて
強くて
儚いバーバラの強さが
この時だけは少しだけ恨めしく思った
《夏木実寒/kisshinranbu》
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