「守って頂きたい子がいます、あなたの力貸して頂けますか…?」
尼御前と呼ばれる女、平時子はそう綺麗な顔をした青年に告げた。
「…私が断れないと知って、開口一番にそのようなことを仰せになりますか?」
肩を竦めて見せながら、大して困惑した風でもなく青年は瞳を細めて笑ってみせる。
「貴方を陥れようとも私に利益も何もありませんよ…?」
仏に似た穏やかな笑みで返す時子に、青年-ヒノエは両手をあげ「降参だ」と今度こそ肩を竦めてみせた。
「で…天下の尼御前様が守って欲しい子とはどんな子なんだい?子供かい?それとも猫や犬かい?」
先程までの低姿勢はどこへやら、ヒノエは首を回したり伸びをしたりと緊張を解きながら時子に問うた。
少しの反抗も忘れずに。
「子供は子供かもしれませんが、私に力を貸してくれているとても頼り甲斐のある子ですよ」
「…と言うと?」
続きを促すヒノエを手で制すと、膝元に置いていた浅葱色の布の包みから一枚のカードを取り出した。
純白の紙に凹凸で描かれた花模様をあしらったそれは、まるで見合い写真のフレームにも似ている。
「随分と凝ったカードだね…これはイイとこの御嬢様かお坊ちゃんか…はたまたイグアナやカメレオンかな?」
「さぁ…それはご自分で判断なさるところですよ」
つぅ…と細い指先が、ヒノエの前へとカードを押し滑らせた。
「ご覧なさい。そして、あなたのお答えをお聞かせ下さい」
食えない笑みを浮かべる尼御前が少しだけ憎らしくも、ヒノエはゆっくりとカードを手に取った。
そして、
「へぇ…これはこれは」
利き手でカードを開き、中を見た途端に感嘆の声を漏らしていた。思わず弛む口許を悟られぬように、もう一方の手を添えて隠す。
美人というよりは、愛らしい容姿。されど、その瞳は力強い光を放つ翠…長い菫色の髪をもつ女の写真が挟まれていた。
「名前は?」
ちらりと視線を尼御前にやると、彼女は一口茶を啜っており。一息吐くと、淡々と語り始めた
「名前は春日望美。経営のプロ、敏腕の女社長としてその名声は確かなもの」
「貴女との関係は…?」
「ビジネス」
スッパリと断言されては、詮索しようもなく「そうかい」とヒノエは一言だけ返し、カードをジャケットの内ポケットへとしまいこんだ。
「差し上げる…とは、言っていないはずですよ?」
「堅いことはこの際無しですよ、尼御前」
ニッコリと笑むヒノエに一つ息を吐くも、時子は尚も笑っていた。
「では…報酬から差し引かせてもらいましょうか」
菩薩の微笑みよろしく穏やかな微笑と言動にヒノエが眉を寄せたのは言うまでもない。
この女にとって、この写真は本当に大事そうだから。
報酬がそっくりそのままなくなってしまう可能性だって無きにしもあらず…。
やれやれ…と敢えて音にしながら、懐からヒノエはカードを取り出して時子の前へと滑らせた。
「じゃあ…詳しく話を聞こうか」
…続。
書いたら止まらなくなった【女社長×ボディガード】設定。
雑記にてこっそりこそこそ展開致します。
キャラチョイスは紅穏のいんすぴです(笑)尼御前!!!