届けたいのは、この想い。
熊野を想い。望美を想い。
そうして手にしたのは、オレの望んだカタチ。
「ヒノエくん、起きて…?」
ゆさゆさと遠慮がちに揺すり起こす声に目を覚ますと、そこには愛しい彼女がいて。
「のぞ…−っ?!」
名を紡ごうと唇を開いたのも束の間、彼女の唇が重ねられてはそれを遮られてしまった。
―何かがおかしい。
相手はあの、奥手の白龍の神子。口付けをする度に頬を染めて、泣きそうな瞳で見つめてくる娘だ。
勿論、目覚の口付けをしてくれた試しなど一度たりともない。
それがどうしたことか、恥じらいなど欠片もみせずに、……。
暫くして唇を離した彼女は満足げに微笑みを浮かべており、細かいことなどどうでも良くなった。
あぁ、オレの想いがやっと通じたんだ。と望んだ愛のカタチが漸く…
そう、漸く手に出来た。
「望美…」
愛しい名を口にして手を伸ばし、彼女の頬に触れたまでは甘い夢心地だった。そう、それまでは。
指に触れたのは柔らかな肌ではなく、柔らかな毛並み…尖ったような耳が2つ。おまけに「にゃー」と、幻聴と思いたい鳴き声まで聞こえてきた。
―何かがおかしい!?
戦場さながら、意識を覚醒させて飛び起きたオレの瞳に映ったのは神子姫ではなく
「おはようございます、ヒノエ。やっと起きましたか」
ニコニコと温厚そうな胡散臭い笑顔を向ける叔父と、その腕に抱かれた白い子猫。何だろうか、とてつもなく嫌な予感がした。
「望美は…どこだよ」
「おや、君には彼女が見えませんか?ここにいるじゃありませんか」
ほら。
そう言って悪びれもなく差し出された子猫に言葉を失ったのは言うまでもない。
「僕の部屋で調合していた薬を間違って飲んでしまったみたいです。まさか子猫になってしまうなんて……」
「弁慶、テメェ…!!」
「いいんですか?望美さんの前で僕に手を上げても。何の解決にもなりませんよ」
振り上げた手は降ろすしかなく、その代わり白い子猫を奪いとって弁慶の元から離れることにした。
「薬ができたらお持ちしますよ」と言っていたが……正直不安なヒノエであった。
一方、望美はというと…
「大変です望美さん、僕の部屋にあった薬を烏が間違えて持っていったようでヒノエが…!」
と、弁慶に子猫を差し出されていた。
子猫を抱いた二人が鉢合わせするのは、もう少し先の話。
おしまい。