「サクラが好きそうだなと思ったんだけど」
「そう、ですけど」
長くはなかったけど、短くもなかった、共に過ごした日々。
私のことをよくわかってくれたことに、今さら泣きそうで。
でも、それより気にかかるのは。
「隊長、この花の花言葉を知ってたりします?」
声が震えるのは、感動しているからだと思ってほしい。
「ん?あー、実のところ僕は、この花の名前すら知らないんだよね」
最初に言っただろう、君が好きそうだなって思ったって。
ああ、やっぱりね…
「………じゃあ、私はコレ受け取れませんね」
「サクラ?」
「あなたに愛されて幸せ」
「え?」
「アザレアの花言葉です。彼女さんに渡すべきお花なので、私は隊長の気持ちだけ受け取っておきます。こうやって私の誕生日を忘れずに祝ってくれた、その気持ちだけ」
ポロリと堪え切れなかった涙が、ついに零れた。
知らないって残酷。
花言葉を知らない隊長も、私の想いを知らない隊長も。
これが、二度目の誕生日プレゼントだってことも。
チリンと、一度目の誕生日プレゼントが。
私達の間で、小さく、大きく揺れた。
「サクラ、それ…」
万事休す。もう逃げ場なんてない。
完全敗北ね。
「忘れられなくてごめんなさい。いつまでも未練がましくてごめんなさい」
会えない日々は、やっぱり私の味方だった。
忘れさせてはくれなかったけど、こうやって思いしって傷つくことだってなかった。
ただ想っていれば、それだけでそれなりに満たされていた。
想いに応えてほしかったのは、とっくの昔のこと。
隣を歩きたいと再び願うほど、熱くはなれなかった。
片想いというには頼りなくて、愛をただの好意だと片づけるには深すぎた。
ただ、密やかに想わせてほしかった。
「ただ好きだった。それだけです」
もう傷つくのも嫌だった。
心を抉られるように痛むのはもう沢山。
私はそんなに強くなんかないの。
死んじゃいそうなくらいだったんだから。
「サスケは?」
「サスケくん…?」
「ナルトは?サイは?」
「ヤマト隊長?」
懐かしい、匂いと腕と。
「君にはもう、いるんだとばかり」
抱きしめられていると、そう実感した時にはもう。
とっくに涙で、視界がぐしゃぐしゃだった。
「たしかに僕は、すぐに他の人と付き合った。でも、やっぱりダメだった。また一人になっても、思い出すのは彼女のことじゃなかった、君の方だった。君にはもう他の人がいると言い聞かせても…」
「他の人って?」
「サスケが、今君と付き合ってるって…それにちょっと前までは、ナルトやサイとの噂もあったんだよ」
噂?
そんな事実なんてないのに、どこからそんなものが?
「私はあれから、誰とも付き合ってません。付き合えるわけない。だって、最初なんて指輪も外せなかった」
「じゃあ、あの日見た指輪って…」
別れてから、たった一度だけ会いに行った。
「僕はてっきり、君が先に僕を忘れて…」
「ヤマト隊長、そんなふうに思ってたんですか?」
「だって、チラリとしか見えなかったし。まさか、別れた僕とのペアリングをなんて…」
そう言うとベストのポケットを、ヤマト隊長はガザゴソと。
「僕はそれを見て、捨ててしまおうと思った。でも、出来なかった」
コロンと、大きな手に転がってるのは。
黒い模様が入った、私の指輪の片割れ。
「手放すことも出来なくて、いつも持ち歩いてた。情けないとは思いつつ、忘れられなかったのは僕の方だ」
さっきから握りしめたままだった、左手のカードケースから。
私も、指輪をコロリとヤマト隊長の掌に。
あの日は、それぞれ自分ではめてしまったけど。
「今度は、ヤマト隊長が私にはめてください」
もう二度と外せないように。
(もっと素晴らしい何かであると、私は考える)