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青の解放

制服のボタンが窮屈になる
受験生の冬を乗り越えるまで
目隠しをして歩かされるような
千鳥足の醜いアヒルの子は

体育館でダンクシュートを決めて
自分だけの時間割を作った

いつもバスケットシューズを履いて
短くなったズボンの裾を入れ
軽く汗を流すのが日課だ

もうすぐ始まるセンター試験の
◯とXで決める答えのように
人の生き方は選べないけれど

目の前にゴールがあったとしても
それはひとつのハードルに過ぎず
どうせなら鮮やかに飛んでみたい

桜咲く人も散る人も今日は
くたびれた制服を脱ぎ捨てて

僕はネクタイを頭に結び
得意のシュートで羽ばたいてゆく

逃亡者へ

あなたの体が人間だから
真っ白な人魚たちを抱いた後
深い海の底に投げ捨てたんだ

人魚にもなれなかった私は
水の冷たさや体温でさえも
知る事は無いのかも知れないけど

遠い世界の出来事のように
私を囲む壁もまた冷たい

ダンスホールで踊り明かす夜を
幾つ越えても燃え尽きぬ身体は

太陽の下でしか笑えなかった
寂しそうなあなたに声をかけて
同じ気持ちになれた気がしたのに
私は何を見て来たのだろうか?

今だからきっと言える事もある
あなたの心がハートだとしたら
真っ赤な林檎をひとつだけ剥いて
兎の形に変えて走ろう

ララバイ

青白い月のUFOが誘う
空に浮かんだ雲海の向こうに
手を伸ばせばあなたの側に行ける

そんな幻に身を寄せながら
瞳を閉じると転がる太陽は
これが朝だと思い知る瞬間

夢のあとさきは
背中に張り付くあなたの両腕
私を支える枝のバランスを
優しく折ったら笑ってくれた

お腹の形が満月みたいに
大きくなって揺れる窓辺にて

一人で寂しくなった時には
耳元でずっと囁いてくれた
あなたの子守唄を口ずさんで
崩れそうになる膝を抱えた

私の体に宿した命が
あなたの分まで生きてゆけると
さよならとこんにちはの証を
今日もこの場所で唄っているから

互いの幸せを祈りに変えて
ホットミルクにそっと口を付けた

シグナル

アルバイト先の制服のボタン
床に転がして戻れなくなった

子供みたいな言い訳を考え
働く事から逃げようとして
潰れそうになる自分を守る

流れ作業の毎日の中で
夢と向き合う時間の重なりが
少しずつめくられてゆく気がした

アパートのドアのチャイムが鳴ると
君がボタンを付けた制服に
僕のネームプレートが光った

朝が来て君が居てシフトが始まる
オートマティックなこの24時間を
どんなスピードで走って行こう

視界の外れで点滅している
夢という自我を見失わぬように

路上

雪が降ったら外で遊ぼうよ
北風の誘いに耳を澄ませて
飛び回っていた冬のコーラスを
僕はもう唄う事が出来ずに

心の底から沸き立つような
地球との交信が途絶えたのは
数字と情報が踊る世界で
溺れそうになったのかも知れない

コンピュータがどれだけ進んでも
無垢だった心は汚れてゆくし
サンタクロースも信じなくなって
それでもあなたを意識している

ねぇ笑ってよ
その大きな瞳で
ねぇ触ってよ
この冷めた両手を

取り残された深夜の路上に
誰かが作った雪だるまひとつ

木の枝が示す帰り道の中
二人は遠く離れてしまったね
降り積もる雪に転ばぬようにと
北風の声を聞いた気がした
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