話題:母親
小さい頃から、私には母親にかまわれた記憶がない。
一番小さい頃の記憶は、私は一人ラジオを聴きながら、本を読んでいる。
静かに静かに…
なぜなら、母親が隣の部屋で襖を隔て寝ていたからだ。
少しでも声をあげたならば、襖越しから『五月蝿い』と声が飛ぶ。だから、静かに静かに本を読む。
だからなのか、気付いた時には、母に対する特別な気持ちなどなかった。
それが悪化したのは、幼稚園の時。
幼稚園から帰ってきたら、母も生まれたての妹も家にいなかった。
やがて父が家に帰ってきた。
父親は私に『お前は、お母さんに捨てられたんだよ』と告げた。
私は、そうか…とだけ思った。
その後の捜索で母と妹は直ぐに見つかった。
何も感じなかった。
母親に会っても、何も感じなかった。
それ以来、私が母親に何かを感じることはなかった。
家事を強制されてはいたが、だからといって何かを感じることはなかった。
ただ…そうだな…自分が気に入らなかった私の態度を父親に告げ口するのは勘弁して欲しかったかな。
なぜなら、その先に待ってるのは折檻だから。
子供は黙って、親の言う通りに動けばいいんだと。
私は小間使い…マリオネット…親の理想を叶える人形…
私が折檻されてる横で、母親は憮然と見ているだけだった。ざまあみろとでも言いたげな顔で。
なので私は、他人に母親と父親と、どちらか好きかと聞かれた時に必ず父親と答えていた。
父親は、きっと私の将来を考えて折檻しているのだと、その時は思っていたからね。
まあ半分正解、半分ハズレだったけど。

母親を人間じゃないと思ったのは25の時だね。
私が苦しんでいた時に、更に苦しめることを言う両親。だから私は母親に訴えたんだよ。もう止めてくれって。
なんて言ったと思う?
『親は子供に何をしてもいいの。苦しめようが殺そうが』
その後も何か言っていた気がするが、あまりにも、この言葉のインパクトが強すぎて忘れた。この言葉を聞いた時、私は人間じゃないわ、この人って思った。
そう…それでも、母親だから…と思っていた人は、人間の感情をもたない人間じゃない何かだったんだよ…
それ以来、私は母親と絶縁している。
そのことをふと、この間、診察の時にチラッと言ったら、専門家が『そんな頭のおかしい人の言葉は気にしなくていい』と言っていたので、やっぱり頭のおかしい人だったんだな。
もう二度と会う気もない、私を産んだだけの人…
そう…それだけの人なんだよ…
もっとも、私を流産しないかな?とか考えていたらしいとのことなので、そもそも私のことが邪魔だったのだろうな。
小さい頃から、母親に何も感じていなかったのが唯一の救いかもしれないね。