11月7日…
全国模試を明日に控えている私達は、とっととお家に帰って勉強したい所なのだが…
「…最近校内での盗難被害が多数報告されているから…貴重品の自己管理はしっかりしてくれよー…」
さっきから担任の諸注意の話を延々聞かされている。
そんな、私達中学生じゃないんですけど。
と言いたくなるような内容ばかりで聞く気にもなれない。
とりあえず体だけ起こして意識は別な所に飛ばす。
こうしていれば先生にとやかく言われる事はないからだ。
「じゃあ連絡は以上。起立。」
いつの間にか話が終わったようでガタガタとイスが鳴る。
その流れに乗って私も立つ。
担任の気怠そうな号令を合図に次々に生徒が教室から出て行く。
廊下からは
明日の勉強した?とか
一緒に勉強しない?と言った会話が聞こえてくる。
中には明日は模試だというのに今日遊ぼうぜ、という声も聞こえて
おいおい、明日模試だろうよ。
と口から言葉が漏れでそうになり慌てて口をきゅっと結ぶ。
不意にぽんっと肩を叩かれ後ろを向く。
「…蘭!園子も…。どうしたの?」
「今日園子と一緒に勉強するんだけど…真衣もどう?」
「…へ?」
「ちなみに拒否権はないわよ!」
「…えー!?」
「えー!?じゃないわよ!真衣、あんたこないだの中間…理数はちゃんと点数取れてるんでしょうね…?」
園子に言われ全身に冷や汗が辿る。
自慢ではないが、私は理数系で全くと言っていいほど点が取れない。
理科と数学の点数を足した合計点よりも、国語の点数の方が高いぐらいなのだ。
「いくら成績に関係ないからって、何も勉強しないと後で先生に大目玉くらわされるわよ!」
「うーん…。でも、ごめん。今日お兄ちゃんが久しぶりに帰ってくるみたいだから…」
「…え?そうなの?」
「うん。だから…」
今日はごめん!
そう言いながら私は混雑している廊下に駆け込んだ。
「ふぅ。」
校門の前で一息つく。
毎回の事ながら、段々2人に嘘をつくのが辛くなっていく。
私はこの世界に家族などいない。
さっきのお兄ちゃんが帰ってくるというのもうそっぱちだ。
ただ、あのメンバーで勉強はとてもではないがはかどらないだろうとなんとなく思ったから断ったのだ。
(私だって…次の模試落としたらどうなるかわからないんだから…確かに、教えてもらった方が分かるとこも増えていいかもしれないけど…)
「ま、いっか。」
腕時計に目をやる。
時間は3時半。
このまままっすぐ家に帰るのがなんとなく嫌で、気がつかない内に私の足は阿笠博士の家に向かっていた。
博士の家の前に、黄色のビートルと、子供達がいた。
何やら言い争いをしているようだ。
(んー?今日って、確か佐藤刑事と実況検分するんじゃなかったっけなー?違ったっけ?)
そう思いながらも歩を進めていく。
一番最初に私に気付いたのは歩美ちゃんだった。
「…あ、真衣お姉さんだ!」
たったと足音をたてて私の元に走って来る。
「どうしたの?こんな所で…博士にどっかに連れてってもらうの?」
そう私が言い出せば、急に3人組の顔が暗くなった。(この3人組が誰かは分かってくれると嬉しい)
光彦君が、まるで恐る恐るといった感じで口を開いた。
「実は、今日はこれから実況検分に行くので、博士の引率でこれから警視庁に行くはずだったんですけど…」
「博士ががっちり腰になっちまってよー」
「元太君…それを言うならぎっくり腰です。」
「そ、そうか…」
「それで、博士がぎっくり腰になっちゃったから私達だけで行く事にしたんだけど…」
「「不安じゃからわしもついていく!」って聞かないんです…」
「今、哀ちゃんが手当てとか説得してるんだけど…」
みんなの困った顔…
そして、私も困った。
本編じゃ…博士はぎっくり腰になんかなってなかった。
やっぱり、私がこの世界に来たせいでいろんな話の歯車が狂いはじめているんだ…。
「真衣お姉さん、大丈夫?顔青いよ?」
そんなことを考えていると、歩美ちゃんが下から私をのぞき込んできた。
「…大丈夫だよ。ごめんね、変な心配かけちゃって…」
心配かけさせないために、私は精一杯笑った。
…きちんと笑えていただろうか…
「私、いいこと思い付いた。」
「な、なんですか?いいことって…」
光彦君が目をキラキラさせながらそう聞いた。私は胸を張って言い切った。
「私がみんなを引率していけばいいんだよ!そうと決まれば、私博士に話つけてくるね!」
私は走って博士の家に乗り込んだ。
「…博士ー?」
私は博士を探す。
というのも、私は博士の家にまともに入るのが今日が初めてで、尚且つ地味に博士の家が広いことが原因となっている。
いくつかの閉まっているドアの中に僅かに開いているドアを見つけた。
ゆっくりと忍びより耳を当てると中から話し声が聞こえた。
(ここだな…)
私は勢いよくドアを開けた。
「こんにちは、博士と哀ちゃん!」
ドアを開けた先には、うつぶせに寝転がっている博士と湿布を片手に持っている哀ちゃんがいた。
そして、2人とも、少し驚いていた。
「その声は…ま、真衣君か…?」
うつぶせになっているため顔が見えない博士。
「正解でーす!唐突で申し訳ないんですが、子供達の引率は任せて博士は寝ていてください!」
「…へ?」
「歩美ちゃん達から話は聞きました…。確かに、子供達だけで行かせるのは不安かもしれません…。ですから!私がきちんと、責任持って子供達を送り届けます!」
いつの間にか早口でまくし立てていたようで、2人はあ然としている。
「じゃが…」
「私を信じてください!」
私がそういっても、博士は渋ったままだ。
「博士、ここは真衣さんに素直に頼んだ方がいいんじゃない?現に博士は今動けない訳だし…」
沈黙を破ったのは哀ちゃんだった。
博士はそう言われてまた少し黙り込む。
少し間の空いた後
「…わかった。子供達を頼む」
「任せてください!」
その言葉を聞いて私は、哀ちゃんを連れて部屋から出た。
部屋から出た後、みんなの元へ向かう私の足が止まった。
前を歩いていた哀ちゃんが私の方へ振り返る。
「どうかしたの?」
「…うん。いやさ、さっき博士、なかなか私が連れていくっていうのを渋ってたじゃない?…まだ私、信用されてないのかなって思って…。蘭や園子が今の私と同じ事を言ったら、きっと博士は…」
その言葉の続きが言えなかった。
自分で言いながら情けなくなってきた。
私は、俯いたまま動けなかった。
「…彼女達は、小さい頃から博士と面識があったから特別よ。あなたとはまだ知り合って日が浅いし、それに…」
「…?」
「あなたが心配だから、渋ったんじゃないかしら。」
哀ちゃんがこっちを見てふわりと笑う。
…幸せを感じた。
哀ちゃんの一言で私は救われたような気がした。(自分が単純であることは重々承知である)
不思議と、哀ちゃんが発する言葉は一つ一つにきちんと意味があるような気持ちになる。
冷静になった頭の片隅で、高校生が(見た目が)小学生に慰められているという不思議な光景に少し口角が上がりそうになる。
それを悟られる前に私は哀ちゃんに手を差し出す。
「行こうか。」
無言で私の手をとってくれた哀ちゃんに幸せを感じつつ、みんなの待つ外まで歩きだした。
延長戦の始まり
とうとう始まりました爆弾プロ!
ここまで来るのに一年、ホンマに一年かかりましたからね!
この話自体長いので未完になる可能性大ですが、生暖かい目で見守ってくださいねー