Twitterアンケートでのお題、「この空の様に晴れやかで」での小説です。
ほのぼのなお話になりました。
他の選択肢は見事なまでにシリアスだったので、これが選ばれたのは少し意外でした←
シストとアルメイン、フィア嬢も出てくるお話です。
珍しくシスちゃんがギャグというか、ほのぼのパートで書けました。
存分に笑っている彼の姿を書けるのは何だか凄く、幸せです…←
フィア嬢は確かに声をあげては笑いません。
でもよく見てたら、楽しそうに笑ってることは実はあるんですよね。
そんなお話を書きたかったのでした。
そんなわけで、追記からお話です!
「フィアって、あんまり笑わないよな」
ぽつり、と呟く声を聞いて、アルは驚いたように視線をあげた。
人懐っこい金色の瞳が何度も瞬く。
現在午後三時。
ちょうどお茶の時間で、食堂に来ていた所、ちょうどよく知った相手を見つけて、アルは彼と一緒にティータイムを楽しんでいたのだが……唐突に彼が、そんなことを言い出したのである。
「え?」
笑ってますよ?とアルは言う。
それを聞いて発言者……シストは慌てたようにひらひらと手を振って、言った。
「あ、いや、笑ってはいるだろうが……なんていうか」
ん、と彼は悩んだ声をあげる。
なんといったものか……そう言いたげな彼を見て、アルは何となく彼が言わんとしたことを察して、言う。
「ああ、声をあげて笑うことは、確かにあまりないですね」
「そうそう、そういうことだよ」
どうやらアルが思ったことは正解だったらしい。
シストはうんうん、と頷いて、言う。
そして深々と溜息を吐き出しながら、言った。
「何というか……思い切り笑ってるフィアが見てみたいな、ってさ」
フィアのパートナーであるシスト。
彼も、あまりフィアが笑っているところを見たことがないという。
確かに少し微笑んだり苦笑したり、或いは嘲笑のような笑みをうかべているところはみたことがあるが、楽しくて、嬉しくて、声をあげて笑うところはみたことがないと彼は言った。
「確かにそうですね……」
アルも彼の言葉に小さく頷いた。
彼もまた、フィアのそうした笑みはみたことがない。
それが不服だとか不満だということはないけれど……折角だから彼が笑っているところを見て見たいと思うのは、当然のことだろう。
そう、思うけれど……
「でも、フィアってどういう時に笑うんでしょう?」
アルはそう声をあげる。
シストはそれを聞いてぴくりと眉をひきつらせた。
それから、うーん、と考え込む顔をした。
「……確かに」
フィアが笑うシチュエーション。
それはなかなか、思い浮かばない。
「うーん……」
「どうなんだろう……」
二人は暫しそう悩むような声をあげていたのだった。
***
そんな、数時間後のこと。
任務を終え、夕食を取りに来た亜麻色の髪の騎士……フィアの傍に一つ、影が立った。
長い紫の髪が背に揺れる。
彼……シストは幾らか緊張した様子で自身の相棒に声をかけた。
「フィア」
名を呼ばれ、フィアは驚いたように顔を上げる。
それから、声をかけてきた相手……シストを見て不思議そうに首を傾げた。
「何だ?」
そんな深刻そうな顔をして。
フィアはそういって蒼の目を細める。
彼の視線に、シストは一瞬固まって……
「あー……と」
そう声をあげるシスト。
アメジストの瞳が揺れている。
しかもそこから先、何かを言う様子はない。
それをみてフィアは一層怪訝そうな表情を浮かべた。
「え、なんだ?」
どうした。
そういうフィアはもはや心配そうな表情を浮かべている。
シストはひきつった笑みを浮かべると、"何でもない"といって、彼から離れていった。
彼が向かった先にいたのは、アルで。
彼はシストが戻ってきたのを見ると表情を輝かせた。
「どうでした?」
期待したようにそう問いかけるアル。
シストはすまなそうな顔をして、肩を竦めた。
「……悪い、何も上手いことが、思いつかなくて」
呟くようにそういう彼。
アルは金の目を瞬かせた後、苦笑を漏らして、言った。
「……シストさん、ジョークとか苦手そうですもんね」
そう。
先刻シストがフィアに声をかけたのは、昼間のアルとの会話の延長線上。
何か面白いことを言ってフィアを笑わせようとしたのである。
しかし、だ。
「そういうのは俺のキャラじゃないからな……」
シストはそういって溜息を一つ。
ジョークでもいって笑わせようと思ったのだが……まともな話が浮かばなかったのである。
彼の言葉におかしそうに笑って、アルは頷く。
それから、"それに……"と付け足すように言った。
「そもそも多分フィア、ジョークじゃ笑わないと思うし……」
「確かにな」
というかそれならもっと早くいってくれ。
それは置いておいて……
「でもどうしたら笑うんだ、彼奴」
シストはそう呟く。
アルもそれを聞いて考え込んでしまった。
「ジョークじゃ笑わない、普段の生活で笑うところも見たことない……
かといって擽ったり、っていうのは流石に……」
「フィアは女の子ですからね」
流石に擽るのは、ちょっと。
アルもそういう。
それを聞いてシストは苦笑した後、やはり考え込む顔をした。
他に、彼が笑う要因。
それを考えるが……何も浮かばない。
「うーん……」
「笑う方法、笑う方法……」
「何の話をしているんだ」
不意に聞こえた呆れたような声。
それを聞いてシストとアルは驚いて顔を上げた。
そこにはほかでもない、フィアの姿。
怪訝そうな表情を浮かべている彼。
それをみてアルもシストも動揺したように視線を揺らした。
「あ、あぁ……」
「別に、何も……」
「……一体何だというんだ。
シストもさっきから様子がおかしいし」
アルも何か変だし。
そう声をあげるフィアを見て、シストは言った。
「あ、ぁあ……えっと、特に本当に……」
「う、うん、そうそう、何でもないんだよ、うん!」
必死にそう否定する二人。
流石に、"お前を笑わせるための相談していました"なんていったら、おかしいだろう。
そう思って二人は必死になるのである。
「……ふふ」
不意に、笑い声が聞こえた。
え、と声をあげてシストとアルとは視線をフィアの方へ向ける。
フィアは、くすくすと可笑しそうに笑っていた。
必死に笑いを堪えようとしているようだが、堪えられていない。
その笑みはまるで晴れ渡った空の様に明るく、晴れやかで。
細められたサファイアの瞳はまるで、本物の空の様だとそう思った。
シストとアルとはそんな彼を見て、目を見開いている。
「え、フィア……」
「笑って……」
笑っている。
それも、割と盛大に。
シストとアルが大きく目を見開いていると、フィアはくく、と小さく笑い声をこぼしつつ、"すまない"と彼らに詫びた。
「だってお前たち、二人そろって隠しごとが上手くないのに必死に隠そうとしてるもんだから、何だか可笑しくてな」
そういって笑う、フィア。
そんな彼の様子を見て、シストとアルは顔を見合わせた。
それから、気が抜けたように笑う。
彼らを見て、フィアは不思議そうな表情を浮かべた。
それを聞いてシストは小さく笑って、首を振った。
「いや、なんでもない……ははは」
「ふふ、何か僕たち、馬鹿みたい、ですね」
アルもそういって笑う。
必死になって考え込んだ、彼を笑わせる方法。
それなのに、悩むまでもなく彼はこうして笑っている。
いつも通りの、自分たちのやり取りを見て。
何も特別なことは必要なかったのでは、と思う。
いつも通りにしていることが、一番で。
自分たちがこうしていることが、一番で。
―― それで彼が笑ってくれるというのなら……
それが一番、嬉しいかもしれない。
そんなことを思って、シストは笑う。
くすくすと可笑しそうに笑っているシストとアルを見て、フィアは不思議そうに首を傾げていたのだった。
―― この空の様に晴れやかで… ――
(彼の笑顔。
それは晴れ渡った青空を彷彿とさせるもので)
(特別な方法なんて、きっといらなかった。
そう思うと何だか自分たちも嬉しくなってしまって…)