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46度ずれた兄妹…妹編・十九

静かなクラシックが響く店内に仔鞠は居た
家族席用のテーブルに陣取り
赤と黒のノートパソコンをカタカタと休みなく打っている
その間に次々とテーブルにはデザートが並べられて行く
「このお店のデザート全部」
そう仔鞠が言ったのは5、6分前だ
店員が最初のデザートを持って来た時、仔鞠はヘッドホン装備というまさに
『超仕事中です』
言わんばかりの雰囲気をだしていたが
適当に並べちゃって下さいという仔鞠の言葉に従った

「またそんな甘いものばかり…」
ため息をつくように言葉を発したのは仔鞠の待ち人、
高平立貴だった
「立貴君遅ーい、でもお陰で8分仕事できた!」
ヘッドホンを外し褒めて褒めてとまるで犬の様に
きゃっきゃと騒ぐ仔鞠の頭に手を当て
あーがんばったなーなど棒読みかつ遠い目をしながら撫でた
仔鞠にとって8分の仕事は通常の3時間を表す
つまり仔鞠にとって8分待ったは3時間待ったという事になる
お前みたいなのがうちにいればなぁ…と一人ごちた立貴
だが扱いが非常にめんどくさいという事を思い出して口にするのをやめた

「で…呼び出した件なんだが…」
運ばれてきたブラックコーヒーを飲みながら話を始める
「ああ、知ってるよ。霧使(むし)の事でしょ」
一体どこからそれをと目線を合わせると
ノートパソコンがくるりと反転されて画面をこちらにみせてくる
画面に映されていたのは最新の捜査資料
…ちなみにまだ上にも知らせてない、俺も知らない捜査資料まである…
「…またハックしたのか…」
だって最近立貴君構ってくんないし
ぶーと膨れっ面でパフェを食べている
気がつけばテーブルを占拠していたデザートが半分ない
それにこれ…

「…124度でしょ…」

ばそっと呟くように聞こえたそれは明らかに厭味が含まれている
0度という180度
90度という直角
46度という通常の人とずれた兄妹
それに相対する存在、それが124度

「わりぃけど124度の事に関して俺らは手出さないからな」
生チョコケーキを食べていた仔鞠の口調が変わる
「怖いのか、葛葉」
「別に俺様は怖くはないさ、けどな」
仔鞠がまた壊れちまったら今度こそ俺様まで消えちまう
フォークを逆手に持ち替えてミルフィーユをぐさりと勢いよく刺す
荒々しく刺されたミルフィーユは粉々に成りつつ二つに分かれた
「シラけた、帰る」
葛葉はパソコンを鞄にしまうとコートを適当に引っかけ出ていってしまった

残されたのはシフォンケーキに半分に分かれたミルフィーユ
甘さをコーヒーの苦さで掻き消しながら
立貴はテーブルに万札を置いて店を出た

ある寒い日の事だった

RZP…Reverse Zero Project

ショッピングモールの雑貨コーナーを見てふと気がついた
今日何買いに来たんだっけ?
周りには興味を引くアクセサリーなんかがたくさんある
けど、買いたいものは違う
本屋に入った辺りで「買い物に来た」のではなく
「買う物を探しに来た」んだとわかった
その時点で私の買い物欲は消えた
冷静に考えれば周りにあるもの持ってても意味ないし
むしろ邪魔だし

ファーストフードで夜食を摘んで
ドーナツを適当に包んでもらって
それをかじりながらふらふらと家路につく
自作でお気に入りの蝶をモチーフにしたヘッドホンが
通り過ぎていく車のライトに照らさてメタリックブラックとゴールドがキラキラと煌めいた

すこし街外れにある古びたマンションの一室
半廃墟状態で住んでるのは私と相棒が一人…いや一匹
白と黒のマスクをしたような柄の金目猫
三年前のクリスマスイヴ、私が此処に移り住んだ時にひょっこりやってきた
サンタなんか信じないけどとりあえず名前はイヴとつけた

寂れたマンションの玄関ホール
明かりなんかは殆どなく本当に人が住んでいるのかわからないほどだ
(とはいえ住んでいるのは自分だけだが)
エレベーターの前を通り過ぎ、階段を上がる
エレベーターは一年半前に壊れてしまって使えないからだ

部屋の前まで戻るとイヴが行儀良く座っていた
にゃあとも鳴く事なく私の足に擦り寄る
…おかしい、出かける前イヴはリビングのソファーで寝ていたはずだ
持っていたドーナツの入った紙袋を置いて
腰のホルスターに収まっている銃に手をかける
イヴはそんな私にお構いなく紙袋から匂うドーナツの匂いを嗅いでいる

ゆっくりとドアを開け、リビングへと入っていく
銃を構えた先には…
「おお、わりぃ勝手に上がってる」
まるで自分の家にいるかの様にソファーでくつろいでいる兄がいた
「…何故いるし…」
銃をホルスターにしまうと玄関に放置してあるドーナツと
ドーナツが気になって仕方ないイヴを連れて中に戻る

「いやー…ちっとしくってな」
兄のかけているソファーの反対側にあるソファーには
傷だらけに包帯ぐるぐる巻きの青年がいた
私と兄と同じシルバーの長い癖のある髪
よく見れば兄もあちらこちらに傷がいくつかあった
「…こいつも…RZPの一人…数字的に俺の弟でお前の兄貴だな」
インスタントのコーヒーを啜りながら手近にあった
テレビのリモコンを手にとり電源をつける
ニュース番組はここから程遠い大学病院施設が襲撃されたと報道していた
「…これはまた派手にやったね…」
ドーナツを紙袋ごと兄に渡すとソファーで寝ている青年を見る

綺麗な顔をしている
目鼻立ちもすっきりしてるし相当の美青年だろう
兄とは全く反対だ
兄もそれなりにカッコイイが…野生味溢れすぎというか…
いかにも肉食系というのが見てわかる
髪なんか私が切るまで切らなかったり
普通のハサミで適当にざっくばらんに切るくらい
自分に感心がない
飯食って酒飲んで寝れればそれでいい感じにしか思っていない

「名前、なんていうの?」
未だに眠り続ける青年を指さして兄に聞く
「あー…昔の俺らみたくねえんだよ」
つまりは番号で呼ばれていた
起きたら起きたで決めればいいなんていいながら兄は冷凍庫にあったフライドチキンをチンしていた





前仔鞠が言ってたゲームのシナリオ的な物←

46度ずれた兄妹…妹編・十八

ティータイムが済んでからまた残りの仕事を片付けていて
気がつけば外は夕暮れ、晩御飯の時間だった
んー、と背伸びをして生活感のかけらもないキッチンに立つ
本当、主夫だなぁなんて思う
結婚なんかしてないし仔鞠の彼氏なんて以っての外だ
(雅弥に惨殺される、これは本当)
主夫じゃなかったらなんだ
あ、家政夫か………

冷蔵庫から適当に野菜を出しては切り、鍋にいれていく

ついでにお風呂を沸かすために湯沸かし機を弄る
油絵塗れになっているであろう仔鞠は
部屋が汚れるのを特に嫌がる

薄暗くなってきたというのに今だテラスに置いた
イーゼルの上のキャンバスに向かっていた
防寒対策はぬかりなくやっているとはいえ夕方はやはり冷える
白いホワイトボードに「後何分?」と書いて
仔鞠に見せながら手を振る
こちらに気がついた仔鞠が片手を開いて答えた
後五分らしい
鍋の様子を見ながら暫く、デジタル音がして湯が沸いたと知らせる
それを知ってか知らずか仔鞠が画材を片付けてテラスから戻ってきた

油絵の臭いと初冬の冷たい空気の匂いが入り交じっている

お風呂沸いてるからーと言うと、うーと返事が返ってきた
一体どんな物になったのだろうかと思いつつも
盗み見るというのはあまりいい気分ではない
それよりも鍋の中でぐつぐつ煮えている野菜とつみれの出来具合が気になった

46度ずれた兄妹…妹編・十七

半居候状態が続く今日この頃
仔鞠のお隣りさんの部屋が空いたとの事で引っ越した
ぶっちゃけ前住んでたとこより職場は近いし
仔鞠の面倒を見るのも楽だ
そして、ある意味ここが一番安全な鳥籠だとわかったから



あらかた家事を済ませた後に
昨日持ち帰った仕事をこなすため
リビングのソファに座ってノートパソコンの電源を入れる
ふと視界をテラスに向けると
イーゼルの上にキャンバスを乗せてうんうん唸っている仔鞠がいた
「学校の課題ー?」
「んー…」
キャンバスの大きさから顔は伺えないが困っているようだ
仔鞠は美術科の学科に在籍している
だからこうやって家で課題をやるのはよくある事だ
「題材がねー『自分の家の好きな場所』なんよ」
だったら自室か兄の部屋は?という問に
「先生に『ベッド描きそうだから駄目』って釘刺された」
尚且つ兄の部屋は機密事項品が多すぎるから無理と返ってきた
確かに…

ノートパソコンを置いてカリカリと下書きをしているキャンバスを覗く
リビングを描いているようだった
ちらりと壁にかけられた時計を見るとティータイムには丁度いい時間
うーんと腕を組んだまま悩む仔鞠をそのままに
僕はティーカップとソーサーを取り出して紅茶を入れる準備を始めた
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