「まぁ……。っていうか、本当は俺断るつもりだっt」
「兄貴!」

照れくさそうに男がそういいかけると、その言葉をさえぎるように「弟」のMr,KKが肘うちを食らわせた。

会場から、笑い声が上がる。

感動と緊張で張り詰めていた空気が、一気に和んでいくのがわかった。
…歌だけではなく、この二人には人を魅了させる力があるのではないかと、俺はぼんやりとそう思った。

「まぁ、確かに緊張はしたけど、楽しかった。やっぱり音楽は自分が楽しまなくちゃ、人を楽しませることなんでできねぇよな」

真面目にそう「兄」のMr,KKが答えると、関心したような声が客席から上がる。
……そうだ。
俺も、こんなところで緊張なんかしている暇など無いのだ。
まずは俺が楽しまなくては、客を楽しませることなどできない。

最近仕事が上手くいかなかったのは、そんな当たり前のことさえも忘れていたかもしれない。
音楽も仕事も、結局は同じ。
まずは自分が楽しまなくてはいけないのだ。

「流石お兄さん。いいこと言うねぇ!!さて、そんなミスターたちにもう一度大きな拍手を!」

MZDのその言葉を合図に、歓声と共に大きな拍手が会場に鳴り響いた。
その拍手の音に惜しまれながらも、二人はそそくさと舞台から姿を消していく。
二人の姿が見えなくなっても、拍手が鳴り止むことは無かった。


「さて、お次は今回初参加!!天才イケメンホスト風ミュージシャン……ロミ夫だぁ!!!」

MZDの大げさな煽りに少し照れつつも、俺はマイクを受け取り、舞台へと上がった。

もう足は震えていない。
先ほどのミスターたちには劣るかもしれないけれど、俺は俺の音楽がある。
俺には俺の歌がある。


それを教えてくれた、先ほどまでまったく面識の無かったあのMr,KKの「兄」に、心の中で感謝した。

俺の曲が始まる。
俺の舞台が始まる。



……そして、このときから…
俺の『恋』も、始まっていたのかもしれない。