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第一話:01(羽衣)




…ポップンパーティー。
それは、音の神様が主催している、音楽好きな音楽好きのための、音楽のお祭りだ。


俺の元に招待状がきたのは、ちょうど10回目のパーティーの時だった。
もちろん、俺は始めのほうは信じられなかった。
たしかに昔ミュージシャンを目指そうとしたことがあって、そのおかげか曲もいくつか作れるけれど……まさか自分がステージに立つ日が来るなんて夢にも思っていなかった。
売れないホストの自分に、何故招待状が届いたのかと疑問に思いながらも、俺は会場に向かった。
その時の気持ちは、今でもよく覚えている。


…そして、月日が経ち…
今はもうパーティーも15回目を迎えていた。
今回、俺はメインメンバーではなく、サブメンバーとしての参加だったのだが、それでもすごく嬉しかった。
理由はもちろん、音楽が好きで、このパーティーに出席できるのが誇らしいから…というのもある。
けれど、俺がどうしても今回のパーティーに出たいと思わせる理由が、それとは別にあったのだ。


…それは、
10回目のポップンパーティーで俺と共演した…

Mr,KK……の、お兄さん……を、ひとめ見るためだった。




第一話:02(よしな)

彼に会ったときのことは、今もはっきりと覚えている。

パーティーの当日、会場で、俺はひどく緊張していた。
なにせ生まれて初めての体験だ。営業には慣れているが、仕事の最中も、こんな気持ちになったことはない。
気を抜くと足が震えそうで、俺は必死で無表情を装いながら腕組みしてただ舞台を眺めていた。

ステージ上では第一部の前半が終了し、司会進行役のMZDが舞台袖からひょっこりと顔を出したところだ。
「いえーい、皆楽しんでるかー?!」
MZDのたったその一言で、会場が一気に沸いた。
これが神様の力、なのか。(もっと世界人類のために力使えばいいのにという感じもする)
「では続きましてはー、イカした何でも屋のおにーさんの登場だ!」

神のアナウンスと共に、一人の男が舞台に上がった。

第一話:03(羽衣)


その途端、客席から歓声が上がる。
どうやら、前回にもこのポップンパーティーに参加したことのある人物のようだった。

「今回のミスターは一味違うぞ!前回のパーカッシヴとは打って変わり、今回はブルースだ!!」

MZDの煽りで、さらに会場が沸く。

「驚くのはまだ早い!今回はなんと……歌い手のゲスト付きだぁあ!!!」

そう言って、MZDは舞台袖を指差した。
すると、先ほど舞台に上がった男とよく似た服装の男が、おずおずと舞台に姿を現した。
客席から、驚きと期待の声が上がる。
その声を聞いてMZDは満足そうに頷くと、出てきた男にマイクを渡した。

MZDが舞台から姿を消し、曲のイントロがかかる。
すると、先ほどのざわめきがウソのように、しんと静まり返った。

男が大きく息を吸い込んだかと思うと、心地のいい音が男の口から奏でられていく。

それは、異国の言葉で綴られた歌だった。
学の無い俺にはそれが何を意味しているのかはわからなかったが、優しくも、どこか頼りたくなるような……そんな歌声に、俺は一気に引き込まれた。

歌っていた男が一歩下がり、その歌にあわせて踊っていた男がメインになっても、俺は歌っている男から一瞬も目が離せなかった。



第一話:04(よしな)

一瞬、歌い手の男と目があった。
いきなりのことに驚いて俺は思わず目を細めたが、歌い手は俺のことなどあまり気に留めなかったようで、またすぐに正面に向き直して歌い続けた。
こちらのことを気にしたのか、と思ったが、どうやら違うらしい。
・・・俺、少し自意識過剰かも知れない。仕事柄だろうか。なんだか自己嫌悪に陥りそうだ。

ステージの上の彼らは、なおも観客を魅了しながら、最後まで阿吽の呼吸でパフォーマンスを続け、ついにフィニッシュを迎えた。
客席のボルテージは最高潮に達し、皆手を叩いて二人のパフォーマーに喝采を送った。
もちろん、俺もだ。
「さすがはご兄弟!息ぴったりだったなー」
また袖から顔を出したMZDが、満面の笑顔でKKにマイクを向けた。
「どうだった、おにーさんとの共演は?」
「そりゃまあ・・・楽しかったよ」
ウンウン、とうなづくMZDは、いつにも増して楽しそうだ。
「おにーさんもお疲れ様ー!慣れないステージは緊張しただろ?」
MZDは、今度は先ほどの歌い手の方にマイクを差し出した。

第一話:05(羽衣)


「まぁ……。っていうか、本当は俺断るつもりだっt」
「兄貴!」

照れくさそうに男がそういいかけると、その言葉をさえぎるように「弟」のMr,KKが肘うちを食らわせた。

会場から、笑い声が上がる。

感動と緊張で張り詰めていた空気が、一気に和んでいくのがわかった。
…歌だけではなく、この二人には人を魅了させる力があるのではないかと、俺はぼんやりとそう思った。

「まぁ、確かに緊張はしたけど、楽しかった。やっぱり音楽は自分が楽しまなくちゃ、人を楽しませることなんでできねぇよな」

真面目にそう「兄」のMr,KKが答えると、関心したような声が客席から上がる。
……そうだ。
俺も、こんなところで緊張なんかしている暇など無いのだ。
まずは俺が楽しまなくては、客を楽しませることなどできない。

最近仕事が上手くいかなかったのは、そんな当たり前のことさえも忘れていたかもしれない。
音楽も仕事も、結局は同じ。
まずは自分が楽しまなくてはいけないのだ。

「流石お兄さん。いいこと言うねぇ!!さて、そんなミスターたちにもう一度大きな拍手を!」

MZDのその言葉を合図に、歓声と共に大きな拍手が会場に鳴り響いた。
その拍手の音に惜しまれながらも、二人はそそくさと舞台から姿を消していく。
二人の姿が見えなくなっても、拍手が鳴り止むことは無かった。


「さて、お次は今回初参加!!天才イケメンホスト風ミュージシャン……ロミ夫だぁ!!!」

MZDの大げさな煽りに少し照れつつも、俺はマイクを受け取り、舞台へと上がった。

もう足は震えていない。
先ほどのミスターたちには劣るかもしれないけれど、俺は俺の音楽がある。
俺には俺の歌がある。


それを教えてくれた、先ほどまでまったく面識の無かったあのMr,KKの「兄」に、心の中で感謝した。

俺の曲が始まる。
俺の舞台が始まる。



……そして、このときから…
俺の『恋』も、始まっていたのかもしれない。



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