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第一話:20(よしな)

どうしよう、黒さんが近い。

胸がバクバク鳴るのを抑えられないまま、けれどもこの時間がいつまでも続けばいいのにと、ベタだけれど本気でそう思っていた。

が。

「けーちゃーん!」
その思いは、やっぱりあっさりと破られた。
「またお前かよ。パーティーの後始末はしなくていいのか?」
「そんなのは表の仕事だから俺様には関係ないんだよなー。」
黒神は、不敵ににやりと笑った。
「だからけーちゃん、早く帰ろうぜ。帰っていろいろとやることがあるだろ」
「特にねぇよ」
「俺様と愛を語らうっていう大事な仕事が」
「するか!」

二人が話をしている間、俺はまたも圧倒されてそこに佇んでいるしかなかった。

第一話:21(羽衣)



取り残された感じというのは、こういうことか…と、俺は身を持って体験した。
まったく嬉しくないけれど。


「…えっと…じゃあ、俺は後片付け手伝ってきます」


できる限りの笑顔でそう言うと、黒さんは申し訳なさそうに、黒神はしてやったりという顔で笑った。

本当は俺だって、もっと黒さんと話したかったし、いろいろ黒さんのこと知りたかったけど、どう考えても黒神がそれを許すはずがないので諦める事にした。
本当に悔しいけど…黒さんにも、迷惑がかかるだろうし。


それに、棚を作ってくれるという約束をしたし、なによりまた黒さんに会えるような気がしたから、そう焦ることはないだろう。



…と、自分に言い聞かせた。

そうでもしないと、やっていけそうに無かったから。


まぁ、『会えそうな予感』と言うのは、本当にその時感じていて、それは現実になるのだけど、それはとりあえず今は置いておこう。



黒さんたちと別れた俺は、なにかやり遂げたような疲労感に襲われ、ゆっくりと壁にもたれかかった。



第一話:20(よしな)

目の前がちかちかする。
今まで必死に抑えていた緊張と興奮とが一気に噴き出したみたいだ。

こんな気持ちになったのは生まれて初めてで、なんと言っていいのかもわからない。

ただ、その時の俺が言えたのは、俺は間違いなく黒さんになにか特別な感情を抱いた、ということだ。


それからしばらく時間が過ぎて、パーティーは15回目を迎えることになった。

俺もようやく仕事に慣れて、指名客もつくようになった。

第一話:23(羽衣)



その間、黒さんとは一度しか会っていない。

けれど、黒さんは律義にも俺との約束を覚えてくれていて、ちゃんと俺のコレクション棚を作ってくれた。
その一回きりだったけれど、その一回が俺の気持ちをさらに燃え上がらせるのに十分すぎたほど、楽しく、そして嬉しかった。


本当は、15回目のパーティーには、俺が参加する予定はなかった。
けれど、俺は無理を言って出させてもらったのだ。


黒さんに、会うために。



けれど、やはりメインキャストとサブキャストの差は大きくて、俺は遠巻きにしか黒さんを見ることができなかった。




時は流れ…



夢のように過ぎた時間は、現実味がないものになっていった。
自分が黒さんと同じステージに立っていたなんて、信じられないと思うほどに。

時間は無情にも過ぎて行き、あの10回目のパーティーが過去のものとして薄れていくのに、俺の気持ちは一行に冷めることはなかった。

それどころか、離れている時間が長くなるほど、『会いたい』という気持ちが膨れ上がっていく。






そして。

その思いが爆発するのではないかと思うほどに膨れ上がっていた頃…






16回目のポップンパーティの招待状が


俺の家に届いた。



第一話:24(よしな)

俺宛てへの招待状は舞台で曲を披露する「演奏者用」だったが、その手紙の最後には、「ポップンパーティー十周年を記念して、今回の演奏者以外にも今まで参加してくれた全員を招待する」とあった。

それを見た俺は即刻その日の予定を全てキャンセルし、一日の大半を新曲作りに注いだ。


また黒さんに会える…


その気持ちが、俺を突き動かした。
黒さんに半端な曲は聞かせられない。
作詞作曲は熱をおび、俺はほとんど不眠で仕事を成し遂げた。


そうして、ついに「その日」を迎えた。
16回目のパーティーは何時にも増して熱気に満ちていた。
十周年というだけあって、参加者の数も半端じゃない。
昔に見た顔もいれば、今回初めて見る顔もいる。
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