いいよ、一緒に死んであげる
ttitle:レイラの初恋
現代パロ。キョウジだけが記憶を持っている話。
はじめまして。
なんの変哲もない挨拶の言葉に、伊丹キョウジは小さく頷くだけで応えた。
俺の顔を見て目を見開いて驚いたことが嘘のように。
声を聞いて無意識に唇を噛み締めたことが嘘のように。
言葉を理解して詰めた息を吐き出し、眩しいものをみるかのように目をそらしたことが嘘のように。
当たり障りのない返事をしてその男は最後まで俺と目を合わせようとはしなかった。
高校三年生の五月。
受験生だというのになんとも中途半端な時期に転校してきた伊丹はクラスでも浮いていた。
前の学校で何か問題でも起こしたのではないか、だからこんな大事な時期に、とその目つきの悪さと直ぐに授業をサボる態度はクラスメイト達のささくれだった心を刺激する。
何より彼らを焦らせたのがそんな不真面目な生活態度と反するように転入早々のテストで一気にトップへと名前を連ねたその成績だ。嫉妬と恐怖の入り混じった視線で針の筵だろうに、伊丹の無表情はそれでも一度として崩れたことがなかった。
まるで、始めてあった日のあの様子は幻であったかのようだ。
「なぁ伊丹、俺たちどこかで会ったことあるのか?」
古い記憶をいくら掘り起こしても血のように赤い目に見覚えはなかった。今だって目を反らせないのに、過去に合っていれば忘れるはずが無い。
「・・・さぁな。」
咥えていた飴を噛み砕く小気味良い音がする。ゆるく首を横に振ってそう答えた伊丹は俺にだって嘘をついていることがわかる。
決して踏み込ませようとしないその心のうちで一体何を思っているのか。
伸ばした手は今日も、その頬に触れる前に振り払われた。
「俺は絶対に石川タケヒロを好きにはならない。
これまでもこれからも、俺が想うのは俺を追いかけていたあのタケヒロだけだ。」
再会したタケヒロに以前の記憶がないと知った時に誓った。
もう二度とキョウジはタケヒロを裏切らない。
(いいよ、一緒に死んであげる)
2014-5-5 21:32