いつか辿り着く未来で
キョウジをどうにか幸せにしたくて、でも生まれも育ちも戦場、人体実験ののちに簡単に捨てられたキョウジの心を溶かすのは簡単じゃないよなー、と考えたら我らがバンさんに縋り付きたくなって書きました。
レックスの叫びも、マミさんの悲しみも、ミゼルの理想も、全部きちんと理解出来るのはきっとキョウジだけだから、そういった意味でバン達にも良い影響があるといいな、という願いを込めて。
少なくとも、ジンが大事な師を助ける為とはいえ子供たちに戦争をやらせることはなくなるんじゃないかな、と思う。
タケヒロはキョウジを殴ってでも、殴られてでも止めようとしてくれる稀有な存在ですから。
そんなこんなで心の傷を治すのに必要なのは時間と無条件の愛情。その二つを与えようとしたら逆行した。何故だ。
俺には前世の記憶がある。
前世、というのは少し語弊があるだろうか。正確にいうなら逆行だろう。
前と同じ年に生まれ、成長しているようだ。
ようだ、と疑問系になってしまうのには理由がある。
「キョウジ〜?そろそろ出なきゃ間に合わないんじゃないの?!」
「今行くよ、母さん。」
まずは生まれた場所。
息をすることすら苦しい硝煙に塗れた戦場ではなく、俺は日本のごく普通の家庭に生まれた。父がいて、母がいて、家があって、夜安心して眠ることが出来るし食べ物に困ったこともない。どちらかといえば両親共働きなので裕福でさえある。はじめこそどう接していいか戸惑ったが、基本的に放任主義の二人に育てられたため今では自然に向き合うことが出来る。
そしてもう一つ。
「あら、この前買ったカチューシャ。よっぽど気に入ったのね、可愛いわよ。さすが私の娘だわ。」
とても13歳の子供がいるとは思えない美貌を持つ母が、緩く波打つ俺の髪を撫でる。パステルグリーンのワンピースについたリボンを結び直したりと、甲斐甲斐しく娘の晴れ舞台への最終チェックをしていく姿がむず痒い。
しかし、嫌ではないと思うあたりすっかり絆されてしまっている。
「さぁ、いってらっしゃい。他の子なんて、軽く蹴散らしちゃいなさい。」
はじめこそ、最後の記憶であるコントロールポットの中でセレディを呪う自分の強すぎる憎しみに振り回されてばかりだった。
泣くばかりで欠片も笑うことのなかった俺を、それでも見捨てずに愛し、ここまで育ててくれた両親には感謝してもしきれない。
未だにセレディの事を完全に忘れる事は出来ないし、LBXもやめられなかった。
それでも少なくとも今は、応援してくれる両親の望むように生きてみようと思う。
「いってきます。」
*****
「え、」
「あ、」
張り出されたトーナメント表そこに並ぶ名前には明らかに見覚えがあった。
そして声のした方へゆっくりと顔を向ける。
背は低く、顔も丸みを帯びていてあどけない。けれど、その形のいい額が、目一杯見開かれた赤の瞳が、記憶の中の姿と重なる。
「タケヒロ?」
思わず零してしまった名前に、慌てて自分の口を塞ぐ。
疑問が確信に変わるのを見届ける前に俺は走り出していた。
「おいっ、待て!待てよ!!」
声変わり前の高い音には少し違和感を感じる。ぴたりと後ろを追いかける男なんて、前の体なら簡単に振り切ることが出来ただろう。でも可愛らしい僅かにヒールのある靴が、脚にまとわりつくスカートが、風になびく髪が、小さくて弱い女の体が今の俺を構成している全てだ。
腕を掴まれ、乱暴に後ろに引き戻される。バランスを崩した俺を軽々と抱きとめると、その手は骨が軋むほどの力で突然の全力疾走で息を乱す肩に指を食い込ませた。
「キョウジ、だよな?」
至近距離でこちらをまじまじと見つめる瞳に写っている俺は、どこからどうみても可愛らしい少女そのものだ。変わらないところをあげるとすれば目つきの悪さくらいだろうか。それでも、前世で恐らく一番俺に近いところにいたタケヒロの目を欺くことは出来なかった。
「ずりぃの、なんでお前は男のまんまなわけ?」
「知るかよ。俺はただ同じ時間を繰り返してただけで、そしたらキョウジが。」
お互いなんと言葉をかければいいかわからない。
それもそうだろう。
別れは裏切りという最悪な行為で、再会したのは逆行した先の大会のトーナメント前だ。
「あっ、大会・・・」
「あああぁ!!俺らAブロックだったよな?!もう始まってるかも。」
話したいことが沢山あった。今の俺なら、あの時エゼルダームに行く俺を引き止めたタケヒロの気持ちが少しはわかると思ったから。
タケヒロだって言いたいことも聞きたいことも沢山あるだろう。
けれども怒りが戸惑いの中に燻って言葉にならないなら。
「今日こそは、俺が勝つ!」
「はっ、ぬかせ。ぶっ潰してやるよ。」
LBXバトルを通して向き合おう。
放すまいと自然と繋がれた手を、もう振り払うようなことはしない。
*****
そしてフルボッコにされるタケヒロ。
この後お互いの近状とか前世での話とか話そうってなってタケヒロんちで頭付き合わせる二人。
なんで何も話してくれなかったんだよっていうタケヒロの気持ちと、あの頃はお前らのことなんて眼中になかったっていう本音のキョウジが掴み合いの喧嘩。やっぱりタケヒロが絞め技で落とされる。
夜までそんなこんなでどつきあって何と無くスッキリしてとりあえずセレディぶっ潰そうぜってなる腐れ縁主人公ルートください。
この後バン達と出会って一緒に冒険して欲しい。バン達の純粋さに眩しくて眩暈がしそうな精神年齢31歳の二人。
↑前提でやっと私がもうそうしていたとこに辿り着く。
仙郷と仲良くなってタケキョウのおかげで急速に距離が縮まった二人がお互い「ハンナ」「ダイキ」って呼ぶようになって、タケキョウは「ハンナちゃん」「ダイキ君」って呼んでるのを書きたかっただけなのに。なんでここまで設定で伸びるんだ。私は。だから原稿も全然話進まねぇんだよ!!と自分に切れたくなる。
これは多分続きます。