恋なんてしない。
そう決めたのは大分前になる。
理由は忘れた。
いつの間にかそう決心していた。
もう一度言おう、理由は忘れた。
「寂しいね」
友人に言われた一言に、私はキレた。
寂しい?誰が?私が??
「恋はね、素敵なものなんだよ?」
それは恋人が居るから言える台詞
「恋すると胸がぎゅーってなるの」
それは今幸せだから言える台詞
「誰かが傍に居てくれるってこんなにも良いものなんだなぁって…」
それは愛しといる人がまだ存在しているから言える台詞だ
私は目の前で先輩が他の女性と幸せそうに、自分の家に戻って行くのを見た。それは親からも公認されてるって事だし、2人共とても仲良さそうにしていたからそれで良いなと思った。けど、分からないけどその後急に涙が出て来た。ほぼ幼なじみだったから、告白するタイミングなんていくらでもあったのにそれをしなかった結果がこれなんだと思っては涙が止まらなかった。
もし告白の1つや2つしていれば、私は今の私は変わっていたのかもしれない。あぁ後悔後悔後悔!後悔ばかりが頭を過る。だから私は自分が嫌いなのかもしれない。
愛した人はもういない
(私が今も変われないのはその後悔が楔になって動けないから)
(けれどその楔から解かれる事はもうない)
(何故なら私は…)
兄が死んだ。
手足が事故で動かなくなった私の治療費を稼いでくれていた、あの人懐っこい顔をした神出鬼没の、死んでも死ななそうな兄が死んだ。
その事実を知ったのは、兄の死亡したその日から数日過ぎた夜中の事。
病室の窓からふわりと風が吹き、何事かと眼が覚めると、紅い…血にまみれた少年がそこに居た。
血の繋がりは無いが、確かに家族の契りを交わした自分の可愛い弟分。
そんな少年が何故鉄臭い液が付いているのか、寝起きの頭では…いや、もし普通に起きていたとしても全くと言って良い程理解は出来なかっただろう。
少年はふらつきながら私に近付く。
そしてベッドまで歩みを進めると、つまずくかのように私の寝るベッドへ倒れた。
白い布団が朱に染まるのを後目に、私は弟を抱き寄せる。
初めて見る苦痛の表情、けれど私が頬を撫でると少年は安心仕切ったように顔を擦り寄らせた。
変わらない、感覚。
けれど苦しさは変わらず、彼の血は留まる事を知らず流れ、身体も心無しか冷たくなっていく。
揺するように彼に声を掛けると、もう眼を開く体力さえ辛いのかつぶらな瞳が半月にしか開かない。
こんな再会望んでなど居ない。
一体どうしてこうなったのか、いつの間にか流れ出ていた涙がボロボロと白を染めていく。
「泣か…ないで」
それをなだめるように少年の手が私の頬に触れる。
体力なんてとっくに尽きている筈なのに、彼は無理をして私を安心させようとフッ、と笑顔を作った。
「ごめん、ね。僕…お兄ちゃん、助けられなかった…」
後悔と苦痛、それらが入り雑じった声で少年は言葉を紡ぐ。
口元から喋る度に吹き出る血の量に、私はもう話さなくてもいい、ナースコールで人を呼ぶからといった行動に移す思考さえ麻痺していた。
ただ私に必死に何かを伝えようとしている彼の姿を、眼に焼き付けていたかった。
「もう少し…もう少し、望が強かった、ら…」
こんな結末にはならなかったのかな?
笑み、そして少年は私の腕の中で眠るように息絶えた。
頬に触れていた手は垂れ下がり、ぶらりと宙に浮いていた。
瞼は閉じておらず、けれどその瞳に光は宿って居なかった。
突然の出来事に私は放心し、
大好きな弟も兄も、
もうこの世界に居ないと頭でやっと理解したその時、
私は狂ったように発狂した。
待っているのは繰り返しの絶望