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第十五話

散々、ヴォルフラムのことを相談した後、
「頑張ってね」という、何やら意味深長なジュリアさんの笑顔に見送られ、俺が帰宅したのは午後8時頃だった。


まず、こっそりと泥棒のように玄関から忍び足で抜き足差し足、二階の自分の部屋まで行く。
ジュリアさんに教えてもらった花束の保存方法を実行してから(といっても水を含ませたスポンジに茎刺しただけだけど)ようやくリビングに顔を出す。
おふくろが、俺の顔を見てぷうッと顔を膨らませた。

「もう、ゆーちゃんったら、またヴォルちゃんと喧嘩したんでしょ!家帰ってから出てこないのよ。晩御飯も食べてないし。」
「え??」
昼間はあんなに上機嫌だったのに、今度はご機嫌斜めだなんて、どうしたんだろう。
おふくろの誤解を解くよりも心配が先立って、俺はもう一回二階へと上がる。

「ヴォルフ??……入るぞ。」
コンコンと控えめにノックしても返事はない。そっと部屋に入ってみると、丸まった布団が見えた。
時折、そこからはみ出した白い脚がもぞもぞと動く。起きてはいるらしい。

「ヴォルフラム。」
声をかけると、ビクッと人の形が象られたラインが震える。

「お兄ちゃん……??」
そのか細い声にますます不安を掻き立てられた。
少しだけ出した顔は涙の痕が二筋。

「ヴォルフラム!?」
「お兄ちゃん……!」
半分押し倒すような勢いで抱きついてきた妹は、泣きじゃくって、俺を困らせる。
不器用に髪を撫でようとしても、その手は途中で止められる。

「お兄ちゃんッ、村田君が…ッ!!」
「え??」
「今日ね、お兄ちゃんがジュリアさんと話してたのを私、見たの…。それで気になって立ち止まったら…」
肩にぽんと置かれた手。
後ろを振り向けば、にこやかな笑顔。

「あれって確か渋谷の幼なじみさんだよね。ジュリアさん…だっけ。」
いきなり話しかけられて戸惑う。不意を突かれたヴォルフに畳みかける。

「こうやって見ると、2人ともお似合いに見えるね。渋谷ったらあんな風に笑っちゃって。」
そう、だからヴォルフラムも気になって立ち止まったのだ。
ジュリアのことはよく知っている。頼りになる、見かけによらず空手は黒帯のお姉さん。

「やっぱり姉御肌でしっかりしてる人とくっついちゃった方が、熱血緒突猛進な渋谷には良いかもね。妹ちゃんもそう思うんじゃない??」
「そ、う…かもね…。」
バレないようにと返した声は震えていたかもしれない。村田は満足げに頷くと、背を向けた。

「明日の誕生日パーティー、楽しみにしてるから。」
そう言って去る背中を見送っていると、後ろからにこやかな話し声。
不意にいたたまれなくなって帰ってきたと途切れ途切れに話す妹に、俺は何も言えなかった。
村田の顔がフラッシュバックする。
アイツは、俺に、喧嘩を売ってきているんだ。俺とヴォルフラムを引き離しそうとしている。

「ねえ、お兄ちゃん…。」
ヴォルフラムが、服の裾を掴む。暫く黙り込んで、ようやく意を決したように顔を上げる。

「お願い、私を抱いて。お兄ちゃんに好きでいてもらえてるっていう自信が欲しいの。」
アナログ時計がカチリと鳴って、12時がきたことを知らせる。


それはつまり、おれ達2人の誕生日が訪れたことを示していた。

第十四話


どうしよう、と俺はいよいよ頭を抱えた。プレゼントとかプレゼントとか、村田の引き剥がし方とか。


村田はなかなか頭が良いし、それ故に人に悪い印象≠与えることがない奴だ。
けど俺は村田の腹黒さを知っているからこそ、警戒していられるんだけど。(なんか俺は誤魔化しきれないと判断されたらしい)




(……どうしたら、いいんだろう)



女の子に、ましてや妹にプレゼントなんて小学生以来だ。最近のファッションも、ましてや流行なんてものとは無縁の俺には何よりも頼りになる、アドバイザーが必要なのだ。


(といってもお袋と本人はダメだし、村田やコンラッド先輩もまずい)



点々と誰かが頭の中に浮かぶけど、理由をつけたらすぐに消えていく。…要はアレか、友達いないのか俺。なんかしょげてきたが負けないぞ、てかそもそも何と勝負してんだ?――――あ





(いるじゃん、俺!)



そういうのを分け隔てなく、いつもあの笑顔で接してくれる人。

そうだ、あの人ならきっと大丈夫!





























「あら ユーリ。お久しぶりね」
「こんにちはージュリアさん!」


うちん家の近所に、小さな個人の花屋さんがある。俺が小さい頃からひっそりと運営されてたんだけど、今は親父さんの後を受け継いだ娘さん――それが、スザナ・ジュリアさんだ。


ジュリアさんは俺にとって、お姉さんみたいな存在だった。そして唯一、俺の…ヴォルフへの気持ちを知っている人。
で、女性で昔からヴォルフの性格やら好みやらを熟知されてる方。


「で、どうしたの?」
「あ!…あのさ?もうすぐ妹の誕生日だから…何か、あげたくて」
「…確か来週の日曜日よね?本当にもうすぐじゃない。今から考えてるの?」
「…うん、だってなかなか思い付かなくてさぁ…」


ジュリアさんは仕事をテキパキとこなしながらも俺の話に相槌を打ってくれる。青空みたいな色を纏った河のように流れる髪が、ゆらゆらと揺らぐ。


「ジュリアさん、ヴォルフの好みとか分かるだろ?どんなのが良いか分かんなくて…」


俺はそもそも、考えないようにしていた。小学校のころから否、ずっと大切だった妹に、俺はちゃんと気持ちを…俺の気持ちを、伝える。


ジュリアさんはそんな俺を見てふふっ、と意味ありげに笑った。そんなに変なこと言っちゃったのか?


「…ユーリ、私は花屋だわ。花のことしか詳しく知らないの…ならいっそのこと、お花にしたらいいわ。」
「え、」
「ねぇ?だって花屋に相談するんだもの。お花にはね、花言葉があるの!自分の口からは言えなくても、代わりにお花が代弁してくれる。なんて素敵なのかしら、ねぇユーリ?」
「あ、ぁあの、その」
「花束にする?あぁ雰囲気を大事にして数本の束にするのも可愛らしいわ。」
「え、あ」




ものの見事に俺はジュリアさんの勢いに負けていった。ああこれは営業だ、というか一気に持っていかれたのほうがきっと正しい。


「…(…まぁ、いっか。花ってのも、可愛いし)」
「そうでしょ?さぁ何にする?」
「え!?心の声丸聞こえ!?」
























結局、ヴォルフに映えるこの花にしてもらった。色は俺のチョイスで、花言葉は…知らない設定にしておく。


「ハッピーバースデー、ディア、ヴォルフラム」






赤い赤い、チューリップを。

花言葉は「愛の告白」







BY しな
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