徒然帳
category:茜色の記憶(設楽夢)
茜色の記憶(第六十八章-3)
6月28日 12:49
それから二人で、たくさんたくさん話をした。
今までのこと。
これからのこと。
サッカーのこと。
部活のこと。
選抜のこと。
二人にとって、大切な人達のこと。
そして、沙彩が元いた世界のこと。
順番なんか、気にせずに。
思いついた順に、ポツリポツリと言葉を交わす。
そうやって、二人でたくさんの話をして、随分経った頃だった。
不意に、部屋の扉が四回、音を鳴らす。
同時に振り返れば、希夕がひょっこりと姿を現した。
「失礼しまーす」
「希夕ちゃん」
瞬きをした沙彩が、希夕の名を呼ぶ。
そういえばすっかりと忘れていたが、ここは希夕の家だった。
当の希夕は、沙彩と兵助の瞳を見た瞬間、表情を緩めて口を開いた。
「覚悟は、決まったみたいだね」
「…………うん」
頷いた沙彩が、希夕を見返す。
けれど、口を開こうとして僅かに躊躇った。
覚悟は決めた。
それは間違いない。
けれどやっぱり、口に出すのは少しだけ怖い。
言ってしまえば、もう本当に後戻りはできなくなるから。
「私は……」
それでもと、勇気を振り絞って。
口を開きかけた時だった。
不意に兵助が、沙彩の手をキュッと握る。
伝わってきた体温に、どうしようもなく安堵する。
大丈夫。
だって沙彩は、独りじゃない。
一緒に背負って、一緒に歩いてくれる人がいる。
彼と一緒だから、大丈夫。
兵助の手をキュッと握り返し、沙彩は希夕を真っ直ぐに見た。
希夕も、沙彩を真っ直ぐに見返す。
そして沙彩は、静かにその一言を告げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ことごとくとんでもないところで止まっていてすみませんでした!
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