徒然帳
category:茜色の記憶(設楽夢)
茜色の記憶(第六十八章-2)
6月21日 12:44
どれくらい、経っただろうか。
数分かもしれないし、数秒かもしれない。
しばらくの間無言だった兵助が、唐突に問いを投げかけた。
「……記憶がなくなるのは、沙彩だけ?」
「え?」
思わず問い返す沙彩に、兵助がもう一度問いを繰り返す。
「他は誰も記憶をなくさない?例えば、俺とか」
「う、うん……希夕ちゃんは、私だけって言ってたけど……」
けれどそもそも兵助は“あちら側”を知らない。
兵助の問いの意図が、沙彩にはまったくわからなかった。
だから、次に彼の口から発せられた言葉は、沙彩の予想を遥かに超えていた。
「じゃあ俺が、覚えておく」
「兵…助…?でも……」
「うん。俺は、沙彩が元いた世界のことを何も知らないし、わからない。だから、教えて?時間はまだ、残ってる。俺が、沙彩の代わりに覚えておくから」
記憶は、一気に消えるわけではない。
少しずつ少しずつ、消えていく。
だからまだ、猶予はある。
「沙彩だけに、背負わせない。俺も一緒に、背負うから」
「っ」
ポロポロと涙を零しながら、沙彩が頷く。
何か言わないといけない気がするのに、声が詰まって何も言えない。
そんな沙彩にそっと触れ、兵助は優しく唇を重ね合わせた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
やっと…!やっとここまで…!!
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