徒然帳

 category:茜色の記憶(設楽夢)
茜色の記憶(第六十八章-4)
6月30日 23:43


『私を、本当にこの世界の人間にしてください』



真っ直ぐに希夕を見て、沙彩はそう告げた。
沙彩の隣にいる兵助も、同じように真っ直ぐに希夕を見ていて。

だから希夕は、二人が本当の意味で覚悟を決めたことを、悟った。

だからこそ、それ以上は何も言わずに、ただ静かに頷いた。






そうして、夜。
沙彩と兵助だけでなく、翼も帰宅したその後。

希夕は、ある人物に電話をかけた。

「もしもし。平馬?」

『…………希夕?』

携帯の向こうから、ほんの少しだけ驚いたような声が聞こえる。
だがすぐに、いつもと変わらない声音に戻って、平馬は問いを投げ掛けてきた。

『何かあった?』

「あったと言えばあったけど、悪いことじゃないと思うよ。詳しくは、沙彩ちゃんたちから聞いて」

『…………沙彩絡みで、何かあったってこと?』

「うん。沙彩ちゃんの“これから”にとって、大事な大事な決断。でも、大丈夫。兵助と一緒に、考えて決めてくれたから」

『そっか』

平馬の声音が、ほんの少しだけ安堵したようなものに変わった。

沙彩一人で決めたのではなく。
兵助と、一緒に決めたのなら。

それならきっと、大丈夫だろうと。
心の底から、そう思っている声だ。

「兵助のこと、信頼してるんだね」

『ん。もちろん』

即答である。
本人の前では絶対に言わないであろうその言葉を聞き、希夕はクスクスと笑った。

そしてふと、表情をやわらかなものへと変える。

「ねぇ、平馬」

『うん?』

「僕もね、もうすぐ決めなくちゃいけないことがあるんだ。“その時”は、一緒に考えてくれる?」

『…………俺で、いいの?』

「平馬が、いいんだよ」

わかったと、返ってきたその声は。

どこか、嬉しそうな響きを、宿していた。










◇◆◇◆◇◆◇◆
もうちょっとで一段落!

 comment 0

back   next






[このブログを購読する]


徒然帳

-エムブロ-