文倉庫


2010/2/22(Mon) 17:59

それでも変わらぬ彼と私

彼が優しいのは当然の事で
その優しさは私だけにあてられるものではなくて
それならば私は何を自惚れていたのだろう、と
ふと そんな事を思う。

だから、決心したのだ。
無駄な期待も、自惚れも、やめる。

 

「おはよう、神楽ちゃん」
おはよう、と返すかわりに「朝ごはんはまだかヨ」と、軽い厭味を返す。
可愛いげの無い事は分かっている。
それでも笑顔で「もうすぐできるから待っててね」と言う。
ほら、優しい。

朝食を終え、時間を持て余す。
ふと、散歩に行こうと思った。
「新八ー、ちょっと散歩行ってくるヨ」
「あ、うん」
行ってらっしゃい、と言いかけた所で「あっ」と言葉を止めた。
「今日は雨が降るらしいから、早めに帰っておいで」
「…うるせー小姑」
どうせガキ扱い故の心配だろう、冷たく返事をする。
「この前だって心配したんだからね」
「私は雨にやられる位ヤワじゃないネ」
「風邪ひいたらどうしようって、」
…煩い、煩い、煩い

「…どうしてそこまで心配するんだヨ!!」
思わず声を荒げた。
新八はびっくりして言葉を失っている。当然だが。

私の気持ちなんて知らないくせに。
私にとってはその優しさが毒なのだ。

僅かな沈黙、それを破ったのは新八。
「…心配するに決まってるじゃないか」
「…は?」

「神楽ちゃんが、大切なんだよ」
今度はこっちが言葉を失った。
…今、何て、
なぜそこで頬を赤らめるの、なぜそこで俯くの、
聞きたい事が湧いて出てきたが、喉でつっかえて何一つ声にはならない。
「…理由、これだけじゃ駄目?」
視線を逸らしたまま、頬を染めたまま、聞いてきた。

彼の言う「大切」は、どういう意味なのかは解らない。
でも、もしも私と同じ意味だったら。
そう思わずにはいられないのだ。

ほら、また期待させる。

震える手を引き戸にかけ、勢いよく開く。
「早く帰ってくるからお菓子用意しとけヨ!」
新八は顔をあげ、またあの笑顔で「はいはい」と。

いつもよりうんと早く帰ってやる。
決心をあっさりと崩された仕返しに。

 

 

本当は決心が崩れたのは今回が初めてではない。
何回も、何回も、崩されてはまた恋い焦がれるのだ。

 

 

 

それでも変わらぬ彼と私
(それも存外悪くはないな、なんて)




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