きっと取り戻せはしないものを、忘れなくたっていいし、抱えこまなくてもいいんだ。
 ただ自分の奥底に、それが息づいていることを時々思い出せさえすれば。


 すべては必要なことだった。
 腹を焼く惨めさも胸を潰す後悔も。
 それがお前を繋いでくれるなら、精々大事に引きずって、うんと泣こうと思うんだ。
 痩せた足首に重い枷を食い込ませて、這ってでも進んでいこうと思うんだ。


 どんな人間になったって、どんな場所にたどり着いたって。そこでしか見えない景色があるならば。
 空っぽの手でも、疲れ果てた体でも、俺はお前の名前を呼ぶよ。
 きっと、呼ぶよ。


 例えその時に俺がひとりぼっちでも。
 精一杯に手を振ったなら、積み重なった面影にようやく俺は生かされる。




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