夢風味 トリップジョバン 雨 少年 二次創作ルート
2012-8-11 22:39
自分だけループ
爽やかな新緑の木々間を飛びはね飛びはね、体は軽い。
気持ちよく走り回って、野原に出た。さわさわと草が揺れる。スピードを落として風を感じ、
「あっ」
突然、暗転し、がくりと下に落ちた。
拍動する心臓の音がする。目を開けると暗がりのなか、天井に光の筋が通っていた。朝である。素敵な夢は終わってしまった。
立ち上がって、光が溢れる戸を開けた。昨日と変わらず、木しかない。木と、寝起きしている小屋しかない。
数日前、目覚めると林のなかで横たわっていた。頬に、手に付いた土埃の意味がわからなかった。
立ち上がると木々の間に建物が見える。そろりと入ってみると休むことができそうだった。人の気配はないが、誰か来たら事情を話せばいい。
ひとまず休むことにした。
それから状況は変わらないでいる。
へんてこな事になる前は、確か、酒を片手にネットサーフィンしていたのだ。
青い光が目にしみる。
しかしマウスを握る右手は離さず、画面の中の素敵なキャラクターの画像に夢を抱いていたのだった。
懐かしき俺のフォルダ。目を閉じれば可愛いあの子達が微笑んでくる。なぜ手元にネットがないのだろう。三度の飯より画面を見ていたかったのに。
戸の枠にもたれながら、ふと、飯の事を思い出した。
そういえば、ここにきてからなにも食っていない。腹は減っていなかった。
翌日。
やはり、俺は寝起きしただけだった。遠くに何かあるかもしれない、と、近くの枝を折って目印を落としながら歩いてみたが、断念した。いくら歩いても何もなかった。その散歩の間、俺は水も飲まなかった。
いくら根が怠け者といっても、何もせずにいると怖くなってくる。変化を見つけるために、明日も歩こうと思った。
小屋で寝起きし始めて、恐らく一週間が経った。今日も歩こうと思っていた。思っていたが、生憎の雨だ。
横になったまま頭の下で手を組んで、雨音を聞く。頑張るのは明日からと心に決めた。
何時間が経ったのだろう。うとうとしながら瞬きを繰り返していると、戸に何かがぶつかる音がして、俺は飛び起きた。
外はまだ、雨が降っている。
動物が迷い混んだのか・・・恐る恐る戸に近づく。
端に指をかけて、一気に引いた。
外には人がいた。少年だった。全身ずぶ濡れで、力尽きたのだろうか、体を縮めて倒れている。
久しぶりの他人に心臓が跳ねたが、どうにか手当てしないとまずそうなので、急いで小屋に引きずり込んだ。
「しかし、どうしたらいいんだ」
人の世話などしたことがなかった。足元からの呻き声が小さくなっていく。
とりあえず少年の衣服を剥いて布団のなかに突っ込んだ。
探検だか散歩だかどちらでもいいが、何の収穫もなく小屋に戻ると、少年が目を覚ましていた。
彼の服は部屋干して布団の側に置いていたのだが、彼はすでに着込んでいた。Tシャツにズボンを履いて布団に座ってこちらを見ている。
「君、どこからきたんだ」
視線があっても口を開く様子がない。心なしか、にらまれている気がする。怖い。
「具合はいいのか」
少年は何も言わないまま、布団にもぐってしまった。よくわからない。
俺もだまって、布団の膨らみを見ていた。暫くしたのち、考え付いたことに妙に納得できた。
この少年は俺が見ている幻だ。
暇すぎた頭が幻覚を産み出したんだろう。それなら横柄な態度も仕方ない。
いつの間にか雨が止んだ。幻を放っておいて外に出たかったが、なんだか変化がありそうで出たくない。幻だし、頭が元気になったら消えるだろうか。
「ぐるる」
少年の腹が鳴った。俺は側の壁に寄っ掛かっていたからよく聞こえた。布団の間から見える耳を赤い。幻でも腹は空くらしい。食べ物はないから放っておく。仕方ない。
「きゅー」
また鳴った。幻はもぞもぞと動く。少し動きを止めてから、がばりと起き上がって俺を見た。顔をちゃんと見たのは始めてかもしれない。幼い、可愛い顔をしている。が、すぐ不機嫌に視線をそらされた。
そして、ごく小さな声がした。
「何かない?」
「ないよ」
俺の答えを聞いて、幻は顔をしかめた。なにやら指を素早く動かしている。よくわからない。
「ちっ」
舌打ちが聞こえた。幻は短気なようだ。加えて布団から出ない怠け者らしい。なかなか消えない幻は、もしかしたら霊の類いかもしれない。
「それはいやだなぁ」
幻がこちらを見た。
緩い足元に気を付けながら外を歩く。手のなかで枝をぼきぼきと折って落としていく。
俺は少し幻を気にかけていた。彼は腹が空いているらしい。今日、小屋を出るときも言葉を交わす代わりに腹の音を聞いた。喋るわけでもなく、布団からでるわけでもなく。何度か肘を付いて出ようとしてたけれど、結局出ていない。俺は布団を取られているので床に寝て、その行動を見ていた。
おにぎりとか、落ちてないだろうか。
「いてっ」
前方不注意で木にぶつかった。額を擦りながら見上げる。思わず声をあげた。おにぎりはなかったが、赤い果物がなっていた。
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