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バレンタイン!(2/2)

話題:創作小説

昨日のバレンタイン!後編です。昨日の記事からお読みくださいませ( 〜'ω')〜

それではバレンタイン!後編スタートです

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 どうしよう、どうしよう。

 ケータイを握りしめて早5分。おにいちゃん、まだかなあ、まだかなあ。バイクならもう来てもおかしくないはずだけれど。

 もしかしておにいちゃんも迷って――!?このままおにいちゃんとも会えなくてお家に帰れなくて、変な人に捕まって拉致監禁身代金要求――!?


「あ、あうう……」


 慣れないことなんかするんじゃなかった。

 そもそも鷹雪くんのおうちに無事着いたとしても、一度いったきりでマンションの部屋番号も曖昧だ。
 それに、今日は日曜日。どこかにお出かけしてたら――


「ううう……」


 見慣れない景色に不安が増幅し、涙が溢れて来る。だめ、泣いちゃ、だめ。

 ぎゅっと唇を噛み締めると、足音がだんだんと近づいていることに気がつく。走ってる。


 ――もしかして、変な人!?私がずっとこの辺でうろうろしているから、気づかない内に目を付けられていて、私このまま捕まって拉致監禁身代金要求……!

 意を決して振り返れば、彼がいた。変な人でも、待ち侘びていたおにいちゃんでもなくて、彼。鷹雪くん。


「はあっ、はっ、亜子ちゃん!見つけた」
「鷹雪くうん……!よかった、あのね、あのね、鷹雪くんのお家に行こうとしたらね、迷っちゃって、それで……」
「壱さんに聞いた。ありがとう、ごめんね、もう大丈夫だよ」


 鷹雪くんの上がった息が、徐々に落ち着いていく。
 私も鷹雪くんが来てくれて安心したのか、溢れそうになった涙がすうっとひいていく。頭の上に乗った手の感触が、大好き。

 少しの間見つめ合って、ほっぺが熱くなって、笑えば鷹雪くんも一緒に歯を見せてくれる。


「俺ん家、道、一本向こうね。あ、俺に用あった? 亜子ちゃんが日曜日に出かけるって相当あれだよね、あ、もしかしてちょ」
「チョコレート!……鷹雪くんに、たべてもらいたくて」


不器用で、くしゃくしゃで、でも想いはたくさん込めた、あなたのことを想ってはじめて作ったチョコレート。

バレンタインデーにチョコレートを男の子に渡すのははじめてで、心が暴れている。ああ、どうにかなってしまいそう。
 喜んでくれるかな、お口にあうかな、受け取ってくれるかな、そんな不安がぐるぐると渦巻く。


「味……鷹雪くん甘いの苦手だから、苦めにしてね、オレンジとかレモンとか入れてね……」
「あ、あ……あ!ありがとう!チョコ、女の子からもらうの、はじめてだ……!」
「……うそ。鷹雪くん去年もらってたよね」
「ぎ、義理だよあれは!本命は、はじめて……本命、だよね?」
「違うっていったら?」
「泣いちゃう」
「ふふふ、泣かなくていいよ、ちゃんと、本命……だから」


 わ。嬉しそうな顔。いつもは大人びた顔をしているのに、子供みたいにくしゃくしゃと笑っている。この顔が見れただけで、うれしい。

 チョコレート作って、渡せて、よかった。


「――あ、やば。俺なんも用意してない……」
「男の子は、ホワイトデーに」
「3倍返し!?」
「う、ううん!3倍なんてそんな……!お返しなんていらないよ」
「いや、でも」


 と、鷹雪くんは突然手をズボンで拭いてから私の手を握る。あたたかい。ドキドキ。私の鼓動と彼の鼓動が重なる。私より、彼の方が少しだけ早い気がする。
 ――走ったから、なのかな?


「ばあちゃんとこだとさ、花!女の子に花を贈るんだって。バレンタインデーって」
「へえ……え!?お花!そんなそんな、高価なもの私には……」
「いーからいーから。こっちの通りにお花屋さんあるんだ」
「ううう……申し訳ないです……」
「遠慮しないで。俺からの気持ち」


 申し訳ない気持ちと、うれしい気持ち。ごちゃごちゃと混ざり合って、最終的にはうれしい気持ちが強く残った。
 ――男の子からお花なんて。ロマンチックだなあ。

 お花屋さんの中に入っていった鷹雪くんを、外に飾ってあるお花を眺めながら待つ。

 すずらん、ききょう、スイートピー。かわいいお花がたくさんあるけれど、私が好きなのは、かすみ草と、コスモスと、それと――


「お待たせ!はい、どうぞ」
「マーガレット!わああ、かわいい……ありがとう」
「花とかよくわかんないけど、亜子ちゃん好きそうだなーって思って。変じゃない?」
「大好き」


 白とピンクと薄橙色のマーガレット、淡いピンク色をしたバラ、そして小さなかすみ草。小さなブーケだけれど、鷹雪くんの想いがたくさん詰まっている。

 もう一度ありがとうと言って見つめれば、鷹雪くんのほっぺがだんだんと赤くなっていく。小さく首を傾げれば慌てた様子で目を反らされ、私の手をとる。


「か、帰ろう!ちゃんと家まで送ります」
「次は道間違えずに、ちゃんと鷹雪くんのお家まで行くね」
「待ってる」


 片手にブーケを抱え、もう片手は鷹雪くんの手を握る。私の両手はしあわせでいっぱいだ。


「あー、走ったら腹減ったなあ。あ、チョコ食べていい?」
「お口にあうか、わからないけど」
「亜子ちゃんが作ったんなら絶対うまいって!亜子ちゃん料理上手いし」


 お花屋さんのある通りからひとつ通りを移動すると、さっきまで私が立ち往生していた通りに戻って来る。
 河原に腰を下ろし、不器用なラッピングが開かれていく。不恰好なチョコレートを一粒。まじまじと見つめている。


「ごめんね、形、きれいにできなくて」
「いやいや!かわいい!いただきますっ!」


 鷹雪くんの口の中で溶けていく、チョコレートに込めた私の想い。

 とろとろに溶けて、あなたのおなかの中に沈んでいって、あなたの一部になる。

 すきだよ、あいしてるよ。ありふれた言葉でしか表現できないけれど。私たちが始まったあの日から、ずっと、ずっと、想ってます。ごくり、鷹雪くんの喉が鳴る。チョコレートが、鷹雪くんの一部になった。そう思うと急に顔が熱くなる。


「ん、んまっ!おいしい、超うまい!」
「ほんと?」
「甘すぎず、ほのかに酸味もあって、オレンジの苦みがいい感じで。おいしいです」
「――あ。男の子にチョコレートあげるの、はじめてで、とっても緊張してたの。えへへ、よかったあ」
「ありがとう」
「私も、ありがとう」


 恋人になって、はじめてのバレンタインデー。

 チョコレートを渡すなんて、簡単なことだと思っていたのに。こんなに胸がジンジンとして、くるしくて、せつなくて。それから、うれしくて。

 言葉にして想いを伝えることは、むずかしいから。だから媚薬のようなチョコレートに想いを込めて渡すのかしら。


「亜子ちゃんもたべる?」
「え?」
「あーん」
「あ、あーん……?」


 薄く開いた唇のすき間に鷹雪くんの指が触れた。

 びっくりして、思わず一緒にたべてしまいそうになる。

 ころん、と口の中でチョコレートが転がった。
 私には、少しだけにがい。


「指、食われるかと思った、はは」
「ごめんね、びっくりして」
「にがい?」
「うん、私にはちょっと」
「キスしたら甘くなるかもね」
「…………。しないよ!?」
「ちぇ〜っ」


 唇を尖らせほっぺをぷくぷくと膨らませる鷹雪くん。何気ない仕草だったけど、かわいい。

 そんな彼の耳元に、狙われている唇を近づける。無防備すぎるかしら。


「……でも、私のこと、ちゃんとお家まで送ってくれたら、ね」
「お!?じゃあ!早く!帰ろう!」


 あなたの指先が私の唇に触れたときから。心がゆらゆらと揺れていたの。


 想いを言葉にして伝えることは、むずかしいから。なにも言えなかったけれど。


(おわり)
more..!

バレンタイン!(1/2)

話題:創作小説

○鷹雪と亜子のはじめて迎えるバレンタインSSです。無駄に(1/2)なので2に続きます。まだまだバレンタイン気分の私です。

それではスタート( 'ω')9

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 愛猫と戯れながら、今日ははて何日だったかと思い出す。
 最近はバタバタとしていて日付感覚が曖昧だ。

 日曜日、ということは辛うじてわかる程度。壁にかけられたカレンダーに目を移せばハートマークが飛んでいる。ハート。

 2月の14日。バレンタインデー。


「おいおいおい」


「にゃん?」と彼女にどことなく似ている愛猫は首を傾げ、首輪についた鈴をリリンと鳴らした。「小夏、俺は用事ができた、悪いが李咲と遊んでな!」猫と話をする癖は直した方がいいかもな、そんなことを思い、彼女の家へと向かった。


 彼女には天性の引きこもり癖があり、休日は専ら自室に篭って読書をしたり愛猫と戯れたりしているとのこと。

 最近家族が"増えて"、義理の兄となるおにいさまと出かけたり、その兄の所属するバスケットボール部の試合があればその試合を観戦しに行くらしいが、今週はどこへも行かないと言っていた。
 十中八九家に引きこもっている。
 家族でのお出かけの予定や買い物、俺がデートに誘わない限りはほとんど家から出ることのない、座敷わらし的存在なのだ。

 だから今日もチャイムを押せば彼女が顔を見せてくれる、そう思っていたが、現れたのは彼女のおにいさまだった。


「こんにちは!松本ですけど」
「亜子なら出かけたぞ」
「は!?あの引きこもりの亜子ちゃんが!?」
「おまえなあ……。おまえの家に行くって言ってたけど」
「え、あ、すれ違わなかったんですけど……?」


 ふたりで首を傾げていると、携帯電話が鳴った。俺のではなく、壱さんの。亜子だ、と短くつぶやいてから壱さんは携帯電話を耳に当てた。


『おにいちゃんんん……!どうしよう、迷った……!迎えにきて……!』


と、俺にも聞こえる音量で亜子ちゃんの声がした。震えた声で、いまにも泣き出してしまいそうな、そんな声。
 しかし、迷った? ここから俺の家までほぼ一本道のはずだけれど。一体どこで。


「は? どこにいんだよ」
『わかんない……あ、近くにね、川があるの』
「川?」


 と、ちらりと俺を見る壱さん。川。ふむ。
「道一本間違えたのかな」とぼそりとつぶやけば、彼は小さく頷き、「わかった、いまから行くからじっとしてろよ」と話し電話を切った。


「おまえ、場所わかるんだよな。迎えにいってやれよ」
「――あ!ハイッ!行って参ります!」


 そうして俺は再び走り出した。亜子ちゃんを救出しに――!なんていったら大袈裟か。
 迷子の迷子の亜子ちゃんを見つけだすために!俺が必ず助け出してやる!

(後半へつづく?)
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当たり前の日々に。

話題:創作小説


当たり前の日々に。



彼女は寝付きがいいのか条件反射なのか、すぐ眠ってしまう。

数回頭を撫でると、嬉しそうに口元を緩ませ夢の中。
どんな夢を見てるのかな。
見つめてみても栗色のまあるい目は現れず、長いまつげを揺らすだけ。

綺麗な顔をしていると思う。本人は自分に自信がないのか、自己評価が極端に低い。でも、お世辞抜きにしてもきみは可愛いし可憐だし、大人になってからはもっと綺麗になったよ。

頬を撫でればしあわせそうに頬を持ち上げる。猫みたいだ。

帰宅して、ごはんを食べて、お風呂に入って、それから猫のように丸まって、ソファの上でちょこんと横になって、眠ってしまう。俺は彼女がソファから落ちてしまわないよう抱き留めて、そして枕になる。

最近の俺と彼女はずっとそんな感じで、どうやら俺の膝がお気に入りみたいだ。

慣れない仕事と暴れ盛りのこどもたちのお世話にお疲れの様子。

いっぱいお休み。でもたまには俺にも構ってね。さみしいよ。たくさん話をしたい。話を聞きたい。今日はどんなことで笑った? どんなことで悲しんだ? たまには俺のことを考えてくれた? たくさん、たくさん聞きたい。夢の中で、会えたら。

――なんて、女々しいことを考えている。

ふわふわさらさらとした栗色の髪は、きみに恋したあの日から変わらない。最初は、この髪がきっかけだったのかもしれない。俺と同じ、"普通"とは少し違う。コンプレックス。俺は、そうだったけど。彼女は違っていて、自分の髪を気に入っていた。だから魅力的に見えるのであろうか。


「ん…」

「あ」

「ん、ふふふ」


おいしいものでも食べているのだろうか。口をもごもごと動かしていた。長いまつげを相変わらず揺らして。
つけっぱなしにしていたテレビでは、グルメ番組が放送されていた。


「これか」


焼きたてのメロンパン。そんなやつ――しかも食べ物!――に負けたのかと思うと悔しくて、テレビの電源を切る。静寂の中に微かに聞こえる彼女の呼吸。ゆっくり、ゆっくり合わせて、頬に触れる。

やわらかくて、しあわせがたくさん詰まっていそうなほっぺた。ふにふにと感触を楽しめばまた笑う。


「……たかくん」

「ん?」

「おいしい」

「なに食べてる?」

「ふふふ、あんまん」

「じゃあ俺は肉まんだ」

「すきだからね」

「うん」


夢うつつなきみとの会話。意味もないようなこんな会話がなによりしあわせで。


「亜子ちゃんも、すきだね」

「大好き」

「……」


目があった。栗色の、まんまるい。いつものきみの、かわいらしい瞳。
眠っているものだと思っていたけれど、しっかりと目を開いていて。


「たかくんのこと」

「――ん」

「……ふふふ」

「……」

「だっこして」

「寝る? 着替えなくていい?」

「やって」

「……はいはい」


一緒に暮らすようになってから知ったことだけれど、亜子ちゃんは眠くなると甘えん坊になるようだ。普段はしっかりしている癖に。このギャップが堪らなくかわいい。


「オオカミさんに襲われても知らないぞ」

「私の知ってるオオカミさんはやさしいから、そんなことしないもん」


――本当に。信頼されているというかなんというか。
毒気を抜かれるこのあどけない顔。変な想像をしてしまう自分が恥ずかしくて、きみの純粋さがまぶしくて。


「服、俺が脱がしてもいーの?」

「うん、して」

「……亜子ちゃんさあ」

「なあに?」

「――。なんでもない」


もしかして誘ってる? なんて愚問、できなくて。
潤んだ栗色の瞳に見つめられ、こっそりと赤面するだけ。

一番上まできっちりと閉められたブラウスのボタン。外し慣れたはずなのに、やっぱり緊張する。


「…………。あー!やっぱり自分で着替えて!ベッドまではだっこしてあげるから。俺あっちで着替えてくる」

「…うん」


彼女にパジャマを渡してからリビングを出、俺は洗面所で着替えを済ませた。

いつも彼女のペースに巻き込まれてしまう。ほわほわとしていてあたたかくて、真っ白い。それが結構心地好い。だけれど、もどかしくもある。


「あー、襲われたいのかな。なわけないか、天然か」


顔を洗い、歯磨きまで済ませてからリビングに戻ると、眠っていた。また丸くなってソファの上。寝ぼけていたのか、パジャマのボタンを掛け違えている。それを直し、約束通り彼女をベッドまで運んでいく。少し、痩せたのかもしれない。


「ありがとう…」

「ん、起こしちゃった?」

「んーん……おやすみなさい」

「……うん。おやすみ」


栗色の髪を撫でながら、夢の中へと落ちていく彼女を見守る。手を握ればやさしく握り返してくれる。


「ふふふ、たかくん」

「……亜子ちゃん」


俺の夢でも見てくれているのだろうか。夢の中だとやっぱり恰好いいのかな?

きみが笑っていると、やっぱり嬉しい。

頬の感触を楽しみながら俺も布団に潜り込む。あたたかくて、あたたかくて。ずっとそばにいたい。
これからもそばにいさせてね。隣にいさせてね。隣にいてね。


「おやすみ」


こうして俺たちの一日が終わっていく。

「おはよう」で始まって、「おやすみ」で終わる。当たり前のことだけれど、それだけでしあわせです。
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きっと、敵わない。

この先創作SS(多分R15くらい)が置いてあります。

あ〜ん?興味ねえな!って方は速やかにお戻りくださいませませ


注意!

・軽く本編のネタバレが含まれます。内容としては本編のその後、といった感じです。(鷹雪と亜子の関係を把握されていればまあ大丈夫です。)

・ちょっぴり大人?な表現が含まれます。15歳未満のよい子は回れ右だよ!


大丈夫!という方は↓下のmoreというリンク、もしくはスクロールでどうぞ(*'ω'*)
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拗ねないで。

話題:創作小説

「あ――」



髪を撫でる温かな手の感触に目を覚ますと、栗色の髪がふわりと風に舞っていた。いつもは潤みがちで大きな栗色の瞳はまぶたに覆われている。

眠っているのだろうか。木陰では逆光になってしまい、彼女の可愛らしい顔に影ができてしまっている。微かに照らす木漏れ日は、細かな表情を読み取るにはどうも頼りない。


なんとなく「夏目」と呼べば嬉しそうに少しだけ頬を持ち上げて、でも目はつむったままだった。相も変わらず俺の髪を撫で、頬を撫で。ほほ笑みを携えている。

それが心地好くて、彼女が起きているかなんてどうでもよくなり、また眠たくなってしまう。

寝返りをうつために頭を動かすと、くすぐったいのか彼女が笑う。彼女の膝を枕にさせてもらっている身ではあるが、反応が楽しくてわざと頭の収まりが悪いふりをした。



「あー……」

「また寝るの?」



あ。やっぱり起きてた。栗色の瞳をやっと覗かせ、やはりほほ笑む彼女はかわいらしい。



「さっきまでぐっすりだったのに」

「え、マジ」

「うん。マジ」

「うーん、夏目の膝きもちいいから……」

「ふふふ、痺れてきちゃったな」

「あ、ごめん!」



慌てて起き上がろうとすれば彼女の手の平がそれを制す。額に添えられた手はあたたかい。



「ごめんね、冗談だよ」

「……」

「あ、拗ねないで」



拗ねてなんか、いないけれど。彼女がそんなふうにいうから拗ねたふりをする。

頬を膨らませたりなんかして、顔を反らして。こっそり、彼女の膝の柔らかさに癒されながら。

俺の機嫌をとろうとしているのか、彼女の手がそっと髪を撫でている。そうされると、やはりというべきか眠たくなる。

一定のリズム。ぽんぽん、と。



「んー、……?」



それが突然止み、彼女の顔を見てみると、悲しいのか、切ないのか、眉をハの字にして栗色の瞳を潤ませていた。



「え」

「ごめんなさい……」

「えっ、なにが、――あ、俺拗ねてないよ、怒ってもないし」

「……へ。そうなの?」

「ん……むしろ俺がごめんね」



素直で無邪気で純粋なきみを困らせてしまって。そういうところが、"好きだよ"。

そう言おうとして、言葉が出てこない。やっぱり、そんな言葉は照れ臭い。

そっと手を伸ばして、彼女の頬に触れて、髪に触れ、弱点である耳に触れる。「きゃ」、と小さな悲鳴を上げた彼女の頬は真っ赤に熟れていた。


――あ。なにこの表情――


かわいい。


そう思ってしまったらもう後戻りはできなくて。
もう一度髪を撫でて。彼女の顔を近づける。俺も少しだけ身体を起こし、彼女に近づいた。栗色の瞳がまあるく見開いている。



「え、たか――」

「ごめん」



外でするのは恥ずかしいな。近い昔、そういっていたことをふと思い出しても遅い。

俺を覆う影はますます濃くなって、木漏れ日がわずかにちらちらと光る。

軽く唇同士が触れ合って、数秒。名残惜しく離れていく。また、目を潤ませて、赤い顔をしていた。きれいな顔をしていた。



「ごめんね」

「……う、ん」

「……」

「……たかくんのばか」



真っ赤な頬を膨らませ、顔をぷいっと背ける。今度は彼女が拗ねる番であった。そして、俺が彼女の機嫌を取る番。

ぽんぽん、ぽんぽんと彼女の頭を撫でて、

more..!
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