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「魔王さま、魔王さま、なんだか楽しそう?」
「ああ、とても楽しいよ」
「なぜならば?」
「面白いものを見付けたんだ。手に入ったらお前にも見せてやろう」
目を細めると魔王は指先で鳥のような魔族の子どもの頬を擽った。
「んあー」
きゃらきゃらと笑いながら体をくねらせて嬉しがる魔族の子ども。
「魔王さま、あなたさまのようなお力をお持ちであれば、今すぐお手に入れられればよろしいのでは?」
「ふふ。それでは楽しくないだろう?ぼくはソレに自らの意思で僕の手に収まってくれないかと欲しているんだ」
「あああ、魔王さまにそれほどまでに興味を持たれる存在とは!うらやましい!」


話題:突発的文章・物語・詩

踏み込む。
下から上へ、ねじり込むように突き上げる。
――一体。
すぐにからだを捻り、返す刃で斜めに払う。
――二体。
急激な魔力の流れの変化を感じて、カンに任せて右へ跳ぶ。
今しがたまで体があった空間で爆発する光。
目が焼かれて一瞬視覚が閉ざされる。
「っっ」
左腕に走る熱。
右手に持った剣でナニかを突き刺し力任せに引きちぎり後退する。
獣のような息遣いがジリジリと迫る。
背筋がうすら寒い。
――あと二体。
一体は犬に角が生えたような、四足歩行の魔族だ。
左腕を刺したのは、その魔族の前肢にある細長い棘だ。
左右一本ずつあったであろうそれは、左が根元から抉られてぶら下がっている。
それは腕を貫通したらしく、出血箇所は二点。
もう一体は不定形の魔族だ。
本性はわからない。
魔力を使って攻撃してくることしかわからない。
物理的な攻撃はあるのか、ないのか。
あがる息を無理やり押さえつける。
左腕が、あつい。
不定形の魔族がキラと光る。
ザワリと風が場を乱した。
同時にかわる魔力のながれ。
変質するそれにかわすように体を斜めに前進させる。
魔力は放射状に広がる。
大きな魔力をかわすための後退は逃げ場を狭める。
目の前に迫る犬のような魔族。
正面でぶつかる直前で跳躍し、上からの切断を狙う。
棘と刃がぶつかる硬質な音。
ギリギリと耳障りなきしみ。
不定形の魔族はどうやら連続しての攻撃は不可能であるらしい。
不定形の魔族の魔力が揺らいでいる。
不安定だ。
――もしかしたら。
左手を刃の背に当て、腹に力を入れ上から力任せに押す。
きしみが大きくなる。
魔族は噛み合わせた歯の間からうめき声を漏らす。
あと少し。
左腕から血が溢れるでる。
犬の魔族の後ろから莫大な魔力が流れてくる。
それは極彩色の輝き。
意識が染める。
いっそ美しくさえあるそれは身を委ねたくなるほどの誘惑。
くそっ!折れろ!
バキリと折れる棘。
感覚がなくなる左腕。
入れた力が対象を失って体が崩れそうになるが踏ん張ってそのまま前肢を断ち切った。
絶叫する魔族。
咆哮に口を開けたところに剣を突き刺し脳天まで貫抜く。
そのまま剣を右に振り、魔族の体を投げ飛ばす。
その勢いで顎と脳天を繋いでいた剣が真っ二つに顔面を割り、魔族の体は離れたところに打ち付けられた。
オ゛オ゛オ゛ォォ…
断末魔の声。
肉体の器から魔力がこぼれる。溶けるように腐り落ちる肉。
迫っていた魔力は立ち消え、不定形の魔族も消え去っていた。
二体の魔族は相互寄生していたのだろう。
推測と可能性にかけただけの作戦だったが、しかしそれ以外に選択肢は無いに等しかった。
片腕のまま、二体と渡り合えそうにはなかった。
急速に溶けた魔族の体もうなかったが、充満する腐臭に思わず眉が寄る。
――気配がした。
振り向くと同時に刃をつきだす。
「ストップ」
指先で止められた刃。
戦慄する。
桁違いの魔力を感じる。
器に絶え間なく注がれ、溢れるのを止められないというように垂れ流される魔力と気配。
圧倒的な存在。
突然の出現。
「いつから、いた」
喉がしまる。
早鐘の鼓動。
「君が魔族に囲まれたあたりから」
つまりは、最初から。
「ねえ。僕、君が気に入ったんだ。また会いにくるから、その時は歓迎してよ」
細められる目。
見つめられ、動かない自身の体。
スッと体を寄せられる。
いけない。
こんな、手の届く距離に魔族を近づけてしまうなどと。
なのに、視線すら動かせない。
反らすことを許されない。
「これは約束の証」
――
瞬間、体が沸騰した。
首筋に口づけをされた瞬間。
比喩ではなく何か焼けつくような衝撃が駆け抜けた。
今までの呪縛が嘘だったかのように力がぬけてへたりこむ。
なのに意識はこれまでにないほど明瞭だ。
何が起こったのだ。
わからない。
けれど、はっきりとひとつだけ明白なことがある。
衝撃のさった体のなかで、たった一ヶ所、ジンジンと熱を持って疼く首筋。
しるしが。
証が。
つけられた。
「ねえ。また会いにくるから。絶対に。楽しみにしていてよ。ね?」
楽しげな語調で囁くと、その存在は消え去った。
先ほど倒した魔族たちのように、死んだが為ではないことは、明らかだった。


話題:突発的文章・物語・詩

タイトルなし

魅了される。
本能が危険だとこれ以上ないほどに警鐘を鳴らしているのに、目が逸らせない。
見つめられているだけなのに、甘くからだが痺れる。
『おいでよ』
小さく紡がれる言葉。
距離があるはずなのに、耳元でその囁きはきこえる。
『ほら。僕の手をとってよ』
言葉は願いの形をとっているが、それは絶対的な命令であった。
強い力の、力そのものの存在。
その手をとったらどんなに幸せだろうか。
支配されたい。
思うと強い官能の予感にからだが震えた。
「あ…」
思わず漏れた声はあきらかに快感を滲ませていた。
『かわいい』
耳元でする囁きの声に、ぞくぞくと背筋を快感が走り抜ける。
「あぁ…もお…」
だめ。

クタリと力が抜けたからだをかかえて、その存在はくすりと笑った。
「いただきます」


話題:突発的文章・物語・詩

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くらいところでいしきができました。
どうじに、とてもおなかがすいているのにきづきました。

たべたい。

ピクリとなにかがうごきました。
いいえ、それは自身のくちびるでした。

うごきたい。

ねがうとあしができました。
てができました。
からだができました。

ぼくは、くらいところでうまれました。
いま、うまれました。

理解するとぱちりと目が開いた。

『うまれた』『おうまれになられた』『あああ』『なんという深紅のかがやき』『ころされたい』

さざ波のように耳に入ってくる声や、声を出せないものが伝えてくる思念。

一番近くにいたものに尋ねる。

「ぼくはおなかが空いた。魔力がつよいところに案内をしてくれないかな?」
にこりと笑う。
「あああ、魔王さま、わたくしごときに微笑まないでください。あああ!」
ぱたりと倒れるなにか鳥のような形をした魔族。
あしが四本ある。
「大丈夫?」
その魔族はさっと起き上がると、バサリと羽を広げ、クルリと一回転をした。
着地したときには大人の人間の二倍くらいの大きさになっていた。
「魔王さま、わたくしごときのからだにと不快でしょうが、どうかお乗りください。お連れいたします。目的地に着きましたら不敬を働いたわたくしを殺して頂いてもかまいません。けれど今は空腹を満たして頂きたく」
「いいよ。でも殺さない。だって、君がいないと帰ってこられない」
ワッと魔族たちが沸く。
『ここに帰ってきてくださる』『ここに』『ここに』『魔王さまが』『ここに』
「じゃあいってくるよ」
鳥のような魔族に乗って飛び立つ。


じわりとからだが熱くなるような、どこか恍惚となる食事。
からだの奥から満たされ、今なら何でもできそうで、けれど何でもできることを知っているから面白くない。
魔力の塊。
魔力でみたされなければならない。
それは世界の理だ。
発光する榊の枝。
白い肌に透ける青い葉をつけた大木。
それはニロイの木だと周りを飛びかう紫色の光の魔族のどれかが教えてくれる。
魔力が混々と沸くところ。
人間が気付くのは難しいが、榊の枝とニロイの木の絶妙な配置が魔力を生み出している。ニロイの木の青く透ける葉が、午後の光を青く煌めかせ、地面に不思議に影をおとす。
うつくしい光景。
うつくしさにはそれ自体に魔力がうまれる。
鳥のような魔族は離れたところでまっている。
強すぎる魔力にからだが引き裂かれそうなのだと言っていた。
からだに魔力が満ちた。滴り落ちるほどに。
からだが魔力によって固まったのがわかった。
人間の成人の男のからだだ。

「またせたね」
「あああ、魔王さま。いっそ殺されたいほどの輝き」
「さあ、ぼくを乗せて帰っておくれ。彼らはきっとぼくを待ってくれている」
「はい、それはもちろん」
バサリと広がる羽。
肌触りは滑らかで心地好い。
「では、参ります」
魔力に満たされ、完全な存在になったぼくを、みなは祝福してくれるだろう。
そう思うと嬉しかった。
早く帰りたい。


話題:突発的文章・物語・詩
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