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あまり9

『魔法が、世界に"干渉する"手段?』
はじめてソレの感情が揺れた。
驚き、疑問をもち、そして考えている。
これまでの問答では、全知然としていたのに。
『魔法で、世界に干渉…唯一の解…、神への…!』
『わたしはこの時を待っていた。わたしの子らよ、魔法をわたしに捧げよ!今こそ神のもとへ集うのだ!』


話題:突発的文章・物語・詩

あまり8

一番はじめの言葉はとても大事だ。
小説しかり、コマーシャルの第一声しかり。
新聞も読んでもらうために見出しは細心の言葉選びをする。
ぼくは悩んでいる。いや、困っているといったほうが適切かもしれない。
自己紹介の一言目にはなにを言うべきなのだろうか。
いや、人を突然呼び止めて、突然自己紹介を始めるってどうなんだ?
じゃあ、何からはなぜばいいんだ?
普通だったらあまり考えずともスラスラとなにかしら口をついてでてくるのに…!
こんなに頭を絞り出したいほどひねっているのには訳がある。
ぼくは、この女の子に好かれたいのである。


その女子についてはじめてきいた述語は
『天才』
だった。
何かの天才ではない。
何もかもの天才なのである。
そして次にきくのは
『あのこは無口ね』『たまにしゃべったかとおもうと、なんか電波』『不良じゃないの?』『優等生とはなんか言えない素行なのはみとめる』『けどー、不良ってゆーにはちょっと違うてきなー?』



話題:突発的文章・物語・詩

あまり7

――魔方陣とは、美しい方程式だ。
先生が一番はじめに魔学を教えてくれた時の言葉だ。
先生の紡ぐ一言一言が、魔力を持つ詩(うた)の一節のようで強く耳に残っている。
――呪文とは解の導出過程だ。ひとつでも根拠や計算式を違(たが)えれば、それは瞬く間に意味を持たないただの音の羅列になる。
――ひとつの魔法が完成し、魔力がひとつの目的に向かって収束し放たれる瞬間、行使される瞬間とは、方程式が解かれ、魔法の行使者が解を得る瞬間である。
――解とは、世界の理(ことわり)に干渉しうるただひとつの手段である。


先生は「世界の解」を欲していた。
魔学の徒であれば一度は耳にする言葉。すべての魔学者の憧れ。
それは、世界の理を作った神の存在を証明できる唯一の方法。
神を地上に召喚する魔法の核だ。



話題:突発的文章・物語・詩

あまり6

初めてヴァルの手を取ってくれたのはエルダエだった。ヴァルは誰かに手を差し伸べられたことはなかったし、ましてや繋いだことなんてなかった。
濡れた靴を履いて、路地裏にへたりこんでいたヴァルははじめ、差し出される手の意味がわからなかった。
不思議そうに、そして警戒を含んだ眼差しで差し出した手を見つめられ、エルダエは半ば強引にヴァルの手を取った。
ヴァルはその時のエルダエの表情を覚えていない。けれど、繋がれた手から伝わってきたぬくもりだけははっきりと覚えている。


カツカツと靴と磨かれた石がぶつかる音が好きだ。
硬質なその音は心地好い。
聖堂にある長椅子に寝そべっていたヴァルは、やってきた男が静かに跪き、頭をたれて祈りを捧げる様を見ていた。
冬の季節。
この辺りは雪に覆われる。
夕方からちらつきはじめたそれは、深夜のこの時間には人差し指の高さほど積もってやんだ。
石造りの聖堂は底冷えし、張りつめた空気に満たされている。
雲間から差し込む月光に男の髪が輝く。
銀の髪だ。
針のように真っ直ぐで、鉄をこれ以上ないというほどに細くのばすことができればこんなふうになるのだろうと思う。
その一房が目を閉じて祈る男の頬をかくしている。
しばらくして男が立ち上がり、ヴァルの方を向いた。
「また私の魔法使いはこんなところで油をうっていたのか」
「せんせー、オレはちゃんと仕事していまーす。いまはちょっとキュウケイ」
椅子の上で体を起こし男を見上げると、男はヴァルの頭に手を伸ばしてきた。
ゆっくりと髪を撫でられる。
数日寝ていないせいで肌も髪も荒れている。それを癒すようにゆっくりと何度も撫でられる。
「いいこだね。私の魔法使い。私の願いを叶えてくれる私の魔法使い。けれど、あまり無理をしてはいけないよ。こんなに髪が痛んでいる。柔らかな触り心地が好きなのに」
「もうちょいなんだ。先生。ずっとまたせたけど、もうすぐだから。期待しててよ」
「ああ。楽しみにしているよ」
弧を描く男の口元に満足する。
世界の解は、もうすぐ手に入る。


話題:突発的文章・物語・詩

「魔王さま、魔王さま、なんだか楽しそう?」
「ああ、とても楽しいよ」
「なぜならば?」
「面白いものを見付けたんだ。手に入ったらお前にも見せてやろう」
目を細めると魔王は指先で鳥のような魔族の子どもの頬を擽った。
「んあー」
きゃらきゃらと笑いながら体をくねらせて嬉しがる魔族の子ども。
「魔王さま、あなたさまのようなお力をお持ちであれば、今すぐお手に入れられればよろしいのでは?」
「ふふ。それでは楽しくないだろう?ぼくはソレに自らの意思で僕の手に収まってくれないかと欲しているんだ」
「あああ、魔王さまにそれほどまでに興味を持たれる存在とは!うらやましい!」


話題:突発的文章・物語・詩
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