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兼続と左近
(直江さんがS的に酷くなった)

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団扇で送る風すら熱をはらむ中、蝉が鳴く声と暑気と足をひたした盥の水が、その時世界の全てだった。

「…それを考える時に」
不意にかけられた声に、左近は視線をそちらへ向けた。視界の端に、庭先で青年が遠くに目をやっているのが映った。

「する側であるか、される側であるか。そういう意味では私は己を被虐的なのだと考えます」
青年は、縄や鞭で朱く染まる肌が見た目にどうこころよいかや、道具や方法と結果の差異をとうとうと語った。
それらを聞き流しながら左近は冷やした酒の事を考えていた。
喉を通る冷えた液体は胃に届くと途端に腑を焼く。知らずぐびりと喉仏が上下した。

「そして」
ぱしり、と皮を打ち合わせる音がした。

「己が所業に己の心が痛むことに、如何しようもない興奮を感じるのです」
蝉の鳴き音がとまった。ぱらり、と鞭を垂らす音が不思議とはっきり左近の耳に届いた。

身を翻した拍子に盥が返って水が散った。いま己が居た場所を皮革が打つ音に耳の後ろがざわめく。
獲物を逃した鞭が再び襲い来る気配に、左近は廊下に足を踏み出して

滑った。

兼続は、重い音をたてて頭をぶつけて沈黙した左近をしばらく眺めた。そして鞭を納めると近寄って、力の抜けた体を裏返した。

鼻から流れた血液が床に染みをつくっていた。

▼続・・・?