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消えてしまえばいい(蘭マサ)




そういえば朝から具合が悪かったことを吐く10秒前におもいだした。必死にトイレに駆け出し、バン、思い切り個室のドアを開け鍵をしめる。おええ、胃液と一緒になって出てくる朝ご飯だったものを見つめながら俺はトイレの水を流した。なんともいえない不快感に何度も何度もうがいするが中々あの独特の気持ち悪さは抜けなかった。
なんで自分がこんなことになったのかと言うと理由は単純かつ明快である。俺の先輩のせいである。
ふたつ結びの甘い桃色にやたらと綺麗な白いはだ。吸い込まれそうなみどりの、おおきな瞳。俺はこの人が大嫌いだ。この世で一番苦手であると思う。艶やかな唇から吐かれる言葉。いやだ、聞きたくない。



『愛してる、神童』



ほら、そうやってあなたは抱き締めるんだ。神童キャプテンじゃなく、俺を。さいてい、だよ。霧野さん。あんたなんて、それでも嬉しい自分なんて、大嫌いだ。

そういうと霧野さんはにぃっと笑った。《好きって言えよ》そう霧野さんの唇が動く。俺はたまらずその唇をふさいだ。キスをしながら舌を噛みきってやろうかと思ったが彼がその舌を優しく絡ませて来たので、俺はまたまんまと流されてしまった。霧野さんなんか、消えてしまえばいい。甘いにおいに包まれながら俺はゆったり瞼を落とした。





20120811


もどかしい(緒荻)





「単刀直入に言う。やらないか」
「何をだ」
「何って…その、まあアレだ。アレ」
「アレってどれだ」
「…あーもう!じれったい!!」





どさっ!俺は力任せに荻を押し倒した。勢いがよすぎたので荻は思い切り頭をうったが、まあ荻なので心配はない。だって鉄人だもん。
荻は未だに「なんだ」とか「意味がわからん」とか呟いている。うっせー、俺が一番わかんねーよ。なんなんだろな、俺。


「こんなオッサン好みじゃ無いんだけどな」
「はぁ!?なにが言いたい、お前!」

しゅるる、口で荻の固く閉められたネクタイを解いた。お前の心もこれくらい簡単に解ければいいのにな、なんて我ながら情けないことを考えながら俺は荻のシャツの中におもむろに手を突っ込んだ。荻は俺の手の冷たさに身をよじる。逆に俺は荻のあたたかさにとけてしまいそうだった。





もどかしいの

伝わらない思いが、気がつかないお前が、言えない俺が。




20120401
緒荻が一番かきやすいです

そして僕は恋をする(志摩勝)

 

 

 

「坊」
「ん、何や志摩」
「いや、呼んでみただけです」
「何やそれ」

 

 

 俺がこんなことを口走ったのは、誰もいない教室はとても静かでとても煽情的だったからかもしれない。だったからなのかもしれない。「よくあるやないですか、恋人同士のやり取りで。」そういうと坊はとてもとても嫌そうな顔で「何時お前と俺が恋人になったんや」と苦い顔をした。ええやないですか、別に。俺は坊の事好きですよ。せやなあ、どんぐらい好きかって言うと、普通にセックスできるくらいですわ。飄々という俺に坊は目を見開いた。「はあ?」と声をあげる暇もないらしい坊は少ししてからひとつ溜息をつく。この呆れたような坊の顔は、俺は案外好きだったりする。俺は坊の机にひょい、と腰掛けた。

 


「お前、仮にも坊主やろ」
「いややな、坊しらんの?昔の寺の坊主は男の子に手出してたんやで」
「・・・・・・だからってなあ、お前」
「別に、付き合ってくれんくてもええよ」
「セックスもせえへんぞ」
「いいですよ、今は」

 


 今は、まだ良いんですよ。坊がいて子猫さんがいて俺が居て、それ以上に求めるものなんかあらへんわ。そういいながら坊の首に手を回す。がっしりとした坊の身体が布越しに伝わる。微笑む俺に坊は不可思議そうな顔をした。

 


「それはあれやろ、友情やろ」
「えー、ちゃいますよお。坊のは特別!」
「お前が言ってもどうも本気とは思えへん」
「いややな、俺はいっつも本気・・・」

 


 そういってぐい、顔を近づける。このままキスでもできるかと思ったが坊の「やめろや」の一言に俺は動きを止めた。あとすこし、唇を尖らせれば届きそうな距離の坊と目が合う。まつげとまつげが触れてくすぐったい。睨む訳ででなく、微笑む訳でもない凛とした顔。俺は無性にその坊の凛とした顔がいやらしく思えた。同時に、身体が熱くなるのを感じた。

 


「・・・・坊、ここで止めるとか生殺しにも程がありますよ」
「お前は発情期の猫か!」
「ええ、そうかもしれへんなあ」

 

 

 そうならいいのに。そう思いながら俺は坊に絡めた腕をゆっくりと戻した。そうだったら臆することなく坊とキスなりなんなりできたのだろうか。この人に嫌われる事が執拗に怖い自分がいる。”側にいられるだけでいい”なんて、カッコ悪いにも程があるけれど。
 窓から漏れた茜色の光が、教室中を包み込んだ。 「帰るぞ」その一言に俺は静かに頷く。そして、心のそこから思うのだ。「ああ、この人が好きだな」と。

 

 

 

 


20111025

 

 

書いてたら志摩受けもいいかもしれないと思うようになりました。
ていうか京弁がわかりません。

 

 

 

 

 

 

 

粛然たる(ギャルあこ)

 

 

 

 


「ギャルソンさんこんにちは」

 

 

 またきちゃいました。そう笑う彼女の顔は明るい。好き好んで此処に来るお客さんなんて言うのはきっと彼女くらいだろう。私の青白い顔を気味悪がらずに本気で心配して微笑みかけてくれるのも、きっと彼女だけだろう。「ここの料理おいしいから」なんて言う彼女の顔はきらきら輝いている。そんな彼女を私はなんだか愛おしく思う。これが恋なのか愛なのかただのライクなのかはよく理解らないが私が彼女に惹かれているのはもっとも確かな事である。彼女が笑うとなんだか自分も嬉しくなって彼女が泣けばなんだか自分も悲しくなる。それを猫に言ったら「ギャルソンさん、ロリコンですね」と吐き捨てられた。私のどこがロリコンだというんだか。この思いをそんな低俗なものと一緒にされては困るんですが。そう言う私にまた猫が悪態をついて来たのは言うまでもない。なんだかむかついたのでぶくぶく音を立てている熱々のスープを口に流し込んでやったら口を押さえながら泣いて跳んでいったので少し悪い気がしてまあ良しとした。

 

 

「ギャルソンさん?」

「あ」

「どうしたんですか?ボーっとしちゃって・・・具合でも悪いんですか?」

「いえ、ちょっと生意気な猫の事を思い出していて」

 

 

 彼女はよく理解らないといった調子で頭を軽く傾ける。(嗚呼、なんて可愛らしいんだろうか!)そんな彼女に私は「そんなことより」と話を戻した。「今日はどのような料理にいたしますか?」そう聞く私に彼女は「とびっきりのをください」と微笑んだ。かしこまりました。その8文字が静かなレストランにゆっくり響いた。

 

 

 

 

 

 

20101223
きもちわるいギャルソンさん
なにげみんな仲良しでもえます

王子なんてこない(ユウアコ)








「ユウマくんさあ」

「なんだよ」

「あたしのことすきでしょ」

「は!?」






ユウマくんは「ばか」だとか「なにいってんだ」とか言っているけれどその真っ赤な顔でどもりながら言われても説得力はない。ほんとうに素直じゃないなあとわたしは微笑んだ。ユウマくんはレイコと似ていると思う。前にレイコに「ショウくんのこと好きでしょ?」と聞いたときも似たように顔を真っ赤にしていた。なんてわかりやすいの、このふたりは!!あーあ、つまんないなあ。みんなあたしのことだけおいてきぼりにして青春を謳歌するなんて!!だけどショウくんはかっこいいのに怖いはなしに夢中だしレイコは現実主義な割に怖がりだしユウマくんは俺様でいじめっ子だしあたしは空想好きなだけで冴えないし。なんだかドラマみたいにうまくはいかないものだな、とあたしは空気を噛み締めた。






「ユウマくんが紳士だったらなあ」

「は?なんのはなしだよ」

「ユウマくんがもっともーっと優しかったら、このもやもやも恋になったのかもね」

「だから、なんのはなしなんだよ」






そういうユウマくんを尻目にあたしはゆっくり歩いていた坂を猛スピードで駆け抜けた。ああ、あたしの王子様は一体どこにいるのかしら。わたしははぁ、ため息をついた。











20100310
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夢みがちなアコ
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