ーーーー私立聖ミカエル女学院。
明治初期に設立されたミッションスクールで、幼稚園から大学まである
エスカレーター式の一貫教育校だ。
7割が繰り越しで残りの3割は外部からの入学となっている。
「ねぇねぇ、クラスの発表見た?」
「見た見た。姫宮さんの名前、あったよね!」
「A組の人達が羨ましい!」
「あの姫宮さんと一緒のクラスだなんて良いなぁ……。」
外部入学組の歓声に繰り越し組は何事かと様子を見る。
しかし彼女達が騒ぐのも無理はなかった。
姫宮萬月という人間は音楽作家兼デザイナーとして活躍している女優だ。
美しい紅い髪に浅葱色の瞳。色白の肌。
160cmの小柄な体からは想像がつかないほど透き通るアルトの声が出る。
見目麗しい容姿を持つ彼女はその類まれな才能でブランドを立ち上げただけでなく、
女優としてもデビューした。
そのため、私立聖ミカエル女学院でその名を知らぬ者はいない。
……なので。外部入学組は和気藹々と浮かれているのだ。
「……賑やかだなぁ……。」
「お嬢様、有名人ですからね。」
「女子校となると、どうしても刺激になるからね。
……じゃあ、俺は保護者受付に行ってくるから。」
「はい、芳樹さん。」
芳樹は満月よりも12歳離れた幼馴染で婚約者でもある。
曾祖母の代から付き合いがあり、彼もまた俳優兼モデルとして活躍している。
黒髪に藍色の瞳、小麦色の肌。引き締まった筋肉質の体。
そんな彼の実家は世界有数の巨大複合企業グループだ。
日本有数の大企業グループでもある姫宮家にとって芳樹は、
優良物件以外の何物でもなかった。満月は生まれる前から男性の贈呈用として決まっていた。
だが、2人は周囲の意図に関係なくお互い愛し合っていた。
芳樹と別れた満月と物吉はA組に向かった。すると黄色い歓声があがる。
「本物の姫宮さんだ!」
「可愛い!」
「去年のミュージカル刀剣乱舞、トライアル公演観に行ったよ!」
「あ、私も!」
A組の教室に入るなり、満月は手厚い歓迎を受けた。
「皆さん、お嬢様が困っています。
はしゃぐ気持ちはわかりますが、落ち着いてください。」
「あ、ごめんなさい……。」
「ありがとう、物吉。助かったよ。」
「これぐらいお安い御用です。」
満月がお礼を言うと物吉はニコリ、と笑った。
そこへシスターがやってきて一通りの説明をした後、
満月達は体育館に向かった。
式は滞りなく行われ、無事に終わった。
「終わったぁ…。」
「終わりましたねぇ……。」
式が終わった後、満月達は翌日の流れについての説明を受け
終礼した。
「物吉、芳樹さんから入学祝と誕生日祝いを貰った後の予定は?」
「旦那様達と食事会です。」
「お父様とお母様も奮発するんだろうな…。」
「そうでしょうね。お兄様方達も豪華なものを出すと思いますよ?」
「お兄様達、極度のシスコンだからなぁ……。」
「たった1人の妹ですからね。」
そんな会話をしながら、満月と物吉は廊下を歩き芳樹と合流した。
続く。