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向日葵畑E


「助けて・・・」

はぁとため息が上から聞こえて腕を強い力で引っ張られる
やっぱり不機嫌そうなユウジ先輩の横顔が目に入って俺は下を向く

「白石が、迎えに行けって。財前が悲しんどるからって」
「・・・・」
「全部、聞いた。一人が嫌やったら、俺の家、いてもええから」
「・・・・」
「だから、もう、泣くなや」
「・・・・うん・・・・おおきに・・・・」

優しいね。ほんまに優しい人だね
だから、やっぱり泣きたいから俺は、ユウジ先輩の背中に頭を寄せる

「財前」
「ごめんなさい・・・・。すぐに泣き止むから、だから・・・」

ポンポンと頭を撫でられる
優しかった









どうか、雨がこの思いを流してくれますように

記憶がなくても、一緒に向日葵畑を見に行こう

貴方を絶対に待ち続けるから

向日葵畑D


それはまだ、中学一年のころ
俺の初恋は謙也さんで、レギュラー入りしたら告白しようって決めてた
だから、俺はめっちゃ努力してレギュラーに入って

『謙也先輩、謙也先輩、好きっすわ』

その言葉を言ったときにも空気が凍り付いて
今と同じ目をしてそして、きっと同じ事を言う

『俺、男には興味ないねん。自分、珍しくキモイで?』
「俺、男には興味ないねん。自分、珍しくキモイで?」

一字一句間違わずに呟かれた言葉に涙が溢れて。

俺は気がついたら保健室を飛び出していた。
どこに行くあてもない。家に帰る気もない
いつの間にか降り出していた雨に打たれながらどこに行こうとぼんやりと思った
いっそこのまま、誰も知らない土地に行くのもいいかもしれない
俺は、ズルリと壁に寄りかかって座り込んだ

「う・・・ひ・・・っく」

頬に伝うのは雨じゃなくて涙。
こんなに苦しいなんて

「謙也・・謙也さん・・・・謙也さん・・・・!」

あの優しい笑顔を見れないなんて切なくて苦しくて
ふいに雨がやんだ

「自分、何してんねん」

不機嫌そうに傘を差し出しているユウジ先輩がそこにいた

「ユウジ・・・先輩・・・・」
「財前?」
「ユウジ、先輩・・・・」

助けて欲しかった
どうしても辛かったから

向日葵畑C


夢を見た
とても不安定な夢
謙也さんが振り向かずに消えていく夢
怖くて、でも伸ばした手は届かなくて

(行かないで!!)

はっと覚醒する
零れ落ちた涙
俺は、乱暴にそれを拭った
寝ていた場所から起き上がると周りを見渡す
カーテンが開けられた

「お、起きたんか」
「謙也さん・・・・?」
「白石に見とけって言われてん。おきてよかったわ。『財前』」
「・・・・・・・え?」

『財前』という呼称にかすかな違和感を感じる
どうしてだろう。すごく、胸がどきどきする

「謙也さん・・・。」
「ん?」
「約束、覚えてますか?」

昼ごろに約束したもの
『一緒に向日葵畑を見に行こう』

「約束?なんのこっちゃ」
「・・・・そう、すか。俺のこと、『光』って呼ばへんのんですか?」
「?なんでや?」
「・・・・特別やっていったやないですか」
「・・・?」

きょとんとしている謙也さんを見て、俺は目の前が暗くなる
謙也さんの中で俺の存在は『ただの後輩』と化していた。

「俺は、ユウジとはちゃうねんからなぁ・・・」

しみじみと呟かれた言葉に俺は口を開いた

「謙也さん・・・・好きっすわ・・・」

瞬間、空気が凍りついた
すぐに分かった。
恐る恐る顔を上げれば、謙也さんは冷たい目をしていた。

(あぁ・・・この目に見覚えがある)

向日葵畑B


「謙也さん!?」

女がいようと関係なかった
その女を突き飛ばす形で俺は階段に向かった
鈍い音を立てて謙也さんは下の階に落ちた

「謙也!!?」

白石部長と千歳先輩が目に入る
だめだ・・・。泣きそうだ

「先輩・・・・先輩!!」

助けを求めるように白石先輩に抱きつく
千歳先輩は女をにらみつけていた。

「落ち着き、光」
「俺の・・・俺が・・・俺が、もっと早く来てたら間に合うてた・・・!!俺が!!」
「光のせいじゃないっちゃよ。」
「でも・・・でも・・・?!」
「全部、あの女のせいたい」

ギュウと白石先輩の腕の力が強くなる
それでも震えが止まらなくて白石先輩にしがみつく形になる

「大丈夫・・・大丈夫や」

大丈夫?本当に?
だって、だって、謙也さん、青白い
このまま帰ってこなくなるんじゃないかってくらい
ふっと意識が遠ざかった

「ふふ・・・あははははははは!!」

最後に聞こえたのは女の狂ったような高らかな笑い

向日葵畑


情事後、俺は謙也さんの腕の中におとなしく座る
謙也さんはなんかすごく嬉しそうだ。

「光」
「なんすか」
「もう少し、暑くなったら向日葵見に行こうや」
「はぁ・・・」
「ちょっと遠いけどな、綺麗な向日葵畑があるんやて。」
「・・・ふぅん」

うとうとと眠たくなり始め、いっそ謙也さんの体温に任せて眠ってしまおうと目を閉じた

「光、寝るん?」
「ん・・・」
「約束やで?」
「ん・・・・」

ふわりと撫でられた頭に感じた手の優しさに泣きそうになったのはきっと、気のせいじゃない





「ん・・・」

目を覚ますと、夕方だった
謙也さんはいつの間にかいなかった

(っていうか、おいて帰るか?普通)

はぁ、とため息をついて立ち上がると何かが落ちた

(MD?)

どうしてこんなものが置いてあるのか分からなかったがそれをポケットに突っ込む
謙也さんを探しにいかなければとぼんやりと思いながら廊下を歩いた。
ふいに目に入った少しむこうの廊下の曲がり角
金髪、謙也さんだった

「けん・・・」

隣にいるのはたしか白石先輩の彼女『だった』人
嫌な予感が胸を掠めた
どうしても、止めなければならないような気がして

「謙也さん!!」

聞こえてないのかそのまま廊下を進んだ謙也さんの後をあわてて追う
この先は理科室などに続く階段がある

「ま・・・・!」

曲がり角を曲がるとやっと目に入る
目に入った謙也さんの体がふいに浮いた

 

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