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シーズン


「なぁ、覚えてるか?」
「ん?何をば?」
「………秘密」

なぁ、お前は覚えとる?
俺達が初めてあったあの春の日、春の月

『綺麗とね』
『はっ?』
『桜』

桜のピンクが時の流れを彩ったあの一瞬
全てが真新しい匂いに満ちていたよな

『…そんなに見られると恥ずかしか』
『あぁ…すまん』
『…よかよか。美人に見つめられるのは役得たいね』
『び…?!俺、男なんやけど』
『しっとーよ?』

恥ずかしい奴
しれっと言うから恥ずかしくて

『…っ…白石蔵ノ介や…』
『千歳千里ばい』

はにかんだあいつの笑顔に胸が高鳴って。恥ずかしくて目線はずした空

『あ…飛行機雲や』

雲がまっすぐ未来に向かってる気がした。
「…白石」
「んぁ?」
「俺は覚えとるよ」
「何を?」

前と変わらないあいつの笑顔
そのまま胸に収められても悪い気はせんかった

「あの春のこと」
「千歳…」
「桜の下にいる白石に俺は恋ばしたと」

耳元で囁かれて必然的に顔が赤くなる
大きな体躯に体を預けると、千歳の心臓の音が聞こえる。

「…恥ずかしい奴やな。寝る」
「えぇー、くーらぁ」
「うっさい寝るんや」
「うぅ…り、理性が…」
「襲ったら一週間、近づくな」
「や、やはい!我慢する!」
「よし…」

千歳の体にくっついてそのまま目を閉じた…。



(教えてやるもんか…)



(千歳が好きになったなんて絶対に)

冬のニオイ

 

「はぁ・・・最悪」

 

電車を逃した。しかも目の前で

時刻表を見れば次の電車は十七分後

ホームにしゃがみこんでも寒い

駅の向こう、遠くに見えるビル街の明かりが俺の心をひきつける

 

「寒い・・・」

 

携帯がなって、メールがはいった

同窓会の今日

青春をともにした仲間達は浮かれてメールを送ってくる

大体同じ内容


『みんなもう、集まってる』

 

分っとるわ。なんて思いながら、遅れることを返信しようとかじかむ指先で打つ


「なんやねん・・・『遅れる。ちぎの伝書に載る』って・・・」

 

はぁ・・・とため息をついてメールを打ち返すのをやめる。変な日本語にやし
笑い好きのあいつらのことや、絶対に笑うに決まっとる


「雪が降りそうやなぁ・・・・」


冬の初めに買ったコートはもう馴染みの手触りで
マフラーを首まで上げる


「あいつは・・・・こうへんのやろな」


この前も、行方が分らんって小春が叫んどったし


「千歳・・・」

 

中学を卒業して、進路が別々になった俺ら

いつの間にか思いださない時間が増えて、今では新しい出会いも期待しとる

俺の生活にアイツがいなくても全然平気

なんて、何度も心の中で繰り返して言い聞かせてる

 

「言えるわけあらへん・・・・会いたいなんて、今さら」


あ、思い出したら涙が出そう

千歳の奴・・・油断してたら入り込んでくる

ぶり返しては治るなんてまるで、風邪の症状や、諸悪の根元やな、あいつ

千歳を思い出さないよう不器用に楽しいこと見つけてる

テニスも、毒草についても全部そんなのも悪くないのに

 

「最悪・・・」

 

思い出せば、どこかセピア色でつまらへん
電車が来て、俺は電車に乗り込む

窓から電車の外をのぞく

やっぱり、雪が降りそうや

明日、雪が降ったらお前にあえるやろか
なんてな多分、雪は降らないやろ

 

「そんなに都合よくいく分けない」


そんなに人生甘くない

 

「あ・・・雪」


雪がちらほら降ってきた
窓に映る自分と、記憶の中のお前の顔が滲んでく

 

「・・・っ・・・」


寂しい、なんていえる立場やない

さよなら、って言ったのは俺や
それでも辛くて、悲しくて窓に頭をつけて顔を隠す
白い雪も滲んでく

 

「・・・っ・・・会いたい」


言えるわけあらへん今さら・・・・。

 

電車を降りて、場所に向かう

さび付いた、フェンス

落書きの跡
その中で携帯からアドレスを引き出す
千歳、という文字を見つめた


「・・・」


高架下から続いた坂道

その途中で立ち止まって空を見上げる
白い息が白い雪の中に消えてく
指は千歳のアドレスを消去した
きっと消さんと一生消せん気がする


「蔵りーん!!」

 

懐かしい声が聞こえて、小春たちが駆け寄ってくる
俺も駆け出した


「遅いわ!」

「すまんって」
「先輩が遅刻って珍しいっすわー」

「俺やって、遅刻するわ!」
「ほら、いくで!」

 

謙也に背中を押されて坂道を登る
隣で財前が口を開いた

 

「先輩、いいんですか?」

「ん?」
「千歳・・・先輩のこと。先輩が呼べば・・・」

「ええねん」


にっこりと笑うと財前はそうですか、と呟いた
きっとこれから先ももっと思い出さない時間が増えて、新しい出会いも増えてくる
千歳がいなくても全然平気や


「それにな、財前」

「はい?」
「運があるんなら、いつかきっとどこかで出会えるやろ・・・。こんな狭い街やしな」

「そうですね・・・」


なんて・・・ほんまはそんな上手くいかへん

何度も、何度も心に繰り返してる


いつか、また会えると

そんなに上手くいかへんかな

 

「蔵ノ介!はよう!!」
「お!金ちゃんやんか!」

 

ギュッと唇を噛み締めると俺は駆け出した
白い雪が滲む
そのまま、金ちゃんに抱きついてしもうた

 

「白石ぃ?」

「すまんな・・・久々やから」
「それで感動したん?年やなぁ」

「・・・ほんまやなぁ」


思い出さない、千歳のことは絶対
それでも未来のどこかであったら、思い出すのだろう

 

だから、今はだけは泣かせて

 

 

(言えるわけあらへん)

 

 

(”会いたい”なんて今さら・・・・)

 





気象:冬のニオイ

お前の未来、俺の未来は

きっと二度と交わることを知らず

離れてく


ー夢ー


『大日本帝国の……』

お決まりのうたい文句
天皇陛下なんて、どうでもいい

「……千歳」

君が悲しそうな顔をする。
ばれないように触れてる手は冷たくて

「そげん顔しなさんな」
「せやかて…」
「俺は大丈夫ばい」

赤紙が来たと分かった時の絶望的な顔
そんな顔はさせたくないのに
させたくなかったのに

「ほんまに、帰ってきてや」
「うん」
「約束やで」
「うん。約束。だから、笑って」

君の潤んだ瞳
額にそっと唇を寄せる
ぎこちなく笑った君

「千歳」
「心配なかよ。白石」
「…必ず、生きて」

生きて帰って来てほしい
その言葉を紡ぐ前に唇に人差し指をおいた

「言ったらいけん。非国民たい」
「けど、千歳」
「大丈夫」

うん、と頷いた君の頭を撫でる。
発車の音が聞こえて、列車に乗り込んだ
扉が閉まり動きだす。

泣きそうな顔が少しずつ遠ざかる

「……っ…千歳ぇ!!」

涙をこぼして君が走り出した。

「待っとる…待っとるから!!」

君が遠ざかる
扉にもたれかかって泣いた。

君も泣いてるだろうか

笑い顔が頭をよぎる

「必ず、生きて帰るから」

君も生きていて









あれから、戦争は呆気なく終わって
君のいる街に帰ってきた

君と約束した通り生きて
だけど、君の行方は分からなかった
大阪は焼け野原になっていて。

どこもかしこも、疲れた顔をしていて、君のいた家も全部無くなっていた

「すみません…」
「はい?」
「ここに、白石という方がいなかったとや?」
「白石…?あぁ、あの子なら…」

老人の言葉を聞いた瞬間、風がふいた。








君の声が、その笑顔が、君の全てが
いつも俺を俺に返してた。









近所の小学校に来ていた
遺体を焼く煙があがる中で、場違いに明るい子供達の声が聞こえる
その中にあの子はいた

「蔵」

名前を呼べば振り向いてくれる
いつもの君の笑顔で駆け寄って来てくれる
俺はただ、抱きしめた

「…ただいま」
「…遅い」
「すまんばい。どっこも焼け野原で見つけられんかった」
「………嘘や…お帰り」

重ねた唇の温もりがただ愛しかった



痕跡

 
消えない、消えない
雨の音が耳を支配して、消えはしない五月雨の跡



乾くことのない跡は涙か
闇夜に浮かぶのは愛しき人の影




ー痕跡ー







「こら!千歳!」


はっと目を覚ます。
何か不思議な夢を見ていたみたいだ


「蔵・・・?」
「ん?」
「・・・蔵ばい・・・」
「は?頭でも打ったん?ほら夕方やし、かえるで」
「あぁ・・・うん」


ぎゅっと手を握られる
あぁ、懐かしい


「今日の晩御飯、何にしよか」
「そうばいねぇ・・・」
「千歳は、何食べたいん?」

「何でもよかよ」

「ふふ・・」


夕焼け河原
君の笑顔と一緒に歩いてる
晩御飯何にしようなんて、普通の幸せ


それは過去の夢だ


「・・・・っ・・・」


涙がこぼれて落ちる
目の前にあった普通の幸せは崩れ去って
あいつの声が、笑顔が、姿が心に染みる

生きてる

心に染みて、生きてる
それなのに、


「それでも・・・逢いたか・・・!!」


逢えない、もう、逢えない

 

「千里さん?」
「・・・」
「泣いてますか?大丈夫ですか?」


あの子の面影を背負った女の子
それでも他の人を愛しても、他の人でしかなく
幾度季節をまたいでも、消えるのが怖くて
あいつの姿が、声が、笑顔が離れて消えるのが怖くて

 

「大丈夫ばい」

「本当ですか?」

「・・・散歩ばしてくる」


あの時と同じ夕焼け
あの時と同じ河原
それでも、アイツはここにいない


「この花、綺麗やな」


聞こえるはずのない声
それでも、凛とした声


「でも、いつかは枯れてまうんやな」


凛とした姿、凛とした声
時は夕暮れ、朱に交わる


「千歳」


はっとした。アイツがここにいる
川辺に立ってる


「千歳」
「く、ら・・・?」
「千歳」


にっこりと笑ったその顔見覚えがある
忘れるわけない、忘れたことない

愛しき人


「蔵・・・」


幻じゃない、現実
こうして触れる


「泣かんといて。仕方のないことや」
「蔵、でも俺ば・・・」
「仕方のないことや」
「蔵・・・」

優しく、強い人
あいつの腕が俺の体を抱きしめた


「俺、お前を好きになれてよかった」

「蔵・・・」

「千歳は?千歳は俺のこと」

「好いとう・・・誰よりも・・・・何よりも」

「そう・・・よかった」


その唇に触れようと、影が重なった瞬間

あいつの体は離れた

まるで一つになるのを恐れるように

 

「あかん。千歳」
「蔵?」
「時間や。」

「なしてや・・・・?」

「・・・生まれ変わっても、俺を見つけて」

「蔵・・・」

「約束」


気づくのが遅しと嘲るようにあいつの体は透けていって


「さいなら」

 

水面に一人たたずむ

約束、と交わした言葉が心に種をうめる

 


「う・・・ぁ・・・ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 


さよなら愛しき人

 

 

 

 


あの日、埋めた心の種は二十日過ぎ芽吹きました

 

「あ?転校生?」

「そうばい」

 

姿、形、違えど変わらぬ愛

 

「おまえ、昔、会ったことあるか?」

「奇遇ばいね。俺も思っとったとよ」

「はは・・・」

 


優しい光・・・・・・。

 

 

 

気象組四男ー痕跡ーより

 

予告2




本当はずっと好きやった

『白石は、よか友達ばい』

伝えられへん
どうしても

「好き」

本当はずっと好きやった
こんなに傍におるのに
こんなに近くにおるのに

なんで、ただの友達なん?

「…好、き…」

いつでも愛し続けたんや
気づいて

届くことのないこの思い

「好き……千歳」










こんなに近くに…
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