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小説中心
「はぁ・・・最悪」
電車を逃した。しかも目の前で
時刻表を見れば次の電車は十七分後
ホームにしゃがみこんでも寒い
駅の向こう、遠くに見えるビル街の明かりが俺の心をひきつける
「寒い・・・」
携帯がなって、メールがはいった
同窓会の今日
青春をともにした仲間達は浮かれてメールを送ってくる
大体同じ内容
『みんなもう、集まってる』
分っとるわ。なんて思いながら、遅れることを返信しようとかじかむ指先で打つ
「なんやねん・・・『遅れる。ちぎの伝書に載る』って・・・」
はぁ・・・とため息をついてメールを打ち返すのをやめる。変な日本語にやし
笑い好きのあいつらのことや、絶対に笑うに決まっとる
「雪が降りそうやなぁ・・・・」
冬の初めに買ったコートはもう馴染みの手触りで
マフラーを首まで上げる
「あいつは・・・・こうへんのやろな」
この前も、行方が分らんって小春が叫んどったし
「千歳・・・」
中学を卒業して、進路が別々になった俺ら
いつの間にか思いださない時間が増えて、今では新しい出会いも期待しとる
俺の生活にアイツがいなくても全然平気
なんて、何度も心の中で繰り返して言い聞かせてる
「言えるわけあらへん・・・・会いたいなんて、今さら」
あ、思い出したら涙が出そう
千歳の奴・・・油断してたら入り込んでくる
ぶり返しては治るなんてまるで、風邪の症状や、諸悪の根元やな、あいつ
千歳を思い出さないよう不器用に楽しいこと見つけてる
テニスも、毒草についても全部そんなのも悪くないのに
「最悪・・・」
思い出せば、どこかセピア色でつまらへん
電車が来て、俺は電車に乗り込む
窓から電車の外をのぞく
やっぱり、雪が降りそうや
明日、雪が降ったらお前にあえるやろか
なんてな多分、雪は降らないやろ
「そんなに都合よくいく分けない」
そんなに人生甘くない
「あ・・・雪」
雪がちらほら降ってきた
窓に映る自分と、記憶の中のお前の顔が滲んでく
「・・・っ・・・」
寂しい、なんていえる立場やない
さよなら、って言ったのは俺や
それでも辛くて、悲しくて窓に頭をつけて顔を隠す
白い雪も滲んでく
「・・・っ・・・会いたい」
言えるわけあらへん今さら・・・・。
電車を降りて、場所に向かう
さび付いた、フェンス
落書きの跡
その中で携帯からアドレスを引き出す
千歳、という文字を見つめた
「・・・」
高架下から続いた坂道
その途中で立ち止まって空を見上げる
白い息が白い雪の中に消えてく
指は千歳のアドレスを消去した
きっと消さんと一生消せん気がする
「蔵りーん!!」
懐かしい声が聞こえて、小春たちが駆け寄ってくる
俺も駆け出した
「遅いわ!」
「すまんって」
「先輩が遅刻って珍しいっすわー」
「俺やって、遅刻するわ!」
「ほら、いくで!」
謙也に背中を押されて坂道を登る
隣で財前が口を開いた
「先輩、いいんですか?」
「ん?」
「千歳・・・先輩のこと。先輩が呼べば・・・」
「ええねん」
にっこりと笑うと財前はそうですか、と呟いた
きっとこれから先ももっと思い出さない時間が増えて、新しい出会いも増えてくる
千歳がいなくても全然平気や
「それにな、財前」
「はい?」
「運があるんなら、いつかきっとどこかで出会えるやろ・・・。こんな狭い街やしな」
「そうですね・・・」
なんて・・・ほんまはそんな上手くいかへん
何度も、何度も心に繰り返してる
いつか、また会えると
そんなに上手くいかへんかな
「蔵ノ介!はよう!!」
「お!金ちゃんやんか!」
ギュッと唇を噛み締めると俺は駆け出した
白い雪が滲む
そのまま、金ちゃんに抱きついてしもうた
「白石ぃ?」
「すまんな・・・久々やから」
「それで感動したん?年やなぁ」
「・・・ほんまやなぁ」
思い出さない、千歳のことは絶対
それでも未来のどこかであったら、思い出すのだろう
だから、今はだけは泣かせて
(言えるわけあらへん)
(”会いたい”なんて今さら・・・・)
気象:冬のニオイ
お前の未来、俺の未来は
乾くことのない跡は涙か
闇夜に浮かぶのは愛しき人の影
ー痕跡ー
「こら!千歳!」
はっと目を覚ます。
何か不思議な夢を見ていたみたいだ
「蔵・・・?」
「ん?」
「・・・蔵ばい・・・」
「は?頭でも打ったん?ほら夕方やし、かえるで」
「あぁ・・・うん」
ぎゅっと手を握られる
あぁ、懐かしい
「今日の晩御飯、何にしよか」
「そうばいねぇ・・・」
「千歳は、何食べたいん?」
「何でもよかよ」
「ふふ・・」
夕焼け河原
君の笑顔と一緒に歩いてる
晩御飯何にしようなんて、普通の幸せ
それは過去の夢だ
「・・・・っ・・・」
涙がこぼれて落ちる
目の前にあった普通の幸せは崩れ去って
あいつの声が、笑顔が、姿が心に染みる
生きてる
心に染みて、生きてる
それなのに、
「それでも・・・逢いたか・・・!!」
逢えない、もう、逢えない
「千里さん?」
「・・・」
「泣いてますか?大丈夫ですか?」
あの子の面影を背負った女の子
それでも他の人を愛しても、他の人でしかなく
幾度季節をまたいでも、消えるのが怖くて
あいつの姿が、声が、笑顔が離れて消えるのが怖くて
「大丈夫ばい」
「本当ですか?」
「・・・散歩ばしてくる」
あの時と同じ夕焼け
あの時と同じ河原
それでも、アイツはここにいない
「この花、綺麗やな」
聞こえるはずのない声
それでも、凛とした声
「でも、いつかは枯れてまうんやな」
凛とした姿、凛とした声
時は夕暮れ、朱に交わる
「千歳」
はっとした。アイツがここにいる
川辺に立ってる
「千歳」
「く、ら・・・?」
「千歳」
にっこりと笑ったその顔見覚えがある
忘れるわけない、忘れたことない
愛しき人
「蔵・・・」
幻じゃない、現実
こうして触れる
「泣かんといて。仕方のないことや」
「蔵、でも俺ば・・・」
「仕方のないことや」
「蔵・・・」
優しく、強い人
あいつの腕が俺の体を抱きしめた
「俺、お前を好きになれてよかった」
「蔵・・・」
「千歳は?千歳は俺のこと」
「好いとう・・・誰よりも・・・・何よりも」
「そう・・・よかった」
その唇に触れようと、影が重なった瞬間
あいつの体は離れた
まるで一つになるのを恐れるように
「あかん。千歳」
「蔵?」
「時間や。」
「なしてや・・・・?」
「・・・生まれ変わっても、俺を見つけて」
「蔵・・・」
「約束」
気づくのが遅しと嘲るようにあいつの体は透けていって
「さいなら」
水面に一人たたずむ
約束、と交わした言葉が心に種をうめる
「う・・・ぁ・・・ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
さよなら愛しき人
あの日、埋めた心の種は二十日過ぎ芽吹きました
「あ?転校生?」
「そうばい」
姿、形、違えど変わらぬ愛
「おまえ、昔、会ったことあるか?」
「奇遇ばいね。俺も思っとったとよ」
「はは・・・」
優しい光・・・・・・。
気象組四男ー痕跡ーより