影浦隊の作戦室で初めて影浦に押し倒されたとき、遊真は涙を溢した。
キスは何回も交わしていた。皮一枚を掠める程度のものから、舌を絡ませ唾液を混ぜ合わせる深い口付けまで様々で、概ね影浦から仕掛けてくる。だからその先もしたいだろうなとは予想していたし、実際その日は存外早く訪れた。
遊真は影浦と性交をすることに対しては抵抗はない。好きな人とつながりたいと願うのは、多分おかしくないと思う。ただ、気持ちに反して勇気が足りず、怖じ気づいてしまっただけなのだ。そこには行為への羞恥も含まれていて、影浦を満足させられないかもしれないという不安も混在していた。
その結果が、泣くという行動に現れてしまったのだ。影浦は珍しく困惑し、悪いと遊真の頭を一撫でして身を起こした。嫌われるかもしれない。とにかく伝えたかったのは影浦が好きという事実で、決して嫌ではないから、もう少し待ってほしいという願いだった。わかったと頷いてくれた影浦は、やはり優しい。
さて、影浦とのまぐわいに向けて遊真はまず知識の充実を試みた。親しい隊員に話を振ってみたり、その成り行きで貸してもらったえろほんとやらが主な情報源だ。どうやら彼を気持ちよくさせるには、当然だが陰部への刺激が必然で、その方法は擦ったり舐めたり、乳房に挟んでしごいたりすると効果的らしかった。遊真は男だから、最後のはないものとした。
問題は実践できるかどうかだ。遊真に男性経験はない。いきなり挑戦し、失敗してがっかりさせたくはない。となれば、練習する必要が出てくる。だが影浦以外を相手にするのは浮気だし、影浦以外としたくもない。そうこうしているうちに、影浦は二度目の誘いをかけてきた。
どうしようまだうまくできないのに。焦燥と懸念で口が思うように回らない。そして、初めてのセックスはやっぱりこわい。もう少し時間がほしいと考えて、前回を振り返ってみた。
あぁそうだ泣けばいいんだ。泣けばとりあえずは先伸ばしにできる。涙は嘘ではないし、影浦のサイドエフェクトに気取られないように申し訳なさを強く念じた。これも本当だから、当面疑念を抱かれはしまい。案の定影浦は事に及ばず、この日も何かをすることはなかった。影浦に対し多少の罪悪感は感じていたが、影浦に刺さったそれを、彼がどう捉えたのかはわからない。
その後も影浦はアプローチを続け、都度同じやり取りを繰り返すこと数回。来るべくして来たのか、影浦に誤魔化しが効かなくなる日が、ついに訪れた。
影浦隊作戦室における影浦の定位置であるソファーは今日も柔かく、背中に優しい。違うのは、両手首をソファー縫い付けてくる影浦の握力と、眉間のシワの数だ。喧嘩っ早い影浦は喧嘩に強く、筋力がそれなりについている。トリオン体の遊真が振りほどけなくはないが、拒絶はしたくない。影浦に勘違いもされたくない。進退極まり、硬直した。
「おい。オメー最初はマジで泣いてたけど、最近は嘘だっての、ミエミエなんだよ。したくないならそう言えよ。しねえから」
「し……したくないんじゃないよ。おれ、はじめてだから。かげうら先輩をきもちよくできないかもしれないから」
かげうら先輩につまんなそうにされたくない。おんなのこの方がいいって、そっぽ向かれたくない。言えば、影浦は盛大なしかめっ面を形作った。
「んなもんは、してから心配しろってんだ。それに、セックスくらいで俺が他のやつになびくと思ってんのか」
見くびられてんな。顎を掴まれ、重ねた唇から侵入してきた舌はとろけるほどに熱い。体温がじんわりと上がっていく。
「オメーは何もしなくていんだよ。俺が気持ちよくしてやる。素直にしてりゃ、俺も楽しい」
なるべく痛くねーようにしてやる。怖けりゃ俺に掴まってろ。ジーパンの中に影浦の手が滑り混んできて、ぞくりと背筋が痺れた。中心をやわやわと揉まれて、緩かな動きに刺激され下着に隠された秘部は硬度を増していく。
体が影浦を受け入れる準備をしていた。こりゃあ、今夜こそはいよいよ腹を括らねばなるまい。影浦の背に腕を回しながら、遊真は身を委ねた。
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20160124
貴方は影遊で『絶対絶命』をお題にして140文字SSを書いてください。
shindanmaker.com
お題とずれゆくはなし