2012-11-12 17:02
*ジークとベラちゃんの過去話その2
*リアちゃん巻き込んじゃったごめん
*やっと本編の一歩手前に入った感じ(まだ入ってない)
*らんくさん宅リアちゃん、ときのさん宅ベラちゃんお借りしました
かくかくしかじか。なんて便利な表現。そんなメタファーな話は置いといて、閑話休題。
今もなお泣きじゃくる彼の話によれば化け物に襲われたとのこと。いや、これでは語弊が生じる。正確には『襲われかけた』だ。
「じゃあ諦めるの?」
「うう……」
さっきからずっとこんな調子。過呼吸に陥っているのか、さっきから不規則な呼吸を繰り返し、赤い瞳からは大粒の涙がぼろぼろと留まることをしらない。
彼の話を思い返す。五つの錠と魔方陣による結界が施された『開かずの間』、そこに閉じ込められている暗闇に浮かぶ赤い眼光の化け物……。話が出来すぎている。まるでなにかの物語のようだ。半信半疑と呆れ、そして好奇心。子ども心はすでにわし掴みされていた。
「だったらさ、アタシが見に行ってあげる!」
「え」
「それならいいでしょ?」
ニコリと笑いかけて言えば、彼は無言のまま、勢いよく首を横に振った。
「じゃあジークが行く?」
「……やだ」
「ならアタシが行くからいいわよ。ジークはここで」
「やだ」
「…………どっちよ」
話が終わらない。つまり行くなと言いたいのか。
約束の放棄は如何なものかと思うが、本人はもはや戦闘不能といっても過言ではない。頑なに行こうとしないのだ。メンタルの弱さは昔から変わっていないらしい。
黙りを貫く彼に思わずため息がもれる。
「……とにかく、アタシは行くからね」
だって気になるもの。
彼をおいて邸宅に入ろうとしたその時、ぎゅっと袖を掴まれた。振り向いて件の人物の顔を見れば、一応は泣き止んだものの頬は濡れたままだし、涙がまだ目尻に溜まっているのがわかる。
「おいてかないで!」
「…………」
まったく、めんどくさい幼馴染みだと思った。
◆
「ここ?」
指を指すと彼は無言で頷いた。魔方陣の描かれた扉の前、アタシと結局ついてきたジークはいた。アタシが前でジークはその後ろ。いつもの配置パターン。
扉をじぃっと眺める。魔法についてはよくわからなかったけど、確かに異様な雰囲気であることは容易にわかった。
「鍵、開いてる……」
「ほら」と彼が指差した先をよくよく見てみれば、錠とおぼしきものが五つ、解かれたままその形を成していた。扉を一度開けてしまえば、二度目から鍵は不必要らしい。
「……じゃあ、開けるよ?」
なんだか緊張してきた。ジークも同じ気持ちなのか、肩を掴む手に少し力がこもったのがわかった。
取っ手をにぎり、ぐっと力をこめて扉を押す。扉は金属特有の嫌な音を響かせ、ゆっくりとその口を開けた。隙間から覗くことのできるそこは真っ暗闇。赤い目はまだ見えない。
更に扉を押し開ける。やがて扉は完全に開き、廊下の窓から射し込む光が僅かに部屋の中を照らした。
見た限り部屋はかなり広い作りになっていて、窓があると思われるところには黒いカーテンがかかっている。部屋の中が暗いのはこのせいだ。
「化け物、いないね」
肩越しからひょっこりと顔を覗かせたジークが言う。確かにそれらしきものは見当たらない。扉には鍵がかかっていなかった。もしかしたら逃げてしまったのかもしれない。
すると、視界の端で何かが動いた。そちらに目を向けると、ボロボロになった布の塊が見えた。
「毛布?」
「毛布だね」
お互いきょとんとした面持ちでそれを見ていると、再びその塊が動いた。明らかに、中に何かがいる。
ずるり、何かが毛布から這い出た。土がこびりついた肌、布切れをまとっただけの肢体、薄汚れた金色の髪は伸ばしっぱなしで、まるで何か獣の耳のようにはねている。そして、赤い瞳。
しかし、見てわかる通りそれは間違ってもジークのいう『化け物』なんかではなかった。風貌こそモンスターに見えるけれど、『それ』はれっきとした『ヒト』の形をしていた。
「…………ダ、レ……?」
片言のヒリノミスで話すその人は射し込む光を眩しそうに、その目を細めながらアタシ達を見据えていた。