過去話
*ジークとベラちゃんの過去話その1
*ベラちゃん出てないまじごめん
*らんくさん宅リアちゃんちょこっとだけお借りしました。
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もう何度目かわからない溜め息が漏れる。溜め息をついた分だけ幸せが逃げるなんて言うけれど、これ以上一体どんな不幸な出来事が自身の身に降りかかるかなんて、考える余裕もなかった。否、これ以上の不幸などないだろうと言える。少なくとも現段階では。
改めてそれに目を向ける。目の前には扉。それも普通の扉ではない。
まず目につくのはその錠の数。思い切り背伸びをして辛うじて届く程度のところに一つ。扉の取っ手部分に三つ。その下に一つ。計五つの錠がその扉には施されていた。
そして――
「土の防御魔法、ね」
微かに感じ取れたそれは間違いなく『彼』のものだった。
寸分の狂いもない完璧な魔方陣。錠の数も相まって、それはとても異様に思えた。そう、例えて言うならばそれはまるで『開かずの間』であった。それと同時に、自分の中で大きくなっていった違和感が明確なものとなる。これでは辻褄が合わない。
自分は彼から直接話を聞いている。少なくとも自分は彼が『少女』を『保護』し、その面倒を見るようにと依頼されている。ところがどうだ。実際今自分の眼前にある異質な『それ』は『少女』を『保護』どころか、得体の知れない『ナニカ』を『封印』しているようにしか見えない。
「でもここの鍵だよねぇ……」
ジャラッと音を立てた鍵束は紛れもなくその扉に向かって(正しくは錠に向かって)反応を示している。
「あっ!」
果たして鍵束に意志があったのかどうかこの際それは置いといて。いつまでたっても開けようとしないオレに痺れを切らしたのか鍵束にぐいっと引っ張られ、それに驚いた拍子に思わず鍵たちを束ねる輪っかから手を離してしまった。
オレの手から離れた鍵束は重力に従って落下をした後。床と衝突を果たし、まるでガラス細工を割ったかのような破片となり砕け散った。
一瞬、時が止まった。
頭の中が真っ白になって何も考えられなくなる。とにかく破片を拾い集めないと。それで鍵が元の形を取り戻すかはわからない。ただ今の最優先事項が鍵を破壊してしまったことに対してどう言い訳をするかということだった。
そこでようやく気づく。
「あ、れ……?」
どこを探しても破片など見当たらない。まるでそこには始めから何もなかったかのように。
代わりに変化が訪れた。重い扉を押し開ける、金属同士をこすり合わせたような独特な音。恐る恐る顔を上げてみると、『それ』は開いていた。黒い大きな口をパックリと開けて、早く入れと言わんばかりに扉はまた音を立てる。
「…………」
中を覗いてみるが、部屋の中は薄暗く、よく見えない。真っ暗闇が広がっているだけだ。
一歩足を踏み入れようとして引っ込める。正直な話、怖い。さっきから心臓がうるさいほどに鳴っている。このままくるりと背を向けて家に帰ってしまおうか。
そのとき、暗闇の中から微かに声がした。
思わず体が硬直する。緊張の糸が張りつめ、一切の雑音がシャットアウトされた。
もう一度、声が耳に届く。今度ははっきりと。獣のような、唸り声。
目を凝らして暗闇からじっと気配を探っていると、突如目の前に浮かび上がった赤い眼光と目があった。
「――――ッ!」
それがこちらに迫ってくるのと、オレが叫んだのはほぼ同時だった。
扉は大きな音を立てて閉まり、その音にも驚きオレは一目散にその場から走り去っていた。途中何度かすれ違う人に体をぶつけながら、必死に邸宅の入り口を目指して走った。
玄関を出たところで思いきり頭をぶつける。誰かと衝突したらしい。
目の前でおでこをさするのはよく見知った顔の幼馴染みで、彼女が眉尻を上げて口を開くその前にオレは彼女に飛び付くように抱きついていた。
(だって怖かったんだ!)