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ラストシーンは存在しておらず、

「驚いた。ねぇ、君。君はついに、羽化したんだねえ」

そう言って、お父さんは笑いました。

先月のことです。


それが、はっきりとした、最後の会話でした。






お父さん、というと、ここでは聞きなれない言葉かもしれませんね。

わたしは、何年かで呼び慣れてしまいました。
みなさんには、おじさま、と言った方が分かりやすいでしょう。


先月、おじさまはガンのために亡くなりました。

ガンが見つかってから、一年。
おじさまは、フランスからパスポートと、何枚かの紙幣だけを握りしめたバカな小娘を見て、笑いました。


「あぁ、君。目が、腫れてしまうから、まだ泣かないで。まだ、その顔をよく見せてくれ」




おじさまの体は、真っ白で、真っ黒で、灰色だか肌色だかの灰になって降りました。

空を見上げると、雲のない青空。
風に流れる子供の笑い声。

降り、散り、落ちて
散り散りに、散り散りに。


お庭に植えた、紫陽花を覚えてる?
みんな枯れてしまったから、悔しくなって、踏んづけてしまったの。

ゆるしてね。


笑窪だけがきえない。


随分、たった気がします。

瞬きのたびに、記憶は、点滅をくりかえす。
強い風、暗い部屋、たなびくカーテンから漏れる、日射しみたいに。

痛みと目眩。懐かしさで、目の奥がずんと疼く。

笑ってるの?
泣いているの?

ゆらゆらと歩きながら、ゆっくりと鼻唄をうたう。




どうか笑っていられますように


ひとりになったと実感するのは、別れた直後ではなく、その後の食事のときだった。

あのふたりを見送った寂しさは、じわじわとやってきて胸をつくが、毎日のように送られてくるメールとSkype、Facebookでそれは癒されつつある。

あの日、私はふたりを見送った。
娘と、血の繋がってない弟。

きっと、娘は泣いただろう。
弟はさっさと大学職を辞め、活動拠点をパリに移す。娘に内緒で、こっそりとだ。
驚かせて、泣かせたい魂胆がみえみえだった。

今、あのふたりはパリにいる。
恋人たちの都、芸術の母のもとに。

ひとりきりで生きてきたあの子たちは、ようやくふたりきりになれたのだ。
孤独にひしゃげて、ねじまがって、諦めて恨んで生きていたあの子たちが。
まさに、最高のハッピーエンド!だと、思いたい。

ふたりへ



人生を、長く感じた。

どうにかしたら、これを80年つづけなきゃいけないなんて絶望的。

はやく終われ

はやく終われ

無意味に生きて、死のうと考えてた。

傷は増える

痛いのは怖い

だからといって、泣くのは好きじゃない。

だってまた痛くなるから。


やさしい家族が嫌い

おかあさんが嫌い

おとうさんが嫌い

幸せが嫌い

わたしを、なにもないような気にさせるから。


泣くのを我慢できたわたしを、先生は喜ばなかった。

タンスの中で寝るわたしを、おじさまは無視しなかった。

うっとおしくて払った手。

その手は殴らないで頭を撫でた。


しばらくは、

しばらくは、意味が分からなくて息が詰まりそうだった。

ごはんは暖かい

ピアノを教えてくれる

服を買って、似合うよって言ってくれる。


これがきっと、当たり前なんだ。


当たり前って、こんなにも苦しい。



それから、

すこしづつ、思い出していった。

わたしがまだ、幸せだった頃を。

思い出すたびにつらくなった。

それでも、先生は思いで話を止めなかった。



「将来、何になりたい?」

おじさまから言われて、わたしはこう返す。

「おはなやさん。」

これは、隣の席に座っていたユキエちゃんの夢だ。

なにもかけなかったわたしに、ユキエちゃんは、じゃあわたしの夢を書けばいいよって言った。

それからずっと、わたしの夢はおはなやさん。


おじさまは、家の庭をいじり始めた。

放っておいたら花壇ができていた。

気がついたら紫陽花が咲いていて、苺の匂いもしはじめた。

バラも、一輪だけ咲いた。


それが、すこしうれしかった。




先生が、絵で何かの賞をとる。

それを美術館まで見に行って、はじめての美術館の雰囲気が好きになった。

静かで、なんだか冷たくて

生き物じゃないものの雰囲気が。

それから、わたしは先生にデッサンを習うようになりました。


おじさまは、よく作文とかスピーチの宿題の手伝いをしてくれた。

ぐちゃぐちゃになった言葉と文を、丁寧に説いてまとめていく

綺麗な字に、見とれていました。


しあわせ?

って、誰かに聞かれた。

市役所の人だったかな?

思わず、幸せですって答えた。

だって、そう答えないとここにはいられなくなりそうで。


「しあわせか、よくわからない。」

だって、たまに、幸せが憎いときがあるから。

「でも、楽しくて、一緒にいたいなって思う。」


好きだとか、愛だとか、恋だとか、セックスだとか、考えはじめたのはこの頃でした。




長くて、短かった。

濃くて、苦しくて

暖かくて泣きそうで、

なんとなくだけど、将来の夢とかもできて。


誰かの夢じゃなくて、わたしの夢。

わたしのなりたいもの。



それをくれたのは、先生とおじさまです。


ふたりがいない日のことを考えると寂しいけど…

不安だし、落ち着かないけど

ふたりに教えてもらったものは、わたしを強くしてくれました。

照れ臭くて、お父さんって言えなかった。

先生を名前で呼ぶのに時間がかかった。

でも、戻ってきたら変わっているのかも?




じゃあまた。

さよならは言いません。

いなくなる準備をしよう。


先生とは無事に、仲直りできました。

まあ、わたしが思ったより仲直りとはあっけなくできるものでした。

ケンカ慣れ?してないからでしょうか?


普通に朝起きて、おはようを言って

それからグシャグシャに頭を撫でられて一言。

「寝癖ひでえ」

なにお!?

いつもみたいに、にやりと笑う先生

ひさしぶりなやりとりに、わたしは嬉しくなってきて

落ち込んでたり、怒ってたりしてたのに、変なの。


「先生なんて、大嫌い」

なんだかめちゃくちゃにされてる。

「嫌いだけど、好きって変だね。」

矛盾した気持ちだけど、それが気持ちよかったりする。

ますます変だと思う。


それからも、先生は忙しそうだったけど、前よりも構ってくれるようになりました。

わたしが、大嫌い!!を言いまくったのが効いているみたい

思えば

はじめての反抗

はじめての口答え

だったかも?


そんなことねーよ、って呆れられそうだけど。










そして

そして、わたしはしばらくブログの更新ができません。


前にも書きましたが、進学のため、パリへ行くからです。

きっと、なれない環境だったり勉強だったりで大変になるとおもうので、しばらくお休みをします。

余裕ができてきたら、また始めるかもしれません。

まあ、そのときは、学校についてが主になりそうな気がしますけど…


閲覧をしてくれていたみなさま、ありがとうございます。

コメント、ミニメで励まされることも多かったです。


では、

すこしのお別れを。
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