「うそ…」

自分と同じスーツを身にまとった男の人を信号を渡った所にある歩道橋の上で見つけた。声をかけようと走ったが、聞いたことのない衝撃音に立ち止まる。男の人の正面にはガンツという黒い球に映し出されていた写真の人物が立っていた。男が悲鳴を上げながらそれに向けて銃を構えた瞬間、信じられないことが起きる。男の上半身が破裂して消えたのだ。

考える間もなく私は反対側へと逃げ出していた。あの人が言っていた言葉がいま何となく目の前で起こった光景と繋がる。

「助けて」

自然と言葉が口をついて出た。とにかく遠くへ、男を殺したあれから離れる為来たこともない道を決死の思いで走り抜けていく私の足は心なしかいつもより早いように思えた。もしかしてスーツの力なのだろうか。

「やだ」

明かりのついている喫茶店に逃げ込もうと息を吐いた自分を叱り飛ばしてやりたい。上空から重い音を立てて降り立つ人間のようで人間じゃない何か。さっき男を殺したばかりの化け物に前を塞がれたのだ。荒い呼吸を繰り返し、血走った目は濁っている。何もかもが形容しがたい風貌だった。私はすぐに銃を構えたが標準は定まらない。当たり前だ、銃なんて持ったことも習ったこともないのだから。

「あっ」

私の両腕が吹き飛ばされたのは一瞬の出来事だった。まるでおもちゃの人形のように、簡単に壊れてしまう。

紫色の静脈