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更新サイト変更のご連絡

いろいろと不便が多いので引越することにしました。
こちらでの更新は最後になります。
新居の方でもよろしくお願い致します。

↓の続きのようなもの

 あんなに憧れ、夢だったアイドルを辞め、芸能界から姿を消した今、穏やかな毎日と幸せが待っている。はずだった。いつしか俺は楽になる事が柵となっていたアイドルを辞めることではなく、死ぬ事だと無意識のうちに決めつけていたらしい。幸せとは何なのか。





 幾日か経った。未だ奥底に留まり続ける意志は変わらない。ならばとっとと首を吊るなり飛び降りるなりしてしまえばいいじゃないか。強く思っているだけで実行には移せず、しかし生きる気力も無く、時間に生かされ、死を望み、燻ったままの俺はどうしようもなく愚かで臆病者だった。

 隣でうたた寝をする砂月を見遣る。普段刻まれている眉間の皺は、今は無い。穏やかな寝顔だった。繋いでいた手を解き、自分の頬へと添え、そっと目を閉じた。今なら何でも言えるような気がする。そう、思った。──本当に俺はこのままでいいのか。そんな漠然とした不安が襲い来る中、自問自答を繰り返す。自問自答が行き着く先は決まって、死にたい。それだった。
 ──砂月が寝てる今だけ、黒く淀んだ思いを吐き出させて。自分の頬から砂月の手を離し、緩く広げられた掌に今の思いを一文字一文字噛みしめるように指で書いていく。時間をかけて、ゆっくりと。
 最後の四文字目を書き終えたと同時に握られた、俺の手。

「俺の為に生きろ。だから、死ぬな」

 滲む視界の中、寝転がっていた砂月が起き上がり俺を抱きしめた。握られた手はそのままに、きつく。まるで存在を確認するかのように。

「俺より先に死ぬことは、絶対に許さねえ」

 耳元で唸るように呟かれた声音はどうしようもなく苦しそうで、余計に涙腺を揺るがした。アイドルという肩書きを抜きにして、そのままの一十木音也をこんなにも愛してくれる人がいるんだと知った。──ああそうか、これが、幸せ、なんだ。だから、俺は。

「砂月のために、生きるよ」





─────
少しだけ、強くなれたような気がした。

振り切れた音也くん

わりと闇が深め





 今日で何日になるのだろうか。途方もない日数、カウントはきっと四桁。この淡く幸せで酷く苦しい毎日は、後何日、何年、何十年続くのだろう。
 みんなが望む、必然と笑顔になるようなオーラを放ち無邪気に振る舞い、時にはあざとく狙った発言をし、幸せを届けるような真っ直ぐな歌を歌う。あんなにも渇望していたアイドルという職業は、俺の感覚に置き換えると麻薬に近かった。自分の、皆の理想に近づけは近づくほど心が擦り切れ、悲鳴を上げる。

 みんなの心に響く歌を歌いながら、芸能界で必死に生きるためだ。そう自分に言い聞かせ、開けたばかりの缶に口をつけ、ぐっとあおった。飲み始めた時は苦手に感じていたはずの口内で弾ける炭酸も、今となってはすっかり慣れた。微炭酸なら、の話だが。

「おい音也」
「ん?なあに砂月」

 突然の呼びかけに、ファンには決して見せない、へらりとした気の抜けた笑顔で答える。俺を好きだと言ってくれる人達は皆、自信に満ち溢れ、強気だが優しい笑顔が好きなんだ。こんな顔は見せられない、見せられるはずがない。
 ずきずきと痛む心を無視し、そっと砂月を盗み見た。端正な顔立ちだ。それが例え眉間に皺を寄せ、確かに歪んでいても。

「それ、エナジードリンクのことだ。今朝も飲んでただろ、もう三本目か?飲み過ぎだ。最悪死ぬぞ」

 心配を含む言葉と声音に、何かがすとんと心の中に落ちたような気がした。そしてそれは、俺の中にすうっと染み、馴染み、広がった。とても甘美な響きである、と。その瞬間、知らず知らずのうちに自分の意識の水底に根付いていた意志を知った。
 ──死ぬ。ああ、そうか。俺は死にたかったんだ。生きるがために飲み続けてる物が、いつか毒となり自分の身体をじわじわと蝕むように。何がエナジーだ。馬鹿げてる。

「うん。……そうだね。死ぬ、かな」

 もう、解放されたい。呼び覚まされた意志を受け入れてから、脳内を占めるのはそれだけだった。これから先も、思い描いた理想の自分に首を締められ続けるんだ。ファンの、みんなの為に。じゃあ俺は、一生操り人形じゃないか。
 アイドルは嘗ての俺が望んだ立場であり、これがただの八つ当たりだって事は重々承知している。だけど的のない、自分ではない何かに向かって八つ当たりをする事で自我を保てているのも事実だった。

 片手に持っていた缶を軽く振れば、中身はもう、少ない。まるで毒を毒だと分かっているかのように、頭の片隅に朧気に浮かんだそれを甘受するかのように、ぐっと飲み干した。それから俺は、口元に歪な笑みを浮かべ、嘲笑混じりに言い放った。

「それもいいかもね」





─────
根付いた意志は、「死にたい」

黒子のショートストーリー

ほぼ独白。





 僕が所属する誠凜高校に負けてから、彼、青峰大輝くんは今までの素行からは考えられないほど真面目に練習するようになったらしいです。青峰くんと同じ高校に通う桃井さんが言うには、練習に参加する事自体極めて稀な事らしく。誠凜バスケ部の練習に必死になって食らいついていた甲斐があったと嬉しくなりました。そして僕が今までやって来た事は無駄ではなかったんだと、楽しそうだという桃井さんの報告を受け、心から強く思います。

 僕と青峰くんの冷め切ってきた関係は、バスケを中心にまた回り始めました。また青峰くんと一緒にバスケが出来る。時間を忘れてただひたすらに跳ねるボールを追う事。パスを出す事。シュートを打つ事。それだけで僕は幸せでした。そう。幸せ、でした。
 物足りない。そう思うようになったのは、いつからだったでしょうか。いつの間にか僕は、青峰くんとバスケをする事が苦痛になっていました。あんなに楽しかったバスケが、今は。僕が中学生の頃に感じたあの寂寥感とは比べ物にならないくらいの孤独感、そして虚無感に苛まれています。ただただ、苦痛で。なにもかもバスケのせいだと。彼からバスケを奪え。そうすれば僕だけを見てくれる。青峰くんも、バスケに注いでいる愛を転向させ、一心に僕を愛することができる。なんて幸せなんだろう。そんなことは絶対に駄目だと反する意を押し殺し、そう決めつけてからは、まるで世界がコマ送りのようでした。

 寝相が悪くベッドから落ちても尚眠り続ける青峰くんの唇に、これから僕がする事を想像してかさかさに乾いた僕の唇を、まるで詫びるかのように合わせました。もっともっと幸せな毎日が送れるはずだと、強く願って。

「テ、ツ……」

 ああ、もうすぐ青峰くんが目覚めてしまいますね。バスケが大好きな彼は、この瞬間を見たくはないだろうから。思いやりです。いつでも僕は、青峰くんを想って動くことに幸せを覚えます。
 青峰くんの投げ出された腕から続く、骨ばった大きな左手。両手でしっかり握った包丁を振りかぶり、手首に狙いを定めて、そのまま。




 耳を劈く、悲痛な叫び声でした。それさえも愛おしくて。感情のままに歪み憎悪を込め僕を睨みつける青峰くんは、これでずっと、ずっと、僕の、僕だけのものです。愛してます、青峰くん。





──────
キャラ掴めてない感を滲ませたままやらかした

ばれちゃった音也

仄暗いお話。あんまり生かされてない同居設定。





 ぽたり。腕から指を伝い、表面のワックスが所々剥がれ淡くくすんだ茶色いフローリングへと赤が落ちる。その赤は透き通った色をしており、フローリングへと落ちた今、くすんだ茶色と混ざり妙に異彩を放っている。フローリングへ落ちた赤をぼんやりと追い、俯いたままの視界に自分の髪が映り込む。自分の髪もまた、赤。
 所謂、自傷。この行為も後始末も、もう慣れてしまった。行為による背徳感、自ら傷付ける事に対しての罪悪感すらひっくるめ、いつの間にか当たり前になったこの行為。赤いインクのボールペンならどんなによかっただろう。カッターを持っていた右手の親指で腕に刻まれた赤い線をそっとなぞり、小さくため息をついた。これで何度目か。繰り返しの行為でケロイドとなり今もまだ残っている傷痕。嘗ての綺麗な腕はもう、何処にも無い。

 ──どのくらいの時間が経っただろうか。ゆったりとした動きで壁掛けの時計を見上げた。十九時五十分。もうすぐ彼が帰ってくる時間だ。弾かれたように後始末へと行動を移す。腕の処置はなおざりに、カッターを引き出しへ仕舞った。
 ピンポーン。チャイムが鳴り、もうそんな時間かともう一度時計を見上げたがまだ五分しか経っていない。そうだ、思い出した。今朝彼が言っていた宅急便だ。印鑑を持って玄関へ行き、荷物を受け取った。俺の腕を見た宅配のお兄さんのぎょっとした顔は、今までに見た変顔トップテンに入るだろう。勿論一位は以前テレビに映っていたHAYATO、もといトキヤの、罰ゲームで行われた渾身の変顔だ。

 リビングのテーブルに荷物を起き、フローリングに未だ居座り少しずつ乾いてきた己の血液を拭き取りビニール袋に纏めゴミ箱の下の方へ埋め込む。不透明なビニール袋に入れているからまさかこのティッシュに付着した赤が己の血液であるとバレることはないと思うが、念には念を、だ。後の事を考え絶対にバレないようにするのが俺、一十木音也の自傷に対するポリシーだった。再び時計を見上げたら二十時五分。患部にガーゼを当て乱雑に包帯を巻き、パーカーを羽織った。

 ピンポーン。もう一度チャイムが鳴った。今度こそ彼だ。玄関の鍵を開けに行こうと廊下を数歩歩いた所で外から解錠され、キィ、と甲高い耳障りな音と共にドアが開いた。

「わりい、鍵持ってんの忘れてたわ」
「おかえり砂月!」
「おー、さんきゅ」

 靴を脱ぎ先にリビングへと怠そうに歩いて行く砂月の姿を横目に、持ち主に置き去りにされたままの鞄をそっと抱き上げ、くすりと一つ笑みを零した。



「今日の夕飯はねえ、カレーだよ!」
「またかよ」
「えー!なんでー!美味しいじゃん!」

 会話をしながら皿に白米をよそいルーをかける。食欲をそそるいい匂いだ。後ろから微かに衣擦れの音。どうせ今日も椅子の背もたれに引っ掛けたままなんだろう。見なくても分かりつつある彼の行動に、また一つ笑みを零した。

「荷物届いたんだな」

 欲しい物は思い立った時にすぐさま買いに行く行動派の砂月が、手元に届くまで時間が開く宅配でわざわざ買った物が気になり、手に持ったままの皿をリビングのテーブルへと起き、砂月の側へ寄った。

「ねえねえ、開けてみようよ!」
「分かってる、そのつもりだ」

 砂月が引き出しから取り出したカッターで先程の行為を思い出し、冷めた目で数秒見つめたところでハッとした。チャイムに急かされ肝心な後始末を一つ忘れていた。まだその刃は、

「……おい、なんだこれ、」

 黙りこくった砂月に、同じく沈黙を返す。賢い砂月の事だ。検討がついてないという事は十中八九ありえないだろう。
 砂月は恐る恐るといった様子で顔を上げた。

「音也、お前」

 無音に包まれる室内に染み渡るように呟かれたその一言。嫌に確信を含んだその響き。いつの間にか呼吸が浅くなり激しくなった動悸を落ち着かせるかの様に、わざとらしくため息をついた。そしてわざとらしい笑みを貼り付け、こう言った。

「あはは、ばれちゃったねえ」

 ああ、最悪だ。……それはどちらの言葉だったのだろうか。
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