Green days 2 






次の休日。
誰かに聞いたのか自分で調べたのかしらないけれど、さっそく水谷はホームセンターに畑作りのための買出しに出かけた。

数時間後、車の免許を持ってない水谷が、なぜか軽トラに乗って帰ってきたので、どういうことなんだろうと縁側から様子を伺っていると、まったく面識のない人が運転席に座っていた。
パタパタと走ってきて「ただいまー」とだけ言ってまた出て行こうとする水谷を呼び止める。

「誰…あの人……」
「あの人はねぇ、さっきホームセンターで仲良しになった角田さん。買ったもの持って帰るのに配達してもらうとお金がかかるんだけど、車は無料で貸出してるからって運んでくれたんだ」
「仲良しって……」

車を見遣ると目が合ったスミダさんが車の中から気さくに笑いかけてくる。どうみても定年後の楽しみに家庭菜園始めました、っていう感じのおじさんだった。この年齢差をものともせずに友達になってしまう水谷のフレンドリーさは本当に得体が知れない。


水谷はスミダさんと買ってきたものを庭の隅に降ろし、車を返すためにまた二人で出て行った。嵐のように慌ただしく出て行った二人を見送り、残ったオレは積み上げられた鍬とかスコップなどの道具と土作りのための資材らしき山を見ていた。

鍬とか…知ってはいるけど、触ったことのないものばっかりだなぁ…
手にとって持ちあげてみると結構ずっしりと重い。こんなものを水谷に使いこなせるのか甚だ疑問だ。
新しいことを計画しているワクワク感もあるものの、途中で投げ出しそうな不安のほうがよっぽど大きい。

こんなことやったこともないだろうに、水谷が最後まで飽きずにやりとおせるんだろうか。
―――全部ムダにならなきゃいいけど。
ちらりと鍬や資材を見遣って、オレは家の中に戻った。





それ以来、水谷は平日にもちょこちょことなにか作業をしていた。呼ばれて行ってみても特に手伝ってほしいこともないらしく、オレは側で水谷の話を聞いているだけだった。

「あのねー。このへんからあのへんまでを…こーんな感じで畑にしようと思って」などと、身振り手振りとこそあど言葉だけで表現されてもわかるわけがない、オレはうんうんとわかったふりをしてうなずくだけだった。

また次の休日、水谷が水谷とは思えないほど早起きをした。よっぽど畑作りが楽しいんだろう。
水谷がゴソゴソするからオレも目が覚めてしまったので、ついでにいっしょに起きることにした。
簡単に朝食の準備をして、食べ終わると水谷は台所にいってさっさと片付け、颯爽と庭に出て行った。
いつもこのくらいすばやくやれば、いろいろ焦らずに済むだろうに。やれやれと肩をすくめる。

ちょっと遅れて外に出ると、今日の水谷はスコップを持ってなにかしていた。
隣に立って見ていれば、とりあえず草を抜きたいのだということはわかったので、オレもしゃがみこんで手伝った。それを見た水谷は嬉しそうにえへへーとひらがなで書いたような声で笑った。それはそれは嬉しそうな顔で。
一緒にやるのがそんなに嬉しいのだろうか。

……嬉しいんだろうな。

水谷はなんでも一緒にするのが大好きだ。
ごはんと作るのも食べるのも、遊びに行くのも、家でゴロゴロするのも、なんでも一緒にしたがる。
(ちなみにお風呂に一緒にはいるのも大好きだ。オレはあんまり好きじゃないけど)

だから、畑を作るのも一緒にやりたかったんだろう。
野菜が育っていくのを一緒に見たかったんだろう。

そんなこと、オレは普段考えないけれど、想像してみれば確かにすごく楽しそうだ。
オレは思わず小さく笑っていた。
なるほど。あの水谷の一人笑いはこういう風に出てくるものなんだ。

「なに笑ってんの…」と水谷が訝しげにオレを見た。
おまえがいつもやってる一人笑いだよ。とは言わずに「べつにー」と答えたら、水谷はますます不可思議なものを見る顔になった。それを見てオレはまた、ふふふと笑う。

オレがなんで笑っているのか、いっぱい考えればいい。
もっといっぱいオレの考えていることに想像をめぐらせればいいのだ。

オレが水谷のことをわかろうと、いつも必死で考えているのと同じように。








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