Green days 1  ※memoから再掲



空気は冷たくても、日差しはやっぱり春のものだ。ガラス越しにお日様の光が降りそそぐ縁側はぽかぽかと暖かい。
まだ毎日寒く感じるけれど、着実に春は近づいている。




休日の昼下がり、二人並んでぼんやりと庭を眺めていたら、水谷が「あのさ〜」と話しかけてきた。

「畑してもいい?」
「は?」

突然ぽ―んと飛び込んできた話題に頭がついていかない。
出会ってから今日まで、水谷の口から畑の話なんて一度だって聞いたことはなかった。
……というか、畑してもいい?って日本語がおかしくない?

「畑…?って?」
「うん。野菜作りたいんだけど庭に畑作ってもいい?」
「野菜作りたいって…なんでまた急に…」
「んー…えっとねぇ、こないだテレビ見てて、食べ物って自分で作れるんだよなーって思ったら、やってみたくなって」

あぁ……そういえば。
この間そんな番組見てたっけ……。

水谷の興味はとかく傾向がバラバラだ。でも話をよくよく聞いてみれば、案外水谷の興味は意外と単純で、根本が知りたいだけなのだ。
今回はいつもスーパーで買ってくる野菜が、人の手で育てられたものだということに気がついたのがおもしろかったらしい。

野菜も魚も肉も店で買ってくることしかないけれど、本当はどこかで誰かが手をかけて生産しているものだ。そんなことはわかっているつもりでも実感はない。今回はそれに気がついたのがおもしろかったのだろう。
それにしたって…

なんでわざわざ自分で作ってみようとか思うんだろ…?

水谷の話の流れを遡りながら推測している間黙りこんでいたら、畑のことを反対されていると思ったらしい。水谷は心配そうにオレの顔色を伺って「ね?ダメ?」と聞いてきた。

「いいけど…ちゃんと自分でやんなよ?」
「うん!栄口は?一緒にやらない?」
「そりゃ手伝うけど、面倒になって途中からオレに押し付けたりとかなしだからな」

「わかってるよう」
と口を尖らせて言った後、なにかイメージしているように庭の端っこをじーっと見つめて、突然にこにこと笑い始めた。

また、なにかおもしろいことを想像しているんだろうなぁ。あいかわらず水谷の頭の中は大忙しのようだ。




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