ほしのこえ -The voices of a distant star-  16





《水谷》







地平線に沈み行く夕日がアガルタの大地を赤く染める。アガルタの夕焼けは地球より赤く見えた。
まだ、アガルタでの地上戦は続いていた。
オレは夕焼けに赤く染まった空に向かって上昇したところで機体を反転し、後ろから追ってくるタルシアンにむけてミサイルを一斉に発射した。
タルシアンは、旋回しながら急降下して回避したけれど、ミサイルは更に追尾していく。

オレは、タルシアンとミサイルを追うように、地表に向け加速して降下した。
追尾するミサイルはかわされ、夕日を反射させて輝いている川の水面に落ちて水しぶきを上げて爆発した。
残りのミサイルは、タルシアンを追いつづける。すべてかわされたけれど、タルシアンは水面に接触し速度を落とした。オレは一気に追い上げて上空から地面に踏みつけた。

踏み潰されたタルシアンは、白い触手をまるで許しを乞うようにオレに向かって伸ばして来た。それを無視して、左腕のガトリングを足元のタルシアンに撃ち込んだ。真っ赤な体液が血飛沫のように噴き出し、トレーサーに降りかかる。

オレに伸ばしていた、腕のような触手が力を失い崩れるように大地に落ちた。
攻撃を止めて見下ろしたタルシアンは外殻が壊れ、中の肉体はぐちゃくちゃに潰れていた。

「…っ…はぁ…はぁ……」
オレは涙が止まらなかった。

泣いてる理由なんてわからない。
タルシアンが怖いからかもしれない。
こんな無残に殺してしまったタルシアンを可哀想と思うからかもしれない。

でも、オレは、怖がっていられないし、可哀想なんて、思ってられない。
だって、オレは生き残りたいから。


『トレーサー部隊は至急各艦隊に戻り、援護せよ』

オレは指示に従い軌道上のリシテア艦隊へ向かった。
高度が上がるに連れ、大気の色が変わっていく。
オレは、ブースターを最大まで加速し、大気圏を突き抜けた。










軌道上に見えるリシテア艦船は、無数のタルシアンと母艦を守るトレーサーが戦っていた。
オレもリシテアに向おうとしたけれど、撃墜したそばから次のタルシアンが襲って来てなかなか前に進まない。

向かってきたタルシアンを避け切れずに右腕がもぎ取られる。右腕に装備されていたビームライフルがすぐそばで爆発し、その衝撃に思わず目を閉じた。でも飛び去っていくタルシアンから目を離さないようにすぐ体勢を立て直し、左腕のサーベルを起動する。
反転し再び背後から襲ってきたタルシアンを振り向きざまに両断した。
オレはそのままリシテアへと急いだ。

リシテア艦隊と向かい合っているのは、タルシアンの戦艦。
数は同じ4艦。
リシテアより、ひとまわり小さい位の大きさだけれど、タルシアンが纏っている外殻と同じような外観で、戦艦というよりは巨大なタルシアンのようにも見えた。
そこから、次々にタルシアンが飛び出してくる。

タルシアンもトレーサーも次々と撃破されていく。
少しずつ戦域が集中して行き、艦隊戦になっていった。

リシテア艦隊の砲撃がタルシアンを打ち払いながら、タルシアン艦へ攻撃を仕掛ける。でも主砲ですらも、バリアにはじかれてしまった。
タルシアンの艦隊は攻撃するでもなく、ひたすらに直進してくる。

近距離まで迫っても、砲撃は弾かれてしまう。とうとう艦隊同士が接触し、干渉した双方のバリアが、発光し始めた。
それでもタルシアンの艦隊はさらに直進し、真っ向から突っ込んできた。
まるで、自爆だけが攻撃とでもいうように。

しばらくは押し合っていたけれど、リシテア艦隊の一艦のバリアが破損した。そのままタルシアン艦は突き刺さり自爆した。その爆発に巻き込まれ、レダ、ヒマリア、エララ、の各艦に接近していたタルシアン艦も次々に突っ込み爆発、炎上していく。

「艦隊が沈んでく!」
爆炎の中にタルシアン艦に接触していなかったリシテアの姿が見えた。オレはリシテアに向かって全速で飛んだ。

「リシテアを守らなきゃ!!」

残ったタルシアン艦がリシテアの正面から、ほかの艦と同じように突っ込んでくる。
このままじゃリシテアも沈められてしまう。

オレは、死にたくない。
地球に帰りたい。
阿部に会いたい…!


オレはリシテアの船首に立ち、ミサイルを全弾発射した。
呼応するようにリシテアも一斉に砲撃を開始した。

その砲撃とともにオレは真正面から、タルシアン艦に突っ込んでいった。リシテアからの無数の砲撃が襲ってくるタルシアンを駆逐し、目の前の進路を開いてくれる。

オレは自分が撃ったミサイルを従えてタルシアン艦へ向かった。
次々に襲ってくるタルシアンには構わず前に前に進む。
トレーサーに纏わりついたタルシアンをブースターの噴射で吹き飛ばし加速した。


この艦を、落とす。これが、最後の一撃だ。


タルシアン艦を目前に、オレは残された左腕のビームサーベルを起動した。
トレーサーのエネルギーをビームサーベルに集中させる。
リミットを越えているかもしれない長さまで伸びたサーベルを、タルシアン艦の船首に捩じ込んだ。火花を散らしながら守り続けるバリアを突破するために、残りのエネルギーをすべてブースターに集め最大出力で加速し、そのまま一気に船尾まで切り裂いた。
耐え切れずに右腕がサーベルごと引き千切れた。
制御が利かず推力のままトレーサーが吹き飛んでいく。
背後でタルシアン艦が爆発した。


よかった…これでリシテアは大丈夫…


でもオレのトレーサはエネルギーを使い果たし、ブースターも停止してしまった。自分で動くことができなくて、流されるように漂っている。
生命維持の機能だけは辛うじて生きてるけれど、コックピットの中は電源が切れて暗い。
本当に宇宙に浮いてるみたいだ…。



阿部に…会いたいなぁ……



涙がふわふわと無重力で浮いていく。
救助信号を発信する小さな赤い光が点滅していた。



誰か、気がついて。



気がついて。





「ねぇ…阿部……」









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