ほしのこえ -The voices of a distant star- 6
《水谷》
木星には衛星がたくさんある。中継基地があるエウロパもそのひとつ。
リシテア艦隊は4隻で編成されていて名前は、みんな木星の衛星が由来なのだそうだ。
それを教えてくれたのは木星に向かう前、火星にいたとき届いた阿部のメールだった。
『リシテア、レダ、ヒマリア、エララ、全部、木星の衛星の名前だな』
意外だった。
阿部なんて、ただの野球オタクかと思っていたのに。
そういえば、あの日、飛んでいたリシテアを見て、阿部は一目で言い当てたのだと思い出した。
まだ、オレには阿部について知らないことがたくさんあるんだろう。
そういうことも、残したままここまで来てしまった。
待機中、オレはコックピットの中で阿部にメールを打っていた。
『リシテア号の生活にも慣れたよ。
火星で惑星圏演習をやった後、木星まで来て、
今はエウロパの中継基地でひとやすみ。
木星の雲は眺めていて飽きないよ。
イオと木星の間のフラックスチューブもすごいんだよ。
太陽系でイチバン大きなカミナリ!』
オレはメインモニターに映る木星を見つめた。
地球とはぜんぜん違う大きさ、揺らぐ大気の雲、浮かぶたくさんの衛星。
ここから見える星々の中に、もう地球は見えない。
遠く離れてしまったんだ。
阿部は今なにをしてるんだろう?
送信ボタンの音小さくが響いた。
「とどくかなぁ…」
オレは祈るように目を閉じて、遠い地球と阿部のことを思った。
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