ほしのこえ -The voices of a distant star-  4





《水谷》








本当は、自分がこの第3次タルシアンプロジェクトの候補生に選ばれているのは、ずいぶん前から知っていた。
なんでも、小さい頃…ちょうど第三次タルシアンプロジェクトが開始した頃、それとは知らせずに強制的に行われたテストのようなもので、大まかに選ばれていたらしい。
その中から、選ばれたのが今回の選抜メンバーだった。

希望すれば、いつでも軍の訓練や演習などに参加できたけれど、オレはそれをしなかった。いつかは召集される、それを拒む気はさらさらなかった。
でも、少しでも長く普通の生活をしていたかった。特に、高校に入ってからはそう強く思った。
少しでも長く普通の生活をして、阿部と一緒にいたかったのだ。





高校1年の夏、国連宇宙軍から召集の連絡が入った。
あまりに突然だったので、家族以外には誰にもあいさつできないまま埼玉を離れた。
さみしい気もしたけれど、今はそれでよかったのかもしれないと思う。
もし誰かに…阿部に会っていたら、躊躇してしまったかもしれないから。
その後、国連軍の基地内で再び選抜試験が行われ、オレはその中に残り、その年の冬、宇宙へと旅立った。

まず向かったのは、人類が初めてタルシアンに遭遇し、今も遺跡が残る火星だった。
火星では、遺跡の探索、そしてタルシアン用人型探査機トレーサーのパイロットとして適性を検査するため 選抜試験を兼ねた実機訓練が行われた。








待機位置から火星表面に向かい指定の高度を保ってトレーサーを止める。
目の前のスクリーンに警告の文字が表示された。
瞬時にバーニアで加速し、襲い掛かるシミュレーション用のミサイルを回避した。
ミサイルは赤茶けた大地で爆発し、爆煙をあげた。

オレは機体を回転させ、標的である模擬タルシアンを探す。
地球の空の青とは全然違ういろの空の向こうに、センサーが反応した。

「見つけた…!」
要するにあいつを撃ち落すことが課題。

オレは背中に装備されたミサイルを一斉に放った。不規則な軌道を描きながらミサイルは標的を追尾していく。
ヒラリヒラリとかわしていく標的を目で追い、自分が放ったミサイルの軌道から標的が追い込まれる場所を予測して回り込んだ。
空中で体勢を制御しながら射程距離を確認する。予想通り追い込まれてきた標的に照準をあわせて、トリガーを引いた。

「当たれ!」

トレーサの右腕に装備されているガトリングを発射する
連射された弾丸はほぼ着弾して、標的は爆発した。

トレーサーの操縦はなぜか直感的にわかる。
なにをどうすればどうなるのか。
これが、いわゆる才能というやつなんだと思った。そう思えるほど、トレーサーの操縦や戦い方はすんなりとイメージできるのだ。

地球にいたときは、あんなにがんばっていた野球はあまりできる方ではなくて、くだらないミスをしては阿部に怒られていたのに。
…こんな才能、ぜんぜん嬉しくない。



オレは、この試験で正式にトレーサーに乗ることが決定した。
トレーサーは、リシテアを含む全艦隊で72機搭載されているらしい。
オレはリシテア艦隊 第八小隊に配属された。
オレの所属する部隊は6機編成で最小なのだそうだ。

「君が配属された部隊は、成績がトップクラスのパイロットばかり集めた少数精鋭だから、トレーサー隊の要だよ」
と言われたけれど、嬉しいような、喜んではいけないような、複雑な気持ちだった。


オレはその日の演習を終えて、待機中のコックピットの中で阿部にメールを打っていた。


『火星ではずーっと演習でした。
オレ、これでも選抜メンバーだからね、結構成績良かったんだよ。
オリンポス山も見たし、マリネリス峡谷も見たし、火星観光もバッチリ! もちろんタルシス遺跡にも行ったよ。

教科書の写真では何度も見た景色なんだけど、
実物を見てもなんだか信じられない感じ。
本当に、太陽系は人間だけのものじゃなかったんだなぁって』

第一次火星調査隊は、2039年、ここでタルシアンに全滅させられた。
でも、そのとき得た技術で、今ここまでやってきた。そして、ここから先へも追っていくんだ。

火星での探査・訓練を終えたら、その後次の目的地、木星へと向かうことになる。
また、地球から遠ざかる。離れたくないと思っても、オレにはどうすることもできない。


「しょうがないよね」
そう思うしかなかった。




[次へ] [前へ]



[Topに戻る]

-エムブロ-